第11話 特訓
いよいよもって、書き溜めがなくなってきました…。
風が舞っている。
正確には魔法で作り上げた風の壁により、六人の周りだけ強烈な風が吹き荒れている。
「ミノル、三時の方向からカブトムシ!」
「了解!」
「サフィアスは、八時の方向のカマキリをお願い!」
「応!」
「サナエさん、正面、零時から突っ込んでくる蜂に対応して下さい!」
「解ったわ!」
ディバインの指示で、三人が動く。ディバイン以外は、全員剣で戦っている。ディバインは風の壁で、三人がそれぞれ魔物二匹以上を相手にしないよう調整を行っている。
「カブトムシは外殻が金属鎧並の固さだ。関節等、外殻の無いところを狙え。カマキリは両手の鎌だけではなく、噛みつきと飛行による体当たりにも気をつけろ。蜂は当然毒針だ。それ以外にも、カマキリと同じく飛行による体当たりを得意としているぞ。
全員一撃で倒そうとせず、回避中心で体力を削るようにしろ。そして正面ではなく、常に横に位置するように。」
マクスウェルが、各昆虫型魔物の特徴と対策を実達学生組に告げる。三人は、返事もそこそこに風の壁を抜けて来た魔物に対峙した。
「結構動きが速い!」
「先生!避けるのに手一杯で、攻撃する余裕がありません!」
「っ!毒針っ!」
三人とも魔物の横に位置取りして攻撃をしようとするが、敵もそういう対応はできるのか、くるりと回って正面に位置させようとする。当然、その際には前足だったり、毒針だったり、角等の攻撃も同時にされるため、こちらからの攻撃がなかなかうまくいかない。
そもそもこの依頼は、昆虫型魔物の討伐ではなかった。実は「畑を荒らす魔物が居るから、退治してほしい」という程度の依頼だったのである。そして畑を荒らす魔物は居た。鳥型の魔物である。その魔物はあっさり倒す事ができたものの、捕食者である鳥型の魔物の存在が感じられなくなったことで、どこからともなく昆虫型の魔物がわらわらと湧いて出てきたのである。
「やっぱり、サナエが今のところ一番のようですね。」
「実家は剣術を教えているそうなのです。でなければ、そもそも連れて来ないのです。」
マクスウェルとアルテリアが生徒達を評する。今日も昨日と同じように、縛りを設けて依頼をクリアさせているが、現時点での評価は次の通りであった。
剣技:早苗 > 実 = サフィアス > ディバイン
攻撃魔法:実 > サフィアス > ディバイン
防御魔法:実 >= ディバイン > サフィアス
魔力:実 > ディバイン >= サフィアス > 早苗
早苗は魔力保有量が少ない為、魔法が使えない。その代り、剣術の腕は他の三人に比べて頭一つどころか、かなり抜け出ていた。魔法に関しては、魔力保有量の差もあってか、実がかなり強力で、次いで攻撃はサフィアス、防御はディバインが続く。この二人は良いコンビだし、もっと鍛えれば騎士団でもかなりのところに行ける実力を発揮できそうだ。
「思わぬ拾い物ですな。あの二人には、学院経由で話をしておきましょうか。」
「できれば、実とはずっと友達でいてほしいのです。」
「そうですね、鍛えて、使えそうなら近衛騎士団にスカウトさせましょう。」
単に仲が良いだけではダメなんですよ、とマクスウェルは苦笑交じりで答えた。
そうこうしているうちに、実がカブトムシの頭と胴体の間に剣を突き立てる。それまでも、この首に当たる部分を重点的に攻めていたため、漸く頭と胴体を切り離すことに成功した。
それを見たディバインが、次の魔物を一匹だけ実の前に通す。
サフィアスもカマキリの片方の鎌を漸く斬り飛ばし、そちらの方へ回り込むことで死角から攻撃を加え続けることに成功している。
早苗は、既に昆虫タイプの魔物への対処法を身につけたらしく、三匹目の魔物と戦っていた。常に相手の死角へ回り込みつつ、剣や投げナイフで目や触覚を傷つける。そして、最後は死角より頭を切り落とし、そのまま邪魔にならないよう外側へ蹴り飛ばす。
「サナエさんは、既に私とも戦えるくらいの実力があるようですね。」
「そうなのです。最初、向こうで話を聞いた時は同行は無理だと思ったのです。でも、こちらも掘り出し物だったのです。」
マクスウェルとアルテリアが、早苗の剣術を評している。早苗は聞こえているはずだが、魔物と戦っている最中の為にリアクションができない。
「そして、ミノル様ですが、流石ですね。」
「まだまだなのです。」
マクスウェルの評価に対し、否定するアルテリア。だが、顔は嬉しそうだ。
「このままこちらの生活に馴染んで頂ければ、大変ご立派な王となられるでしょう。」
このマクスウェルの発言に、学生組の動きが一瞬止まる。その時間は僅かであった為、幸い魔物がつけ込んでくる様な事は無かったが、本来あってはならない事である。
「と、兎に角倒しきってからだ!」
「そ、そうだな。」
動揺したままではあるが、なんとか体勢を立て直す学生組であった。
「ミノル、王子様だったのかよ。」
「王子って言っても、こっちに住んでいるわけじゃないし、向こうでも普通の暮らしだぞ。」
「私も、説明聞いた時はびっくりしたもの。王妃様なんて、こっちでは公用語の教師してるのよ。」
「えー!信じられない!」
「それはどう言う意味なのです?」
一応説明はしたものの、ディバインとサフィアスはまだちょっと混乱しているようだ。
特に勉強嫌いで有名だったアルテリアが、異世界とはいえ、教師なんてしているとはベアル王国民としては信じ難いものがある。
「申し訳ありません。まさか身分をお隠しになったままだとは思わなかったものですから。」
マクスウェルが申し訳なさげに頭を下げる。
「終わった事は仕方ないよ。ところで、俺、王子って言っても形だけだし、誰かなりたい人がなればいいんじゃないの?」
「そうはまいりません。普段は自由気ままにしておられるアルテリア様ですら、王妃と言う地位を投げ出す様な事はなさいません。ミノル様も、王子であるという事をしっかりご自覚願います。」
「マクスウェルさん、ですらってどう言う意味なのです?」
どうやら、マクスウェルはうっかり発言の多い人物の様だ。アルテリアに睨まれて、ぺこぺこ謝っていた。
「それで、木葉君はこっちで生活していくの?」
「実でいいよ。少なくとも学校卒業までは、向こうで過ごすよ。それ以降は、ちょっとまだわからないかな。」
「そうなんだぁ…。あっ、木葉君のこと、これから実君って言うから、私の事も早苗って呼んでね。」
「う、うん。」
何かしら含みのある早苗の返しに、首を捻る実と、生温かい目で見守る四人だった。
全ての依頼を完遂して城に戻ってきたパーティーは、魔力制御の運動を行っていた。
「ミノル、本当にこれって『軽い』運動なの?」
ふらふらのディバインが、実に問い質す。
「そうだね、今日は軽い方かな。昨日は母ちゃんとの手合わせもあったから、もっときつかったよ。」
昨日でなくて良かった、とディバインは心から思った。学院で習う魔力制御の運動とはかなり違い、身体の内側を意識して動かさないと非常に疲れる運動だ。しかし、効率も良いらしく、続けていれば魔力制御量の増大が見込めるそうだ。ただ、そうやって疲れた上に、魔女との手合わせなど、自殺行為に近い。
「サナエ、マクスウェルに型を見せてあげるのです。」
「はい、先生。」
早苗もこの運動は始めて一週間しか経っていない為、かなり汗をかいている。だが、ある剣術の型に似た動きがあるらしく、ディバイン達ほどは疲れていない。それどころか、剣術の技術交流を兼ねて、マクスウェルに型の披露まで行う余裕すらあるようだ。
「地球の人達って体力無いって聞いてたけど、あれはウソだなぁ。」
早苗の型をぼんやり眺めながら、つぶやくのだった。
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