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Sea Wolf  作者: Noa.
4/12

一難去ったけども


 ゴーストシップ。

 それは、海の上で死んだ者たちが乗っている船だ。あの世と繋がっているとも言われており、海上で出会ったら最期、魂を奪われると噂される。

 なんでこんなところで……。

 タイミングと運が悪すぎる。

 甲板には数人の船員ゴーストが見え、周囲を監視している。黒い船に黒い姿の船員たち。人の姿を保っているものの、既に見た目は人ではない。どちらかというと屍だ。

 そのうちの一人が瞳を赤く光らせていた。間違いない、あれが船長だ。

「ゴーストシップって……」

「見つからなければ大丈夫です。しばらくじっとしていてください」

 お嬢様を守るようにして抱きしめ、囁いた。静かな海で船の軋む音だけがハッキリと聞こえる。奴らの船体はすぐそこだ。視線を上に向けると手すりにそって、船員が歩いているのが見えた。

 そのまま進んでその場所から消えてくれ!

 心の底から願ったが、奴は手すりから身を乗り出すように下を見た。

 見つかったか……。

 噂どおりならば、魂を抜かれ俺たちは死者となるはずだが。

 一度確かに俺のほうを見たはずで、気づかれていないはずはないのだが、特に何をするでもなくそのまま船は通り過ぎていく。

 奴らが去ることで、自然と太陽も顔を出した。

 あんなに暗かったのが嘘のようだ。太陽を反射して、水面が輝いて見える。

「……行ったの?」

「あ、はい。すみませんでした。お嬢様、お加減など悪くありませんか?」

 抱きかかえたままだったのをすっかり忘れて、暫くそのままになってしまっていた。

「だ、大丈夫よ」

「顔が赤いですが……」

「あ、暑かったの! 気にしなくていいから」

「照れてるんですか?」

「ち、違う!」

「へぇぇぇぇぇ」

 否定したことで余計に赤くなったお嬢様は元気に言い訳を並べ立てているし、特に問題は無いようだ。

 ここで怖いとかいって泣き出されても困るからな。

 それにしても、噂に聞くゴーストシップとは反応が少し違っていたのが気になる。

 船が走り去ったほうを見ると、まだ遠くの空が暗い。

 夢だったわけではないよな。

「ゴーストシップって、港の人たちが噂してたわ」

「何といっていました?」

「あいつらに出会ったせいで、何隻かやられたって。幽霊相手じゃ戦う術もないから、ひとたまりも無かったって言ってた」

「そうですか……」

 やはり、それが普通のゴーストシップだ。じゃあ、今の行動に説明がつかない。

 何故俺たちは助かった?

「ねぇ、イクス」

「はい?」

「私たち、ちゃんと生きてるのよね?」

「……は?」

「普通にしてるけど、実は既に死んでますとかってことはない?」

 何を言い出すかと思えば。

 たまには可愛いこと言うじゃないかなんて、思ってない。ただ、不安げな様子に頭を撫でたくなっただけだ。

「大丈夫です。奴らは確実にこちらに気づいていましたが、何故か私たちを見逃してくれたようです」

「良かった……」

 よほど心配だったらしい。胸を撫で下ろし喜ぶ姿に少し癒されもしたが、それはそれだ。

 命の危険がすぐ間近にあるということは身をもって分かってもらえたはずだから、これ以上無茶なことはしないようにといっておかなければ。

「お嬢さ……」

「ねぇ、イクス」

「はい」

 ちょうど口を挟まれて、説教のタイミングを逃してしまった。それには気づかずにお嬢様は話始める。

「陸にはあとどのくらいで着くの?」

「さぁ……。地図もないですし……正確なことはわかりませんが、恐らくこの調子だと一週間はかかりそうですね」

「一週間か。結構かかるのね」

 まるでオーダーメイドの服屋でドレスをお願いしたような反応だ。

 本当に一週間という意味は分かっているのだろうか。

 その間に食べるものは全くないし、雨が降ったらまず間違いなく沈没する。それ以上に一滴の水も得られない状態なのだ。一週間耐えしのげるかも怪しい。それに、一週間で陸に到着できるという保証もないのだ。

「ひょっとして私たちって遭難してるの?」

「そうなんですよ!」

 寒い駄洒落を言ったと気がついていたが、このくらい言わなければやってられない。

 このお嬢様の能天気さはなんだ? こんな陸の見えないところで、ほとんど進めないに等しい船に乗っていて、よくもまぁ何とかなると考えていられるな!

「ということは、やっぱり近くを通る船を捜すしかないわね」

「そんな簡単に通るものじゃないんですよ、船っていうのは」

「いた!」

「だから、そんな簡単に……」

「イクスあっち!」

 振り返ってあっちと指差されたほうを見れば、なるほど確かに船が見える。きちんと張られたマスト、特に黒くもなんともない普通の船体。まだ遠くて船員までは見えないが、今度こそ人間が乗っている普通の船のようだ。

「意外と簡単に通ったな……」

「あれなら乗せてもらえる?」

「えぇ、そうですね」

 近づく船に声をかけ、どうにか次の陸地まで乗せてもらえることになった。

 やれやれだ。


舞台裏・・・


「顔が赤いですが……」

 余計なこと言うんじゃないわよ!

「照れてるんですか?」

 違うもの違うもの違うもの!

「へぇぇぇぇぇ」

 あたしでからかって遊んでいるのはわかるけれど、それでも顔が赤くなっちゃうじゃないの!

 馬鹿馬鹿、イクスの馬鹿!

 いつまで経っても子供扱いなんだから!

 そうよ。いつだってあたしはイクスにとって、お嬢様。


 おそらく本編では入れられないお嬢様の心の叫び(笑)。

 頑張れドリィ!

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