第28話 留学科の授業~神学~
ふと、このままだとタイトルに偽りありだなーというわけで、番外編ではないですが、留学科の授業でも。
というわけで、この話は突発です。この後もう一話くらいやって、舞台はベアル王国に戻ります。
「あー、午後から神学の授業かぁ。」
「そっか、今日はそれがあったか。」
高瀬川高校異世界留学科には、そこにしかないカリキュラムが存在する。「神学」もその一つであるが、この授業はたまにサプライズがある。こちらの世界と向こうの世界の神様がたまに現れて学生達と交流するのだ。神様が来ない事が多いのだが、予定されているわけもなく突然やってきたりするから学生としては緊張を強いられるのである。
「えーっと、今日は向こうの間担当神様かぁ。」
「先輩に聞いた話だと、かなり軽いにーちゃんって感じだったよ。」
「仮にも神様に対してにーちゃん呼びって…。」
「特に宗教がどうとかじゃないから、いいんじゃない?」
この「神学」の授業、こちらの世界の神と向こうの世界の神の基礎知識を知ることで、向こうの世界の神様に対する認識を理解するというのが目的である。こちらの神も入っているのは、最近神話とかで残っている一部の神だけ知名度があがっているのがちょっとだけ悔しいからだ。
「でも、最近変わったらしいよ。」
「そうなん?今度の神様はどんな人なんだろうね。」
「きれいな女神様とかだったらいいなぁ。」
無責任な学生の話声は、校長室にいる担当神には幸いにも聞こえていなかった。そこに居るミハルは出されたお茶を飲みながら、こちらの間の神と差し向かいに座り、午後の授業の打ち合わせを行っている。
「あの、間の神様。」
「何でしょう、間担当神様。」
「今から授業内容の変更ってできませんかね。」
「無理っす。」
「やっぱりそうですか。」
「何度も来てる神様ならまだしも、変わったばかりですからねぇ。顔見せも兼ねて必ず来て頂くことになっているんですよ。適用は初めてですけどね。」
ミハルとしては、同年代の人達の前に立つのは勘弁願いたいところだが、間の神がそれを拒否する。因みに、先ほどの規則は高校ができたときに決められたのだが、神の交代なんてレアケースがそもそも数百年単位、いや、千年単位でしか発生しなかったために適用される事なんてないんじゃないかと思われていた規則なのである。
「ま、あきらめて下さい。」
「…はい。」
「なったばかりで大変でしょうけど、フォローはしますから、リラックスして下さいね。」
「はい!」
立場的には同格な神様であるが、見た目は部活動の先輩後輩である。実年齢が学生なミハルはともかく、間の神も見た目は若い。実年齢はどうだかわからないが。
「そうそう、実君もいるはずなので、彼にもフォローをお願いしておきましょう。」
「あ、そうですね。お願いします。」
その後も打ち合わせを続け、終わった時にはお昼休み間近だった。
「と、いうわけで、今日は間担当神のミハル・サカモト様にお越し頂きました。では、サカモト様、宜しくお願いします。」
「あの、様はいらないです…。えと、只今ご紹介にあずかりました、ミハル・サカモトです。つい先日担当神になったので、全然知らない事ばかりなんですが、宜しくお願いします。」
「神学」の授業が始まり、ミハルが教壇に立って挨拶する。幸か不幸か、中学までの知人はいないようだ。まぁ、この学科に入るのは、ちょっと変わった人ばかりという噂もあるし、常識人ばかりだった同級生達もこちらに入学はしていないだろう。
「では、軽く担当神の仕事内容から説明しましょうか。」
ミハルは打ち合わせ通り、授業を進めていく。念入りにやっただけあって、スムーズに進んでいるようだ。
「間担当神は、こちらの間の神様と同じように、向こうで『間』を管理しています。基本的にこちらと向こうの間の行き来は、私か間の神様が次元の間をあけて通すのですが、以前は勝手にあけてしまう方法がありました。それが召喚、送還の魔法です。」
ミハルの説明に、だまってメモをとる学生達。この学科は一風変わった人間が多いが、入学試験に面接まであるだけあって、学力だけでなく人柄も良い人が揃っている。
「ところが、これは本来神が行うべきものを人が行うために不安定なものになってしまい、事故も発生することがありました。また、こちらの世界には魔法がありませんので、こちらの人材が向こうに流れるだけという状態になってしまっていました。そこで、神様達の間で話し合いが設けられ、召喚魔法は禁呪となったのです。
今では召喚魔法は厳罰をもって処せられる事になっていますし、私も罰を与えなければならなくなるかもしれません。そうならないよう、魔法が使えるようになっても召喚魔法は使わないでくださいね。」
ぺこり、と頭を下げて話を終える。次は質問タイムだ。後ろに待機していた間の神が次に進めるよう合図する。
「では、最後に質問等ありましたら、手を挙げて下さい。」
ここで、何人かの手が挙がる。ミハルはその中から、比較的おとなしそうな女の子を当てた。
「ミハル様は担当神になられて日が浅いそうですが、具体的にどれくらい前になられたのですか?」
「二週間くらい前ですかね。」
「え?本当につい最近じゃないですか。一体どうやってなられたんですか?」
「前の担当神に、半分無理矢理ですね。」
「そ、そうなんですか。」
「そうなんです。しかも、そのまま逃げやがったので、引き継ぎもきちんとできなかったんですよねぇ。」
ミハルの口調が段々荒くなる。実がこれはヤバいと判断し、挙手しながら発言する。
「あの、ミハル様、口調が。」
「あ、ごめんなさい。実さん、ありがとうございます。つい前の癖が。」
「いえ、大丈夫です。ところで、質問宜しいですか?」
「はい、いいですよ。」
「ミハル様は、向こうの国々をまわられたりするのですか?確か、他の神様にはあっちこっち行かれる方もおられますが。」
「うーん、今のところはないですね。でも、落ち着いて向こうの学校を出たら旅をしてみるのもいいかもしれないですね。」
え、学校?という声が聞こえる。そう言えば、年齢とか今どこに居るとかは言ってなかったなぁと思い、補足する。
「私、皆様と同じ17歳です。なので、今はベアル王国の魔法学院で勉強させて頂いています。」
「えっ、神様なのに学校通ってるんですか?」
女子学生の一人が質問する。
「そうですよ。あ、でも向こうでは普通の人って事になってますね。こちらに留学されている方が何人かいらっしゃいますけど、どうか内緒にお願いしますね。」
こちらの学生達は、神様も学校通うんだーと身近に感じ、留学生達は突然の機密事項に目を白黒させている。
こうして、神学の授業は無事に終了したのだった。
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