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第20話 異世界政治事情

所謂説明回ですね。

今回からちょっと短くなります。

「神様問題は何とかなって、取り敢えずは良かったな。」


 ふぅ、と一息をついて嗣治が実へ言った。


「向こうで俺がどれだけ動いたと思ってんだ。その成果ってやつだよ。」


 実もぐったりしている。美春の両親との連絡係、高校の転校手続き等を全て行っていたのだ。おかげで学校を数日休む羽目になってしまったが、これは仕方がない。


「すまんが、サカモト様の為だ。彼女が少なくともブチ切れたりしないで、神としての仕事さえきちんとして頂ければ何の問題もない。あとは、こちらに住み着いて頂いても良いし、諸国を見て回られてもいいだろう。教育も進んでいるそうだしな。」


 嗣治も色々と動いていたようだ。神の交代というのはかなりの一大事であり、普通は一国の問題ではすまされない。諸国への根回しやミハルへの謝罪も含めた在所の用意、神との連絡係等、やったことはあまり実とは違わない内容だが、それなりに重要な役目を負っていたのだ。


「それで、黒幕はつかめたの?」

「いや、まだだ。だが、候補は絞り込めた。」


 実の質問に答える嗣治。


 ベアル王国は、南東が海に面した、ほぼ六角形の小国である。王都はそのほぼ中央より少し東に位置している。ベアル王国の北東から東にかけて国境を接しているのがカナディ王国で、ここは多人種国家の為ベアル王国とは友好的な関係を保てている。北に位置しているのがヘスター聖王国で、ここはベアル王国は逆に普人至上主義を謳っている国だ。そのせいか、以前はかなり険悪であったが、ここのところはおとなしいように見える。そして西はウェントリア連邦。こちらはいくつかの小国が集まって、連邦国を形成している。こちらはそれぞれの国の思惑もあって、付かず離れずというところだ。南にはヘスター聖王国と同じく普人至上主義を謳うナスライア帝国があるが、こちらは主義主張よりも実利をとる方が強く、お互い不干渉を取り決めている。


「まぁ、普通に考えてヘスター聖王国一択だろうな。」

「やっぱりそうなんだ。国内の対抗組織が自分でってのは?」

「それはないな。俺はどんな意見でも聞くと公言しているし、的外れの誹謗中傷でも罰した事はない。黒幕できるほど頭が回る奴らなら、俺のところに来てるさ。」

「そうなんだ。例えば?」

「文部大臣のアレスなんかはそうだな。解放路線をとるからと言って、何でも外国に合わせる必要はない、自国の優れたところは伸ばすべきだという意見はもちろん取り入れさせてもらったさ。」


 他にも大臣級にいる人達の何人かは、その意見を実現するために嗣治によって就けられた者達である。彼らは国のため、自分の理想のために身を粉にして働いてくれているだろう。因みに、アレスは元々官僚でも大臣でもなく、街の私塾の講師であった。それが嗣治への意見具申だけでいきなり文部大臣就任という本人もびっくりの人事を経験し、今では押しも押されぬ重臣の一人となっている。


「連邦はともかく、カナディ王国とはせめて条約を締結したいかな。帝国とも不可侵条約を結べば、もっと状況は良くなるだろう。」

「聖王国を孤立化させるんだ。うちと直接接していない国はどうなの?」

「カナディ王国の北、聖王国の東になるかな、イスタン王国があるが、こちらは遊牧民族主体の国家だから、こちらとはまた違った意味で扱いにくい国だね。あと連邦の更に西にはドボルガ民主国という国があるが、実態はほぼ独裁に近いそうだ。」


 周辺国家の地理をすらすらと答える嗣治。流石に一国の王をやっているだけあって、この辺りは覚えているようだ。


「それならなんとかなりそうだねぇ。」

「まぁ、この辺はお前にも経験してもらわにゃならんから、いつか連れていくよ。そん時は宜しく。」

「はいはい、仮にも王族の一人としては仕方ないね。」

「おっ、つい先週まではいやいやだったのに、どうしたのかねぇ。」

「襲撃者達の尋問やら、サカモト様の身内のあれこれやらやってると、思う訳よ。国を預かる者の身内としてはね。」

「自覚が出てきたのは良いことだ。まぁ、だからと言って、すぐに王太子にとかはしないから安心しろ。今はその気持ちを大事にな。」

「ん、わかった。」


 実は、先日行った襲撃者達への尋問を思い返していた。彼らは一言で言えば「間違った愛国者」である。国を愛するあまり、それが変わっていくのが許せなかったようだ。

 一番大きな変化は本来どこの馬の骨とも知れない嗣治の即位なのだから、そこを本来の形であるアルテリア「女王」にしてしまえば昔と同じように戻れると「思わされた」結果、あの愚行になったらしい。リーダーの男はもう少し覚めた感じで「金の為」と言っていたが、それ以外のメンバーは大体同じだった。あと、気にかかるのは一人だけ連絡がとれない者がいるという事であったが、そちらはベアル王国の諜報機関が神の許可を得てこちらで捜索活動を行っている。元刑事の山鹿さんが指揮をとっているうえ、それなりに情報もあることから見つかるのは時間の問題だろう。


「とりあえず、明日の事は明日考えよう。」


 ソファに寝そべって漏らした嗣治のつぶやきを聞こえなかったふりをしながら、実は静かに部屋を出て行った。




 六畳の自室で、男子学生が同居中の穀潰しにお願いと言う名の命令をしたのは、襲撃事件の二日後であった。


「あいつは最近、毎日高校の方に顔を出しているそうだ。待ち伏せして痛い目を見せてやれ。」

「…はっ。畏まりました。」


 ローブの男は一瞬反応に困ったような顔をした後、諦めたかのように答えた。高校に通っているという事は、どう考えてもアルテリアの護衛だ。他のメンバーがこの事を知っていれば、襲撃を止めるかもしれない。それには、自分が犠牲になって敵の戦力を知らせるのが一番だと、彼は考えた。


「そう言えば、一昨日あのクソ高校の近くで爆発事故があったらしい。原因を探ったりはできないのか?」


 既に事は終わっている事を彼は理解した。爆発なんて、魔法であれば比較的簡単に顕現できる。だが、彼の仲間は隠密性の高いこの任務でそんな派手な事をするはずがない。と、いう事は、彼の仲間は負けたのだ。


「では宿主よ、明日は一緒に来て頂こう。」


 急に有無も言わさない重厚な雰囲気を醸し出してきた魔術師に、男子学生はカクカクと頷くのが精一杯だった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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