第12話 犯人を拘束しに行こう
書き溜めが減っていきます。
あと、戦闘シーンってやっぱり難しいですね。
「各隊、この後予定通りに配置につくように。こちらが武力で突入する時は、ファイアを空に放つ。予想では事前に反撃してくるとは思えないが、もし突入前に敵の反撃があった場合、まずはシールドで防御する事。兎に角こちらの損害を可能な限り出さない事。以上、質問は?」
嗣治の指示に、全員が了解の合図を送る。実や早苗もその場で頷き、了解である旨を示す。
「では、解散!」
様々な格好の人達が散っていく。直前まで気付かれないよう、全員が変装しているのだ。
「それで、俺らは堂々と正門からか。」
実がいる第一隊は、実、継治、アルテリア、早苗、ディバイン、サフィアスの六人で構成されている。そして、全員が貴族の外出着っぽい格好をして、馬に乗っていた。因みに、早苗も小さい頃に乗馬の経験があるそうで、特に問題なく馬を操っていた。実はアルテリアに教わりながらも、何とか操れている。
まるでちょっとした貴族の遠出といった感じだが、そのうち二人は緊張の極致にいた。
「ミーノールー!この編成はわざとか!」
「俺も今日知ったんだよ。」
「はっはっは、実の友達なら、離れたところに配置するより、みんな一緒の方が良いじゃないか。」
「そうなのです。他の隊は兎も角、この隊は比較的自由に過ごしてて良いのです。」
「二人とも、もう開き直った方が良いわよ。王様じゃなくて、友達のお父さんって感じでね。」
「それができれば、こんなに緊張しないよ。」
サフィアスが力なく言う。流石にこの状態は軽く流す事ができないようだ。昨日、一昨日も依頼兼特訓につき合わされてアルテリアには多少慣れて来たものの、流石に王と一緒だと居心地が良くない。そんな二人に、嗣治が追い打ちをかける。
「今回の第一隊の役目はとても重要で、戦闘になる可能性がとても高い。だから、君たちには俺達と一緒に行動してもらおう。そして、ここで上手くやれたら、騎士団への推薦状を書いてあげよう。」
王が推薦状を書いてくれるという事は、その時点で騎士団への入団がほぼ決まったようなものだ。だが、それは同時にプレッシャーにもなる。
「さて、もうすぐマールだ。皆、準備はいいな。」
「「「「はいっ」」」」
「はいなのです。」
王が居る王都から、マールまでは馬車でも二時間程度で到着できる。他の隊との調整もあり、約三時間かけてゆっくりやってきた第一隊の面々は、マールの街に到着した。
「なにっ!国王自ら、遠出のお誘いだと!?」
マール領主アーノルド・マルクレッセン子爵は、客が居るにも関わらず思わず叫んでしまった。王都からさほど離れていない街のため、父親が領主の頃は何度かそういう誘いがあったのだが、代替わりしてからは初めての事である。
「どういう事だ!我々は何も聞いておらぬぞ!」
北の山を実質管理しているダルド伯爵も声を荒げる。ここから馬車で二日程のダイグラントの領主であるアッカルロ子爵は、早々に逃げだす準備を始めた。そもそも今日の集会は、あの商人が言い出したことなのだ。だが、その商人は来ず、一番来てほしくない国王が、王妃や護衛を引き連れてやってきたのである。明らかに詰みであった。
「えぇい、ダルド伯爵、アッカルロ子爵、暫くそこの隠し部屋で隠れていて頂こう。私が悪しき国王と対面し、自ら討ち取ってくれる。」
絶対無理だろうとダルド伯爵もアッカルロ子爵も思ったが、他に良い手があるわけでもなく、急き立てられるように隠し部屋へと追いやられた。そしてマルクレッセン子爵は、にやりと口をゆがめると、執事に向かって指示を出した。
「こうなったら、一蓮托生だ。ふふふ…。」
館奥の応接間に通された木葉一家+αの面々は、小声で話し合いを行っていた。
「ふむ、こりゃあ一番なってほしくない状況のようだな。」
「どういう事なのですか?」
「伊倉さん、普通は遠出の誘いなんだから、館の中には案内しないんですよ。待たせるにしても、こんな奥ではなく、玄関に近い方にするはずです。」
「そうなのです。それに、部屋の外に封印結界を張ろうとしている魔力を感じるのです。」
「今のところは俺の術式の影響で、上手くいかないようだけどね。」
木葉家親子と早苗は平然としている。アルテリアは探査魔法で周りを探っているのがあからさまだし、実も結界ジャマーの術式を展開しているようだ。嗣治と早苗も寛いではいるものの、肉食獣並に殺気を滾らせている。
そんな中、ディバインとサフィアスは緊張のピーク状態だった。
「何で俺たち、こんなところに居るんだろう?」
「そうだよなぁ。先週までは、普通の学生だったはずなのに。」
「まぁ、そう言うなや。」
「お前が言うな。」
実のツッコミに、極めて冷静に返すディバイン。ツッコミ返しくらいしとかないと、緊張によるストレスで倒れてしまいそうだ。
「ま、これでマルクレッセン子爵が敵なのは確実、と。他には?」
「隠し部屋に二人いるのです。きっと、同じ穴の狢なのです。」
探査魔法で、館内を探っていたアルテリアが返す。
「探査魔法って本当に便利ですね。」
「当然なのです。ただ、探査魔法は魔力を行きわたらせる必要があるので、それなりの経験をつんだ他の魔術師には察知される可能性も高くなってしまうのです。」
「つまり、向こうに魔術師がいたら使えないって事?」
「そんな事はないのです。今回の場合は敵対しているのはわかっているので、察知されても誤認させられなければ問題ないのです。」
「状況に応じてってやつだな。実、ファイアの準備しとけ。」
「え?こんなところで?」
「空に上がりさえすれば良いんだ。別に屋外で顕現しなければならないって、決まりがあるわけじゃないだろ?」
「そりゃ、そうだけど。」
ファイアと呼ぶにはかなり強力な魔力制御により、術式が展開される。ディバインとサフィアスはその光景を最初はぼんやりと見ていたが、はっと正気に戻ると慌てて嗣治に向かった。
「王、ここで顕現させたら、館を破壊してしまいますよ!」
「そ、そうですよ。少し落ち着きましょう!」
嗣治は彼らの方へ視線を向けると、にやっと口を曲げて言った。
「既に敵対してるんだ、これくらいやっても問題なかろう。館なんて、また作れば良いんだしな。」
「奥の応接間に通されただけで敵対なんて…。」
「ここに通された事が、即ち殺る気満々という証明なのです。」
ディバインとサフィアスが「え?」という顔をする。早苗も似たようなものだ。
「いやだってこの部屋、彼方此方に仕掛けがあって、ガスや毒針等で中の人を殺せるようになってるもの。小さな雷撃を打ち込んで無力化してなかったら、多分既に使われてただろうね。」
実の説明に、なるほどと頷く三人。気付いてはいないようだが、この部屋はある意味処刑部屋なのである。当然ここで死んだ人間もいるわけで、そう考えると薄気味悪いところではあった。
兎に角、待っていても埒があかないので実力行使に出ることにした嗣治であったが、急に殺気がドアの外で膨れ上がった。
「くるぞ、ファイアだ。」
「応!」
実がファイアを二つ顕現させ、一つを上に、そしてもう一つをドアの方に発射する。上の方は炎の龍が部屋の天井を消し去り、更には屋根も貫いて天高く舞い上がった。そして、ドアの方も、炎の象がドアだけでなく、壁やその向こうに居た刺客達もろとも破壊していった。
「あれ、ファイアか?」
「絶対違うと思う。」
疲れたような声で学院の生徒二人が言う事は軽くスルーして、武器を取り出す三人。継治は大剣、アルテリアは今回メイス、早苗は先日から使っている剣ではなく、継治が以前ダンジョンで拾ったというアダマンタイトの剣である。因みに異世界ものでの定番、ミスリルやヒヒイロカネ、オリハルコンもやはりあるそうだが、ミスリルは兎も角ヒヒイロカネやオリハルコンは滅多に目にする事はないそうである。
尚、実は次の術式を展開していた為に武器を取り出す事はしなかったが、装備はいつもの双剣装備であり、他の予備武器と一緒に先日習得した空間魔法の箱の中に入れていた。
次に顕現させた魔法は、炎の輪であった。以前遺跡で披露した全方位ウインドカッターの炎版である。あの時と違うのは、中心にいるのは実だけでないという事と、炎の色が赤やオレンジではなく青白いという事だけだ。
「さて、この炎に耐えられるかな?」
実はニヤリと笑うと、ゆっくりと輪の直径を広げていった。残存している刺客は、先程炎の象に跳ね飛ばされ、燃やされた五名より多い三十六名。全員が暗殺ギルドの構成員であるが、ここまでの大物、しかも難易度エクストラの敵を相手にした事がなかったせいで後手にまわってしまっている。
「炎の魔法ごときでっ!」
言っている事は勇ましいが、この炎はかなりの高温だ。彼らの持つ鋼鉄の剣程度では触れただけで溶けてしまうだろう。残った刺客達も危険を察知したのか、なかなか踏み込んでこない。刺客達は主人が逃げるための時間稼ぎも兼ねているので、下手に踏み込む必要が無いのだ。
「どうせ逃げれんよ。」
嗣治の言葉と共に、外で盛大な音が発生した。それも館の周囲全てで。
それは土魔法による壁の顕現の音だ。何人もの魔術師が土壁を作り上げ、領主の館を囲っている。高さや固さもかなりのものがあり、簡単には突破できないようになっていた。
「それじゃ、戦闘開始だ。」
実が炎の輪を解除すると、嗣治と早苗がほぼ同時に飛び出し、あっという間にそれぞれ三人を倒した。早苗にとっては初の殺人になってしまったが、実家では「敵と認定したものは、手を抜かない事。そうしないと逆に殺される。」と教えられてきたそうで、思ったほどは負担に感じていないようであった。
「俺らも行くよ!」
ディバインとサフィアスも少し遅れて飛び出す。ディバインは風の魔法を全員にかけ、投擲武器からの防御を行い、サフィアスは火の魔法で二人に炎の槍を突き刺す。
「私のする事がなくなりそうなのです。」
少し不満げにアルテリアが言うが、顕現させた水竜で四人をあっという間に体内で溺死させる。全員殺る気満々であった。
「くそっ!これでは逃げられん!」
外にそびえる土壁を見て、マルクレッセン子爵は己が失敗した事を実感した。やはり、性急すぎたのかもしれない。もっと時間をかけて仲間を増やすべきであった。
「アレの準備はできているか?」
「はい、できております。」
「アルテリア様もいらっしゃるのが残念ではあるが、仕方がない。起動させよ。」
「はっ。」
その瞬間、大音響と共に館全体が炎に包まれたが、館の外からそれを見た人間はいなかった。
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