第30話 対策会議
突発投稿分がなくなったので、本編に戻ります。
「さて、今回の件も含めた周辺諸国への対応会議だが、各自意見はないか?」
ベアル王国王城。その中に幾つかある会議室の一つでは、今後の対策が話し合われていた。参加しているのは王の信頼する高官達である。
「あくまでも、黒幕が推測でしかない以上、いたずらに他国を刺激するのは得策ではありませぬな。」
「然り。ですが、何もしないというのは悪手ですぞ。」
「では、友好国との繋がりを強化すべきかと。」
「だが、友好国のふりをして攻め込む準備をしている国もあるかもしれん。」
出てくる意見は現状確認と先日実と話した様な内容が主で、目新しい具体案はなかなか出てこない。さて、どうしようかな、と嗣治が思い始めたその時、通常は発言を許されない一人の女性がおずおずと手を挙げて発言の許可を求めた。
「何か意見がある様だな。良いだろう、言ってみろ。発言の責任は俺がとる。」
その女性、いやメイドに発言させる。普通、高官達の会議ではメイドに発言の機会はない。それは当然ながら職務が違うからだ。だが、この会議室では多方面からの視点で議論を行うという目的のもと、中に居る全ての人に発言を許可されていた。そして発言の責任を明確にしたのは、発言内容によって彼女が罰せられる事がないようにという判断だからだ。
「あ、はい。各国の食糧と鉄の相場が落ち着いている友好国とは、同盟を組むか、条約を締結すべきだと思います。逆に高騰している国は注意すべきかと。」
「戦争準備のための買い占めか。そうだな、それは考慮に入れるべきだな。ありがとう、礼を言おう。あと、その意見は大変貴重なものだ。褒美をとらせたいが、何か希望があるなら申せ。」
「あ、ありがとうございます。」
メイドは注目に慣れていないのか、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。
「あぁ、ここではちょっと言いづらいのか。後で、教えてくれ。」
「は、はい。」
別のメイドに交代させて、会議を進める。情報機関の長を呼出し、各国に放った密偵からの報告を聞き取って相場が安定している友好国を選別する。結果、以下の事が判明した。
「やはり、一番怪しいのは聖王国ですか。」
「食糧はともかく、鉄鋼の消費が急増している。開拓が進んで農具の需要が増えたにしても、不自然な数値だ。あと、どうやらあちらの特務機関が動いているらしいな。キーケル伯爵の動きがつかめなくなっている。」
「ほぼ確定ですな。カナディ王国の方は殆ど資源の値動きもなく、人材交流も問題なく行われているようです。ここで同盟を組んでみては如何でしょうか。」
「いや、カナディ王国とは同盟は組まない。」
友好国とは同盟を組むという話ではなかったか。そう訝しむ面々へ、嗣治が説明する。
「カナディ王国は既に身内みたいなものだ。そこへ同盟などという他人行儀な決まりを持って行っても、逆に信頼されていないと受け取られてしまうだろう。」
「では、どうなさると?」
「美味い酒の一本でも持って行ってくるよ。五日程城をあけるが、その間は宜しく頼む。」
「いえ、出発は早くても明後日以降にして下さい。あと、王なのですから、それなりの人員を率いる必要があります。」
フットワークの軽い王様である。ここで了承してしまうと、すぐにでも馬を駆ってカナディ王国へ向かいそうなので周囲がすぐに出かけるのを止めさせる。もちろん重臣の言う事も嘘ではない。王が他国へ出向くときは先触れを出すのが一般的であり、しかも単騎ではなくそれなりに使用人や官僚を連れていくのが常であった。
「そういえば、ミハル様はカナディ王国には行ったことあるのかな?」
急に話が飛んで困惑する重臣達。それに気付いた嗣治が補足する。
「いや、行ったことなければ他国を見せるのも良い経験になるかなという事と、神様のお披露目かな。担当神が変わったなんて、ここ最近ではなかったからな。」
ミハルは先の会談後、ベアル王国に滞在している。また、身分を隠して魔法学院の学生生活も満喫しているそうだ。だが、ミハルは神なので、ベアル王国だけしか知らないのは少々問題だ。それに、担当神が変わった事を諸外国に発表する必要もある。その事に気付いた重臣の一人が部下を呼び出し、ミハルへの面会をセッティングするよう指示する。また、他の重臣は、先触れの使者の選定を終わらせてカナディ王国への親書の草案を練っていた。
「あとは、実を呼び出して、伊倉嬢もミハル様の護衛についてもらおうか。」
前回の実績とほのかな期待から、早苗も一行に加えることにする嗣治。その姿は、これで実との距離がもっと近くなってくれると嬉しいのだがな、とモテない息子に対する大きなお世話をする自称心優しい親父だった。
そして、会議から三日後、嗣治、ミハル、実、早苗は褒美にミハル付きを希望したメイドと護衛六騎を連れ、カナディ王国へと旅に出たのだった。
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