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第16話 色々な思惑

増えたキャラクターを上手く動かせないです。

一応見直しはしてますが、後でまた見直しが入るかもしれません。

「くそっ!何で高瀬川高校の異世界留学科なんてわけのわからん科の人間に負けなくっちゃならないんだ!」


 その男子学生は、この近郊では進学校で有名な高校の制服を着ていた。しかし、その顔は憎しみで醜く歪んでおり、全身をわなわなと震えさせていた。

 彼の手には、その原因である全国模試の結果が握りしめられていた。それに記載されている彼の順位は決して悪くはなかった。いや、進学校の生徒として見ても、かなり良い順位であった。ところが、新設の私立高校の、それも「異世界留学科」なる意味不明な学科の女子生徒が彼よりも順位が上であるという事実は、彼の矜持を傷つけるのに十分であった。


「この屈辱、いつか晴らしてやる。」


 男子生徒の心にどす黒い怨念が沸き起こっていた。




「それで、本当に魔法とやらが使えるんだろうな。」

「勿論でございますとも、宿主殿。」


 男子生徒は既に大学生になっていた。あの模試から大きく調子を崩し、元々志望していた首都圏の有名大学にも落ちてしまったため、地方の私立大学に通っていた。そして、居間の向かいに座っているローブ姿の男が恭しく頭を下げる。


「あの女、俺の人生を狂わせやがった河内とかいうやつを魔法で消し炭にしてやる。」

「河内?その女、異世界留学科の出身とか聞きましたが?」

「そうだ、お前らの世界にも短期留学で行ったことがあるそうだ。」

「そ、それは何年前の?」


 急に慌てだすローブ姿の男。男子生徒はその変化に気付かず答えた。


「何でも3年程前らしいぞ。」

「!」


 驚愕するローブ姿の男。流石にその雰囲気に気付いた男子生徒が、訝しげに聞く。


「どうした、やつの事を知っているのか?」

「い、いえ。何でも。」


 明らかに動揺しているが、なんの力もない自分が問い質してもまともな答えが返ってくるとは思えない。そう結論付けた男子生徒は、少し話を変えることにした。


「それで、お前らがこちらの世界に来たのは、女王と王子の誘拐だったか。」

「誘拐ではございません、保護でございます。本当ならば、アルテリア様が我等が国の女王となるべきお方。きっと騙されて、この世界へと追いやられたに違いありません。」


 それじゃ王子はどうなんだ、と男子生徒は思ったが、きっとこれも騙された末にできた子供だとでも言うだろうと予想がついたので、それについては黙っていた。




「さて、アルテリア先生、いっちょ模擬戦でもやりましょうか。」

「私との模擬戦をストレス解消に使わないでほしいのです。」


 生徒たちの特訓の休憩時間を利用して、浩子がアルテリアに模擬戦を申し入れていた。浩子が言うには、実戦を目で見て、良いところ悪いところを確認しあう事も大事な事だというのであったが、どう考えても浩子のストレス解消である事は明白だった。


「だって、大学では魔法ぶっ放せないんですもの。」

「可愛く言っても、内容は不穏なのです。ヒロコの魔力で魔法を顕現させたら、大学が瓦礫の山になってしまうのです。」

「そんな事はしませんよー。」

「ちょっとと言いつつ、実習棟の屋根をきれいさっぱり消し飛ばしたのは、どこのどなたなのです?」

「うっ、…私です。」

「では、我慢するのです。暴れたかったら、ベアル王国騎士団にでも入れば良いのです。」


 アルテリアまで、浩子をスカウトしている。それ程までに浩子の魔力と個性は強烈であった。短期留学中に発生した事件をほぼ一人で解決に導いた件は、王国首脳部に知らぬ者はいない。魔力量が普人族に比べて多い魔族より、更に多い魔力量、躊躇いもなく街中でも魔法をぶっ放す大胆さ、そして突っ走ったら止まらない行動力、全てが魔族の常識範囲外であった。


「そんなわけで、生徒達は模擬戦なのです。ヒロコはフォローに徹するのです。」

「はぁい。」


 生徒達の模擬戦が始まった。最初は一対一、そのうちランダムに組み合わせたチーム通しでも戦いを経験させていく。


「留学生組についてはアルテリア先生から指導があるので、そっちで聞いてね。で、こっち側の人達についての指導なんだけど、模擬戦で感じた事をぱぱっと言うね。

 木葉君は今でも高水準だけど、ちょっと纏まりすぎかな。全部もっと上を目指せるはずよ。まぁ、立場的には自分で動かずに能力ある人を使うくらいがいいんだろうけど、そんな性格でもなさそうだしね。

 伊倉さんは魔法は身体強化くらいしか使えないけど、剣の腕は流石よね。このまま行けるところまで行くのが良いみたい。私もお邪魔して一緒に鍛えてみようかしら。

 最後に浩一郎だけど、魔力量はそこそこだから、前衛よりは後衛で支援系が良いかしら。攻撃魔法よりはバフ、デバフ系の方に適正があるみたいよ。」


 浩子の指摘はなかなか的を射ており、大変参考になったようだ。特に浩一郎に関しては今まで戦いそのものに関わったことがなく、魔力制御もやったことが無かったため、適正が解ったのは良いことであった。


「それじゃ、おねーさんとも模擬戦しよーか。」

「謹んでご辞退申し上げます。」


 浩子の申し出に全員が辞退する。しかし、浩子はニヤッと笑うと、突然術式を展開した。


「うん、これで逃げられないね。」

「強制ですかい。」

「モチロン。三人同時でもいいわよー。」


 周囲を結界に包まれて、三人とも一瞬げんなりとした表情をしたものの、すぐに戦闘態勢を整える。


「それじゃあ、こっちから行くよ。」


 浩子は土魔法で剣を作ると、先ずは浩一郎へ向かう。それを早苗が迎撃しようとするが、その直前に魔法で進行方向を急激に変えると、実へ氷弾をぶつけてきた。

 実も油断はしておらず、最初の位置から浩子の後方へ移動していたのにあっさりと行動を読まれて攻撃を受けてしまった。


「ちっ!」


 素早くシールドを展開して氷弾を防御した時には、術式展開に戸惑う浩一郎が姉の一撃を受けて倒れるところであった。


「次はどっちにしようかな。」


 まるで食後のデザートを選ぶかのような口調で、浩子が言う。その間も早苗が攻撃を仕掛けるが、ふわりふわりと羽毛のように避けている。


「こっちからも行きます!」


 実が二刀を作り上げ、浩子に向かっていく。浩子を挟んで反対側だと、浩子自身が壁になり、早苗の姿を見落とす可能性があった為、斜めから切り込む。


「考えたね、でも、これだとどうかな?」

「えっ!」


 浩子は早苗との距離を詰め、ほぼ密着状態になる。早苗は間合いを取ろうとするも、浩子が巧みに位置を変えて実からの魔法攻撃を封じ、更に早苗との距離を詰める。


「これならっ!」


 真っ直ぐ下がると言う早苗の手は悪手であった。早苗の間合いは、同じく剣が得物の浩子にとっても間合いなのだ。しかも下がると言う行為の為に咄嗟の攻撃も防御もできない状態にあった早苗は、浩子の一撃で脱落となる。


「勝てる気がしないんですが、ギブアップしてもいいですか?」

「ギブアップは却下です。」


 実の言葉に浩子は笑顔で返すと、火の弾幕を顕現させる。実は浩子の周りを時計回りに周り弾幕を避けながら、距離を詰めていく。普通に同じスピードだとすぐに読まれてしまう為、ランダムに移動速度を変える小細工も忘れない。


「木葉君は、良く見てるわねー。武器も双剣なら超近接でも戦えるし、それ以上離れると、今度は魔法攻撃が飛んでくるって寸法ね。」

「そうですね、武器こそ違えど、戦い方は似てるんですよねぇ。」

「なら、勝負を決めるのは何か、わかるわよね。」

「移動、術式展開の速度、ですかね。」


 答えつつ、ジワリと近づくも、


「半分正解。応えは、速度と魔力量。」


 浩子は、全方位弾幕の術式を三重に展開させる。実はとっさにシールドを顕現させるも、弾幕の速度が予想以上に早く、いくつかの攻撃を受けてしまう。


「ちょ、これは流石に無理…。」


 シールドの顕現で足を止めてしまった実は、そのシールドを破壊せんと弾幕が殺到したのを目にしてあっさりと抵抗を諦めた。




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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