No.8:フィールディング
慶野『早くゲージ片付けろ!ウチの練習時間は限られてんだ!』
2ゲージでの打撃練習も終わり、慶野キャプテンの声がグラウンドに響く。
邦南高校は進学校だけあって、19時までに必ず完全下校しなくてはならない。練習時間は常にカツカツだ。しかし野球部だけは特例が認められ、19時が過ぎても20時までは自主練という形で練習をすることができる。去年の甲子園パワーで少し校則が変わった。
慶野『次はノックだ!手が空いたやつはトンボ掛けろ!』
『はい!!』
川越(人数増えると整備も便利だな。)
そんなことを思いながら川越監督はノックバットを軽く振り、次の内野ノックの準備をしている。
***
慶野『まずはボール回しから!そのあとノックって流れだ!1年生は自分の希望ポジションに入れ!』
『はい!!』
林(ボール回しな。簡単に思えるけど、チームのレベルがよくわかる難しい練習やな。先輩方の実力も知っておきたいところやし、ちょうどええ。)
“こっちだって、スタメンは奪いに行くで。”
??『どうも。』
林『おっ?』
『同じ1年の長澤 凌平だ。豊田クラブで主にショート、サードをやっていた。よろしくな。』
林『おっ!長澤はんな!よろしくやで!』
西口『よっしゃ!声出して行くぞ!盛り上がって行こーぜ!!サード!!』
氷室『オッケェ!!セカン!!』
慶野『ナイボール!!ファースト!!』
森山『ナイボール!!ホーム!!』
林(あのファースト、同じ1年やんな。えらくごっつい体してはるわぁ。森山とか言うてたっけか。)
酒井『よっしゃ!サード!!』
滝澤『ナイボール!セカン!!』
林『ええ球やで!!ファースト!!』
西口(みんないい感じだな。)
全員がしっかりとボール回しを完成させ、レベルの高さを伺わせた。
林『セカンドでお世話になります。』
??『2年の島谷 涼太だよ。よろしく。林くん。』
林『先輩って去年の背番号5の島谷 倫暁サンの弟なんスよね?』
島谷『一応ね。兄貴と違って全然レギュラー張れるような実力はねえ。もっと練習しなかんわ。…お?他にもセカンド希望?』
林『?』
??『1年の滝澤です。よろしくお願いします。』
林『滝澤はんやね。ほんまよろしくやでぇ~。』
島谷『滝澤と長澤ね、間違えないようにしよう。』
西口『よっしゃ!まずはバックホームな!!』
『『しゃぁー!来いや!!』』
西口『サード!!』
氷室『オッケェ!!』
西口『もう一丁サード!!1年も元気出して行こーぜ!!』
慶野『しゃあ!来い!!』
西口『ショート!!』
慶野『ヘイ!!』
西口『もう一丁!ショート!!』
長澤『オーライッ!!』
林(ほー。長澤はん、今の1球を見る限り、割かし守備は上手そうな感じやな。)
慶野『いいね!』
長澤『ありがとうございます。』
西口(サードは佑介の他に1年が2人、ショートが慶野先輩の他に1年が4人、セカンドが涼太の他に1年が4人、ファーストが翔真先輩の他に1年が1人か。んで、キャッチャーにこの酒井って奴か。村田はピッチャー以外では外野か。)
川越『セカン!!次!!』
林『オナシャス!!』
西口(来たな。林。さっきの特打では流石の打撃だったが、守備はどうだ?)
カーン!
林(前や…!)
西口(一歩目は完璧、さあ、)
パシ!ヒュッ!
西口(おぉ…!)
ズバン!!
西口『ナイスセカン!!良いじゃねぇか!!』
川越(1人だけ異次元だな。)
西口(完璧な一歩目から、流れるような美しいグラブさばきとスロー。一連の動作がかなり洗練されてる。これは間違いなく守備も出来るやつだ。)
滝澤(俺だって負けてらんねえ!!)
カーン!
滝澤(俺もアピールを…!)
バスッ!
滝澤(…!…くそっ!)
西口『すぐ拾え!!落としてもまだそこでプレーは終わりじゃねえぞ!!』
滝澤(くっそ。一発目でいきなり凡ミスかよ。)
『そんな焦ってもええ結果は得られへんで。』
滝澤『…?』
林『同じ1年として頑張って行こうや。滝澤はん。』
滝澤『…あぁ。お前には負けたくねえけどな。』
林『望むところやで。』
川越『ファースト!!』
西口(さぁ、ウチの少し弱いポジション、ファースト。)
カーン!
大場『しゃぁ!ホーム!!』
西口(翔真先輩は無難にこなせるけど、エースだからな。問題は哲都がどのくらいファースト出来るようになるかってとこだけど…。もし哲都が復帰してもファーストすら厳しかったらこの森山ってやつに…)
バスッ!
森山『ちっ!』
西口(だよな…。動きが悪いんだよな…。体つきは凄く良いんだが、守備はかなり下手なタイプだよな…。見た目でなんとなくわかる…。)
西口『内野ボールファースト!!』
『『シャァァ!!』』
氷室『おっけ!ファースト!』
西口『いいね!佑介!調子出てんじゃん!』
氷室『ハハッ!これが氷室佑介様じゃ!!』
林(氷室サン、えらくお調子者な性格なんやな。)
***
西口『セカン!!!!』
林『オーライやで!』
酒井(惚れ惚れするようなグラブ捌き…。大騎…本気で守備も上手い…。)
西口(この打撃力、守備力を見ただけで今年の夏はスタメンほぼ確定だろ…。)
(あの林って奴…、たった1日でスタメンの座を1つもぎ取ったぞ…。)
______________
上級生紹介のコーナー
氷室 佑介
右投げ右打ち:三塁手:2年生
チームメート曰く『天才』。中学までは陸上部に所属していたが、持ち前のセンスで既にチームに必要不可欠な選手に。1年夏は主に一塁、ライトを守り打順は6、7番で愛知県大会14打点を記録。甲子園では準々決勝まで不調だったが準決勝、決勝では持ち前の勝負強さを発揮。守備も下手だったが2年生になりだいぶ上達が見られる。強打の2年生で基本ハイテンションなお調子者。一応ピッチャーも出来るが投手としての能力は低い。