第37話 依頼遂行
なかなかの難産でした。
この次までが、本来予定になかった回になります。
「ゴギャアアアアア!」
「うっさい!数多すぎんだよ!」
街道脇の森の中、実と早苗はゴブリンの巣の殲滅依頼を遂行中であった。
「ちょっと、こんなに多いなんて聞いてないわよ!」
「そりゃそうだ。依頼には数書かれてなかったもんな。」
会話しつつも、ゴブリン共を屠る手は休めない。依頼書には確かに数は書かれていなかったが、まさか千匹も居るとは思わなかったのだ。
「くっそ、面倒だ!早苗さん、魔法で範囲攻撃するから、漏れた分をお願い!」
「了解!」
実はすぐさま術式の展開を開始する。散々切り殺しまくったが、まだ半分以上残っているのだ。しかも、上位種であるゴブリンメイジやゴブリンファイター、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキングまでいる。
ゴブリンメイジの魔法攻撃を顕現させた魔法障壁でガードしつつ、飛竜を全滅させた魔法の術式を展開する。すでに複数の魔法の展開も慣れたものだ。
「とっとと済ませたいから、もうちょい魔力を込めようか…。よし、顕現させるよ!」
「了解!」
早苗からの合図で、魔法を顕現させる。飛竜の時とは異なり、顕現させた魔法はゴブリン達を包み込み、そのまま氷のオブジェにしてしまう。
「前は凍るのに時間かかってたけど、今日は早いのね。」
「魔力をちょっと多めに使ったからね。その代り、触ると粉々になりそうだなぁ。討伐部位確保できるかな…。」
「そう言えば、その問題があったわね。まぁ、数の指定もなかったし、その辺に転がってるので充分じゃないかなぁ。」
実と早苗がそんな事を話している間、ミハルも冒険者として活動していた。
「それは薬草ではないです。ほら、葉の筋に白い線が入っているのが薬草、こちらのはよく似ていますが、線がありません。」
「は、はい。あの、こちらのはどうでしょう。」
薬草採取依頼は初級の依頼であるが、それだけに街のすぐそばは取り尽くされてしまっており、結果として実達と共にゴブリンの巣の近くまで来て採取する羽目になってしまったのだった。
そうなると、誰かがミハルの指導をしなければならないのだが、予想以上に多かったゴブリンに実も早苗もかかりきりになってしまったため、嗣治がついて指導しているのであった。
「ああ、こちらは薬草であってます。根もちゃんと取れてますので、この調子で採取して行きましょう。」
「はい、わかりました。あ、あちらは終わったみたいですね。」
「そのようですね。しかし、千匹のゴブリンとは、こちらの冒険者ギルドももうちょっとちゃんとしてほしかったですね。」
そういえば、実達が最初に受けた依頼も情報が違っていたので、ベアル王国の冒険者ギルドで問題になったのだったとミハルは思い出した。その情報はカナディ王国までは来なかったのだろうか、嗣治も少し疑問に思ったが、今はそんな状況ではないと気を取り直し、薬草採取依頼の続きを促すのだった。
「これで二件の依頼を達成できたけど、最後の一件はちょっとよくばり過ぎだったかなぁ。」
「行きは出てこなかったけど、あの時は護衛も多かったからかしら。」
「そう思って、帰りは出てくると思ったんだけど、まだ今のところは探査範囲にも入ってないね。」
実は三つ目の依頼を達成するために、探査魔法を使って半径一キロメートル程の範囲を探査しているが、今のところそれに引っかかる人間は居ない。
「でも、いつも出没するところはもう少し先なんでしょう?」
「うん、そうなんだけど、斥候くらいはいるはずなんだけどなぁ。」
実は首を傾げ、範囲を広げていく。更に一キロ広げたところで、漸く人の反応を捉えることができたが、どんどん数が減っているようだ。
「村とかではなさそうだが…。すいません、俺らちょっと急ぎます。」
「ああ、こっちはゆっくり向かわせてもらう。」
「了解!早苗さん、行くよ!」
「了解したわ。でもどうやって?」
「そりゃ飛行魔法でって早苗さんは飛べなかったな。それじゃ、ごめん!」
実は突然早苗を抱き抱えると、飛行魔法を顕現させた。
「うひゃあああああ」
後には、早苗の悲鳴だけが残っていた。
「ごめん、早苗さん、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。実君こそ、大丈夫?」
「全然問題無いよ。さて、そろそろなんだけど。」
実は、早苗を所謂「お姫様抱っこ」の状態で飛行を続けている。予定では、そろそろのはずだ。
「あ、あそこだ!」
「え?あそこなの!?」
二人の目に移ったのは、盗賊達を蹂躙する上位竜の姿だった。
「えーっと、上位竜様、お話宜しいでしょうか?」
『何要だ、人の子よ。我は今忙しい。』
「いえ、貴方が蹂躙している輩は、私達が今から叩きつぶそうとしていたのですが、このような者相手に如何なされたのかと思いまして。」
『こ奴らは、我のたまごを盗もうとしたのだ。なので、罰を与えたまで。生死にかかわらないので良ければ、こ奴らを持って行ってもらっても構わぬ。』
「持って行くのは構いませんが、私達が倒した訳でもないものを自分たちのものとして報告するわけにはいきません。何か証明して頂けるものなど無いでしょうか。」
『ふむ、御主らベアル王国の者か?』
「はい、そうでございます。」
『ならば、我も一緒に行こう。久しぶりに知り合いにも会いたいしな。』
「はぁ。」
「ナーダ!ナーダじゃないか!」
『おぉ、ツグハルか。久しぶりじゃのう。』
どうやら、嗣治は、上位竜とも知り合いのようであった。冒険者時代に一緒に冒険をした仲間らしい。
「え、という事は冒険者だったんですか?」
『ああ、この姿では分からないであろうな。』
そう言うや否や、ナーダの体が光り、人型へと変形していく。光が消える頃には、二十歳くらいの女性が立っていた。髪の毛は青く、意志の強そうな瞳は紺色をしている。背の高さは早苗とあまり変わらないが、早苗より少し肉感的で、一言で言うなら「すごく色気のある美女」であった。
この後、嗣治とひと悶着あったものの、結局ナーダは自分のたまごを抱えたまま、ベアル王国へ同行する事になるのだった
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