No.105:失望
原田『結局今日も直政練習に来なかったね。』
酒井『これで3日だな……。アイツ昔っから練習嫌いだけどなんやかんや来てはいたんだよなぁ。』
原田『どうしちゃったんだろ。ほんと。』
酒井『何が原因かは明白だけどね……。』
原田『連絡も無いの?』
酒井『あぁ。勿論。ライン送っても既読すらつかねえし。どうせ未読無視かましてんだろうけどよ。』
原田『一緒に今日行ってみる?家。』
酒井『いいけど優太の家とは真逆だぞ。東郷だろ?優太。』
原田『いいよいいよ。どうせ夏休みで暇だしさ。』
『やめとけやめとけ。』
酒井『大騎……。』
林『自分のせいで負けたのイビられたくらいで幽霊部員になる腰抜けの相手なんかしとっても時間の無駄やで。そもそも西口サンの言い分おもっくそ正論やんけ。』
酒井『それはそうだけどよ。チームメートじゃんか。』
林『大切なのはそいつ本人の意志や。仮に戻って来い言うて戻ってきたところで、たかが知れとる。本人の考え方が変わらなあかん。』
酒井『まあ……確かにな。』
原田『でも直政がどう思ってるのかも気になるし……。』
林『あのアホヅラのことやし、どーせ負け犬みたいな考え方やて。そんな深く考えるタイプには思えへん。』
酒井『ま、とりあえずなに考えてんのかだけは聞きに行ってくるよ。同じ仲間だしさ。』
林『物好きやなー。逸也はんは。』
酒井『一応ずっとバッテリー組んでた仲だからさ。多少はね?』
原田『やっぱり僕は遠慮しとくね。逸也と二人のが直政も話したいこと話せるかもしれないし。』
*************
ピンポーン!
《はーい!あ、逸也!久し振り!ちょっとまっててね!》
ガチャッ!
『直政呼んでくるね。』
酒井『お願いします。』
……
村田『んだよ。わざわざ。話すことなんてねーぞ。』
酒井『久し振りだな。サボり。』
村田『好きに呼べよ。俺はもう、』
『野球部辞める。』
酒井『やっぱしな。そんなこと考えてるんじゃないかって想像はしてたよ。』
村田『なんかもうどーでもよくなっちまった。未練はねえよ。』
酒井『まぁまぁ。落ち着け。ここじゃあれだし、公園行くぞ。』
村田『ちっ。しゃーねーな。逸也だから許可してやんよ。めんでーけど。』
……
酒井『その様子だと、ホントにサボってたみたいだな。爪も少し伸びてるし。』
村田『サボるもなにも、関係無いね。』
酒井『この前佳奈ちゃんに渡したビデオ、もちろん観てないな?』
村田『当たり前だ。観る必要もない。』
酒井『辞めんなよ。逃げんのはいつだって楽だ。一緒に立ち向かおうぜ?』
村田『…………やだよ。』
酒井『じゃあどうして辞めるんだ?それだけ聞かせてくれよ。』
村田『…………。』
『なんか周りが鬱陶しくてさ。もう辛いんだ。あの試合なんてもう忘れてえのに。野球続けたらあの試合のことずっと言われるんだろ。そんなんなら、辞めた方が楽じゃん。』
『ふーん。周りの目線ねぇ……。』
『なんだよ。』
『分かりきったこと聞くぞ。いいか?』
『好きにしろよ。』
『じゃあお前はあの試合のこと、どう思ってんだ?』
『…………。その話題はパスだ。ったく西口にしろ、逸也にしろ、アイツにしろ、お母さんにしろ、その話しかすることねえのか。』
『ふーん。斎藤さんにもされたんだ。』
(道理でこの前あんなに険しい顔してたんだ。)
『ああ。心配だから話しかけてきたらしいよ。そんな同情、逆に腹立つね。なんの気持ちも分かってねえのに。』
『何言ったんだよ。その後。』
『忘れたよ。余計なお世話とかウザいとかだった気がするけど。よく覚えてねえわ。』
『おまえそれ本気かよ…………。』
『だとしたらなんだよ。』
『1回戦からずっと応援してくれてて、あの試合だって必死に応援してくれた人に対してそんな口の利き方したのかよ。』
『…………おう。悪いか?』
『お前は一人で生きてる訳じゃない。西口さんにしろ、お母さんにしろ、斎藤さんにしろ、立場は違えどみんなお前に前を向いてほしいだけじゃないのか?お前が辛い時って分かってるからこそ必死に励まそうとしただけじゃないのか?』
『…………。』
『斎藤さんに謝ってこいよ。今回ばかりは正直言って失望した。野球以前に人として終わってるぞお前。言ってくれる人や、心配してくれる人がいるうちが花だからな。このままだとお前、誰にも相手にされなくなるぞ。』
『……………………。』
『じゃあな。退部するならちゃんと川越監督直々に話に行けよ。』
“……ごめんね。無神経だったね。”
“逃げててもどうにもならんだろ。いつまで逃げる気だ?なぁ。”
“ちっせえ男だな。”
“野球以前に人として終わってるぞ。”
(どいつもこいつも痛いトコ突きやがって……。)
“ちっくしょう………………。俺だって悔しいに決まってんだろ…………。”




