第19話 神様との対話
ネタがーなーいー。
というわけで、別の話用に考えていた新キャラ登場です。
「向こうの神さんに、一言言わないといけないですねぇ。」
間の神が、うーんと唸りながら声を絞り出す。いつもは神棚から声だけしか聞けないのだが、今は神棚から出てきている。見た目は中学生くらいの可愛らしい女の子で、着ている服は巫女のような衣装だ。
その間の神が唸っているのは、向こうの世界とこちらの世界の間の取決めについてである。元々、向こうの世界にあった「召喚術」という一方通行の転移魔法をこれ以上使わせない為に、二つの世界の担当神同士で話し合った結果の「留学制度」なのだ。これが守られないとなると世界間で大問題である。
「えーっと、向こうの神さんは…あれ?」
間の神がアドレス帳を開いて、向こうの担当神を探し出す。このアドレス帳のすごいところは、担当神が変わると、情報が自動的に更新されるところにある。そして、目指す向こうの世界の担当神もどうやら変わっていたらしい。
「ミハル・サカモト…?
これって、召喚されちゃった人が神にされてる!?」
間の神が慌てて関係各所に連絡を取る。置いてけぼり状態の実達は、それをぽかーんと見ているほかにしようがなかった。
「あなた達、召喚術使ったでしょ。その時暴走事故起こさなかった?」
漸く連絡がとれた間の神が、囚われの襲撃者達に向かって問い詰める。確かに半年くらい前に召喚術を行い、暴走事故も発生した。その為、対象が正常に召喚されなかっただけでなく、召喚を行った術者達も死んでしまったのだ。
「前の担当神も相当責任感じてたみたいね。召喚事故で巻き込まれた人を担当神にして、腹いせに召喚を行った国を滅亡させても良いという許可を出しているわ。」
襲撃者達の顔が真っ青になる。まさか、自分達の国がなくなってしまう可能性があるなどと思わなかったのだ。
「ちょっと待ってくれ、こいつらはベアル王国の人間だ。下手したらベアル王国がなくなっちまう。こいつらはどうでもいいが、それ以外の国民にとっては責があるとは思えない。」
発言したのは実だ。父親のあずかり知らぬところとは言え、禁呪指定された召喚術を使うという事は王国首脳部の問題であり、国民にとっては関係のない話である。彼は、まずは新たに担当神となったミハル・サカモトに嗣治が謝罪するべきで、国の滅亡はその結果次第だと言った。
「正直、ここまで馬鹿揃いだと、滅亡してもおかしくないと思ってしまうのです。」
「アルテリア様!」
「お前たちのやった事はそれ程のものなのです。私にも責があるのは否定しませんが、それでも神から禁止された事をやらかすような国民のいる国は、いずれ滅んでもおかしくないのです。」
アルテリアに厳しく弾劾され、絶望の色一色に染まってしまう襲撃者達を一瞥し、更に続ける。
「間の神様、兎に角サカモト様にご連絡をお願いするのです。こちらも嗣治に連絡をとり、謝罪の準備をさせるのです。」
「そうですね、実殿とアルテリア殿の言われる通り先ずは話し合いですねぇ。」
間の神も、事態の重大性は解っているので、変な茶々を入れる事もなく担当神であるミハル・サカモトを呼び出す。その間にも、特別に開けてもらった間を通して、アルテリアと実は嗣治へ連絡を取っていた。
「では、僕、いえ、私は元の世界には戻れないと?」
「今のところは、です。こちらの馬鹿共のせいとは言え、神になってしまった以上一時帰省は良くてもずっとは…。」
嗣治の目の前に座る可憐な少女、名前をミハル・サカモトと言い、つい先日神様になった非召喚者である。そのミハルからの嗣治は息子と同じくらいの歳の少女に対し、丁寧な口調で答えた。見た目はともかく神様なのだ。息子と同じようには扱えない。
「一時帰省ができるなら、まぁ良いですけど。あと、家族には連絡取りたいですね。」
「それは大丈夫です。連絡先を教えて頂ければ、手配しましょう。あぁ、サカモト様なら、元の世界の神を通して、ご家族に連絡するのも良いかもしれませんね。」
「はぁ、そうなんですね。」
更に向こうの世界との連絡について、更に話を詰める。細かい事は息子にやらせようと嗣治は思いつつ、ミハルの視線に気づく。どうやら自分の事を何者か訝しんでいるようだ。
「どうししました?」
「い、いえ。」
「あぁ、私も日本人ですよ。そしてこの国は日本のある高校と留学制度をとっているのです。その伝で向こうともやり取りできるんですよ。」
向こうの事だけ知っているのは、信頼を勝ち取る上でも得策ではない。嗣治はあっさりと自分の事だけでなく、留学制度についても話した。ミハルはその内容に驚いた顔をしている。どうやら高校を知っているようだ。「異世界留学科」なんてある高校は他にないはずなので、このくらいの歳の子達には有名なのだろう。
「も、もしかしてその高校って…。」
「K県の私立高瀬川高校です。ご存じでしたか。」
どうやら予想通りだったようで、納得していた。そして、更にミハルが嗣治へ話し出す。
「私もK県出身なんです。どうか家族に連絡を取っては頂けないでしょうか。」
「そうですか、それは良かった。すぐに手配しましょう。おい、実、後でご家族の方に連絡してこちらに来てもらうようにしてくれ。一時的なものだから向こうも大変だろうし、取り敢えず二泊くらいで。その後はこちらのサカモト様とのお話合い次第だな。」
「了解。ではサカモト様、こちらに連絡先とご両親のお名前を記入お願いします。あ、それと身元のわかるものがあれば、一時お預かりする事は可能でしょうか。」
「あ、はい、学生証でよければ。」
嗣治は実を呼び出すと、今後の段取りをを伝えた。向こうでは実にやらせとけばなんとかなるだろうと軽く考えていたのは内緒だ。
実は学生証を受け取ると、軽く記載事項を確認した。やはり事前に聞いていた通り学生証の性別は男で、今目の前に居るのはどう見ても女性だ。だが、写真の顔は目の前の顔と同じなので元から女性っぽい子だったのだろうと予想した。だが、そんな事を言う訳にもいかないので、取り敢えずあたりさわりのない事を言ってお茶を濁すことにする。
「あぁ、隣の市なんですね。早ければ明日にもご両親をお連れできると思いますので、こちらで暫く御寛ぎ下さい。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
実は一礼して出て行った。これから急いでミハルの両親へ連絡を取らなければならない。彼の父親がこの件に関して、実に放り投げた事には気付かず、転移門へ向かった。
「あいつ、あれでも緊張していたんですよ。同年代とは言え、神に会う事は殆どないのですから。サカモト様が向こうと同じ感覚でおられるので、少しは緊張もほぐれたようですがね。」
実が部屋から離れたのを確認して、嗣治が意地悪く言う。嗣治としては、今回の件はあまり大事にならないだろうと予測していた。何故なら、召喚事故が発生して暫くたっているのに、何もなかったのだ。誠意を持って謝れば、自分達については許してもらえる可能性が高いと嗣治は考えていた。
「それで、謝罪の件ですが…。」
「はい、実行犯と、背後に黒幕が居れば、そちらの捕縛と、そちらの国の刑法に沿って処罰をして頂ければ良いです。私が罰を与えたところで、この体が元に戻るわけでもありませんし。」
やはり、ミハルは嗣治の考え通り、犯人については結構怒っているが、それ以外の人たちについては謝られる事でもない、と考えているようだ。だが、このせいでミハルは男性ではなく女性、しかも神として生きていかなくてはならなくなったのだ。
「本当に、申し訳ない…。」
嗣治は、再度頭を下げた。それに対して、ミハルは逆に恐縮して慌ててしまう。と、その時ミハルが何やら気付いた事があったようで、嗣治へ問いかけた。
「そう言えば、私は前の神からは殆ど何も聞いてないに等しいのですが、神としての能力ってどんなのがあるんでしょう?」
「あぁ、それについては、こちらの神の一人が責任持って指導しますって事ですから、心配は不要ですよ。」
嗣治は、神との折衝を何度も行ったことがあるので、この辺りは多少知っている。なのですらすらと答えた。ミハルはそれに対して安心したようで、胸をなでおろした。
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仕事疲れも吹き飛ぶ勢いです(でもやっぱ疲れてて、ヘロヘロですけど)。