第33話 カナディ王国へ
この話を書く途中、馬の歩法について調べる必要がありました。
Google先生とWikipedia先生には感謝です。ありがとう!
と言う訳で、馬の歩法についての知識は付け焼刃なので、あまり厳しい突っ込みはしないでいてくれるとありがたいです。
「では、また戻ってきたら頼む。」
「御意。では、お気をつけて。」
嗣治達の馬車がヴィント領を出立し、カナディ王国との関所へ向かう。ヴィント伯は関所の手前まで護衛すると言い出していたが、流石にそこまではさせるわけにはいかないと断りをいれた。
「さて、そろそろ関所ですね。」
「貴族用の門から出入りできるから、今回はそっちを使う。地位が絡まない時は普通の門から乳出国するんだがな。」
どうやら、お忍びというか、城から逃げ出してあちこち出歩いた事もあったようだ。最近は忙しすぎてそんな事ができないのであろう、官僚達から「王がまたいない!」という叫びが聞こえないのは国にとって幸いな事である。
「さて、カナディ王国に入ったは良いが…。」
「この護衛の数は頂けませんねぇ。」
馬車の周囲はベアル王国から連れてきた六騎の護衛の他、カナディ王国が用意した護衛が二十騎、前後左右を囲むように護衛している。
「一応先触れはしたとはいえ、あまり大々的にやられても困る。護衛を無くせとは言わないが、速度を上げたいのでもう少し減らしてはもらえないだろうか。勿論残す騎士も馬の速度が速いものに限る。」
「この二十騎、全て速度重視で選抜しております。もっと速度を上げたいのでしたら、御指示をお願い致します。」
「…そうか、ならば、この馬車の速度に合わせて頂こう。おい、『速足』で行くぞ。」
「御意!『速足』用意!」
ベアル王国護衛団及び馬車の御者が馬へ合図を行うと、馬達がいきなり駆けだした。カナディ王国の護衛団はそれを追いかけるように馬を駆けさせる。ところが、馬の走り方に違いがあるのか、しばらくすると馬上の騎士の疲れ方がベアル王国護衛団とカナディ王国護衛団で違う事がわかった。
「つ、ツグハル王、宜しいでしょうか。」
「『速足』やめ!一旦休憩とする!で、如何ですかな?」
「確かに我が護衛団では長時間ついて行くのは難しいようです。」
「まぁ、仕方ないでしょう。馬の走り方が違いますからね。しかし、どうしましょうかねぇ。」
実はベアル王国の軍馬には、「側対歩」と呼ばれる走法を教え込ませてある。この歩法は、『速足』と言われるものの一つで、上下に体が振れ難いという特徴を持つ。この場合、馬上の荷物は荷崩れしにくく、人であれば上下に振れないため疲れにくい。現代日本では、流鏑馬のように馬上で弓等を扱う時に見ることができる歩法である。
それに対してカナディ王国の軍馬は「斜対歩」と呼ばれる走法を取り入れている。馬自身の自然な歩法は「側対歩」ではなく「斜対歩」であるため、わざわざ歩法を教え込む必要がないという利点がある。上下の振れが側対歩に比べて大きいため、弓を扱うには向かず、また長時間の移動には向いていない。これが、今回の護衛団の疲れとして表れた原因である。
「流石に馬を代えるわけにはいかないからなぁ。」
「そうでございますな…。」
「と言う訳で、俺達は先に行く。護衛団の中から数人、先触れとして連絡をするよう頼む。王都には三日後に到着の予定だ。」
「はっ!護衛できず申し訳ございませんが、先触れの任、承りました!」
「では、頼むぞ。」
「はっ!」
カナディ王国護衛団団長は、新たな任務を遂行すべく、人員の選抜に入った。先触れであれば全力で馬を走らせて各街の領主が持つ兵団から馬を借り、それをまた全力で走らせて…が可能になる。一人では万が一があるので、三人程を選抜すべく団長は団員を集合させるのだった。
「側対歩って今は殆ど無いんじゃなかったっけ?」
「良く知ってるな。確かに地球上ではあまり見られない歩法だな。だが、魔法だけに頼らない戦の仕方も考えた結果、騎兵に弓を持たせた弓騎兵も編成することにしたんだ。その際、弓を射るためには馬上が安定しないとダメだから、必然的に側対歩を取り入れる事になったというわけ。」
「だけど、弓は重騎兵とかには効かないんじゃないの?」
「あぁ、だから通常の弓だけでなく弩も持たせてはある。重騎兵に効くかはわからんがな。上手い奴になると、片手で弩を操りつつもう片方で槍を使っているやつもいたな。」
さらっと流す嗣治だが、馬に側対歩を教え込むには二年から三年はかかるという。それだけのコストをかけても作るべきだと嗣治が判断するからには、今までのこの世界での戦の在り方に何か気付く事があったのだろう。だがそれが何なのか、嗣治が態々教える事は無かったのだった。
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