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第15話 河内家

筆が進まない…。

ストックがやばくなってきてます。

 夕暮れの帰宅路、ユーリーと浩一郎は肩を並べて浩一郎の家へと向かっていた。今回の留学ではホームステイも兼ねているため、各人世話役や教職員の家で寝食を共にする事になっていた。


「狭い家だが、どうぞ。」

「充分広い家だ、こちらの世界では皆ここより広い家を持っているのか?」


 ユーリーの返事は少し頓珍漢なところがあるが、ほぼ問題ない。浩一郎は母親にユーリーを紹介すると、彼女を住まわせる部屋へ案内した。


「部屋はここを使ってくれ。」

「うん、了解。」

「あと、食事はうちはみんなで食べる事にしているので、少し遅くなるが、親父が帰ってきてからという事が多い。あと、風呂掃除は当番制だけど、ユーリーはしなくていいからね。」

「いい、やる。」

「まぁ、風呂掃除の当番についてはうちの母親に相談してくれ。それから、トイレは一階にあるけど、朝は長く籠るバカが居るから、そいつより前に入るようにした方がいい。」

「バカで悪かったわね。」


 浩一郎の説明途中に割り込んできたのは、二歳年上の姉である。名前は浩子と言う。


「この子が向こうからの留学生なのね、可愛い!」

「ユーリーさんが困ってるから、あんまりべとべとすんな。」

「い、いや、大丈夫。」

「ユーリーちゃんって言うんだね。お許しも出たことだし、ちょっとお姉さんと楽しい事をしようか。」

「余計な事はすんなよ。」

「ぶー。」


 ぶーたれた浩子を置き去りにして、取り敢えず居間に戻る事にする。今日は父親も早めに帰宅すると言っていたので、運が良ければ外食+温泉だ。


 高瀬川高校のあるK県T市は、温泉が湧く。そのおかげか、市内にはいくつかの温泉施設があり、比較的安価で温泉に入ることができる。共同浴場は一人二百円だし、通常のスパ施設でも六百円でゆっくり露天のある複数の大浴場に入ることができる。


「あんた、今ユーリーちゃんの入浴シーン想像したでしょ。」

「温泉に入りたいのは確かだが、そこまで想像はしてねーよ。」

「?」


 勘が鋭い姉と、温泉がよく解っていないのか、きょとんとしているユーリーを連れて、母親の元へ向かった。今日これからの予定を聞かなくてはならない。




「ふぃー、生き返るね。」


 浩一郎からおっさんみたいな声がもれたが、疲れた体を温泉のかけ流し大浴場に浮かべるだけで疲労が溶け出していくような感じがしてくるものなのだ。

 結局、あの後は父親の帰りを待たずして買い物、外食、温泉入浴のルートとなった。買い物はユーリーの衣類がメインなので、浩一郎としてはその間だけでもどこか別の場所に居たかったのだが、姉と、ユーリーがそれを許さなかった。


「ユーリーちゃんのお世話係なんだから、ちゃんと服も選んであげなきゃ。」

「私には、こちらの服装が似合っているかわからない。だから一緒に見てほしい。」


 などと言われては、逃げる訳にはいかなかった。その結果、愚姉プロデュースのユーリーちゃんファッションショーでは色々と意見を言わされるハメになってしまったが、向こうでも見れなかったユーリーの可愛らしい格好が見れたので、浩一郎にとって収支はプラスであった。


「よう、浩一郎んとこも今日はここなんだな。」


 広い湯船の中、浩一郎の近くに来たのは実だった。ディバイン、サフィアスの二人は、体を洗っているようで姿が見えない。


「まぁ、泊まりのお客さん来たら、最低一回は来るからな。」

「そうだよな。ところで、よく女の子のホームステイ受け入れたな。普通、異性の家になんて泊めないぜ。」

「うちは不出来な姉がいるからね。そこは大丈夫だったよ。」

「もしかして、伝説の『河内先輩』って…。」

「そう、俺の姉。」


 実の視線が、同情を含んだものになる。それだけの逸話を高瀬川高校に残しているのだ、河内浩子という存在は。


 河内 浩子


 河内家の長女で、文武両道を体現した存在。異世界留学科という、普通の教科の比率が普通科に比べて少な目な科にいながら、全国模試では五十位以内を常にキープし、体を動かせば軽く県代表レベルの結果をたたき出していた。その上、なんと純粋な日本人でありながら魔法があちらの人以上に使えるのだ。

 そんな浩子だが学内での生活態度は決して良いものではなく、何度かアルテリアから鉄拳制裁を受けている。だが、その時もそのまま受けるのではなく逃げながら反撃までするため、周囲の被害が甚大なものになってしまっていた。


 「浩子ほど、戦い甲斐のある生徒はいなかったのです。」


 とアルテリアに言わせた人物なのである。因みに息子の実は別として、早苗は剣メインなので何でもありな「戦う」というのとは違うし、ディバイン、サフィアスに至ってはそれ以前の話だ。


「こっちの世界であんだけ魔法使える人、いないもんなぁ。」

「魔力の保有量からして、異常なんだと。」

「向こうの魔法騎士団にスカウトしたいくらいだね。」

「やめてくれ。魔法騎士団が滅茶苦茶になる。」


 冗談とわかってはいるが、そう返さざるを得ない。なんと言っても、実は次期国王なのだ。王宮で実が一言言えば、正式な召喚状になる可能性だってある。


「ま、冗談はさておき、明日以降もアレには来るのか?」

「ユーリーは行きたいと言ってる。手っ取り早く強くなれるからな。」

「そっか。明日からは母ちゃんも本腰入れるって言ってたから、覚悟しとくようにな。」


 ディバイン達の姿が見えたので、実はそこへ向かって行った。残った浩一郎も、そろそろ上がろうかと背伸びをしながら周りを見回した。


(ん?)


 視線の先に、外国人風の男がいた。実のところの留学生でも、それ以外の留学生でもない。しかし、その男は実の事を知っているのか、そちらの方を目立たないように凝視していた。


(明日、実に伝えておくか。)


 浩一郎はそう思うと、男の特徴をそれとなく観察し始めた。




 次の日の放課後も、アルテリアによる剣術及び魔法訓練が行われた。その際、浩一郎は実に昨日の一件を伝えた。


「そっか、わかった。ただ、ああいうところで探査魔法やっても人が多すぎてうまくいかないんだよなぁ。」

「それは実が未熟だからなのです。探査魔法は、対象の絞り込みができないと意味がないのです。後で特訓なのです。」

「うぇぇっ!」


 どうやら伝えた場所が悪かったようだ。がっくりと肩を落とす実に軽く謝ると、浩一郎はユーリーの元へ向かった。一緒に術式展開の訓練を行うためだ。

 術式展開の訓練は、一人よりは複数人数の方がやりやすい。他の人の展開の仕方を参考にできるし、一人では術式展開に必要な魔力を出せなくても、複数人数であれば、他の人が展開した術式より漏れた魔力を流用する事ができる。同時に、展開時は空気中に漂う魔力が引き寄せられるので、更に負担が減ることになる。


「ユーリー、術式展開の仕方を教えて。」

「ん、わかった。」


 相変わらず口数は少ないが、表情は多少豊かになったようだ。微笑んで返事をしてくれる。

 尚、名前を呼び捨てにしているのはユーリーの希望であり、浩一郎が勝手に呼び捨てにしているわけではない。


「魔術師としては、学院の生徒には勝てない。彼らに聞いた方が良い。」

「いやいや、彼らは既に先生にしごかれてるから。」


 その言葉通り、ディバイン達学院の生徒は、アルテリアによって術式展開の特訓を受けていた。実も一緒だ。早苗と、トマスは、木剣で型の練習を行っている。


「そうか、それな「おねーちゃん参上!」」


 ユーリーの言葉に思いっきり被せて現れたのは、浩一郎の予想通り浩子だった。昨日、アルテリアの魔法訓練が行われていると言う事を知った浩子が、物凄く興味を持っていたのだ。


「河内さん、何用なのです。」

「先生、私も参加させてもらいたいであります。」


 アルテリアの質問に、何故かビシッと敬礼して答える浩子。


「…まぁ、いいのです。それでは、そちらの二人に魔法制御を教えてあげるのです。ヒロコもそのくらいできないと、向こうで後進を導く宮廷魔導師にはなれないのです。」

「ふふん、私の夢を覚えておいて頂けましたか。それじゃ、アルテリア先生の御眼鏡に叶う様、しっかりやりましょうかね。」


 苦笑交じりに指示するアルテリアに、嬉々として応える浩子。ある意味最強の師弟と言っても良いこの二人に、浩一郎は、悪寒を感じるのだった。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ご意見、ご感想お待ちしております。

あ、評価もお願いします。全然ないので寂しいです。


次回は7月18日0時を予定してます。

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