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No.1:春のそよ風

 この小説は前作「ホームスチール~SUMMER Baseball Miracle~」の続編という形で話が進んでいます。ですが前作を読んでいない方にも楽しんでいただけるように工夫していきたいと思います。

 というか、正直なところ前作は読まなくて良いです(笑)

 4月5日。まだ少し肌寒い気もするが、桜も満開。今日は入学式だ。

 ここ愛知県立邦南高校は県内屈指の進学校。国公立大合格者は毎年200人を軽く越える。

 しかし邦南高校は学業だけが取り柄の高校ではない。部活動も非常に盛んで、サッカー部は昨秋の全国高校サッカー選手権、愛知県大会で準優勝の活躍。陸上部も東海大会常連だ。また、吹奏楽部も有名で、非常に実力がある。

 そんな中でも、近頃話題なのは野球部だ。


 それもそのはず。ここ邦南高校野球部は、昨年夏の甲子園の準優勝校だ。決勝で惜しくも大阪の啓稜学院に5-7で敗れるも、その成績は堂々たるものだった。しかし、その後部員不足で秋の大会は出場辞退。部員は新三年生2人、新二年生5人の合わせて7人。

 だがここは夏の準優勝校。部員集めは例年よりも遥かに楽で、学校側も推薦入学で実力者の獲得に力を入れた。夏の大会には普通に出られそう、そんなところだった。




キーン・コーン・カーン・コーン


 幼い頃から聴き馴染みのあるチャイムの音が学校中に鳴り響く。着席の時間だ。




『みんな揃った?出席取りますよ。』

 担任の宮野みやの 真理子まりこ先生が教卓の前でクラス名簿を片手に口を開く。年齢は40代といったところで、目が細く若干つり上がっているのが特徴的だ。



『ったく。アイツ入学早々遅刻かよ。先が思いやられるね。』

 やや筋肉質のガッシリとした眼鏡系男子が、黒板の上の丸い掛け時計をチラ見しながら溜め息をついた。



『阿部くん!』

『ハイ!』


『石川さん!』

『はーい!』


『江西さん!』

『ハイ!』



 ……


『斎藤さん!』

『はーいっ!』


『才田くん!』

『ほい!』



『酒井くん!!』


『はいっ!』


『おっ、いい返事だね!』


『ハハハ…。』



『杉浦くん!』


『瀬能さん!』


『立川くん!』


『田部谷くん!』


『茅野さん!』



『アイツ遅すぎ。まじ来る気あんのか?』

 スマホを開いて10分前に送ったライン画面で再び催促のメッセージを送る。さっきのメッセージにはまだ既読がつけられていないみたいだ。



 ……



『村田くん!』


シーン…


『村田くーん。…いない?』



『すみません。村田のやつ遅刻かもしれないです。』


『ったくもう…入学式からいきなり遅刻ね…。』

 やれやれといった表情を見せる宮野先生。不在を確認したのち、次の生徒の名前を呼ぼうとした、その時であった。



ガラガラ!!!


 先生の声のみが放たれる教室に、突然響き渡るドアの開閉音。全員が初対面ゆえの緊張感がほとばしる空気感の中、短髪長身の男子生徒が現れ、大声で一言。


『わりぃ!遅刻した!村田だ!村田(むらた) 直政(なおまさ)!!』

 もう少しガヤガヤした教室を予想していたのか、一斉に注目を浴び青年の顔が引きつる。


『村田くん。初日から遅刻とはいただけませんね。』

 やや厳格に見える宮野先生が、身に着けている眼鏡にキリッと触れながら真顔で注意する。周囲の目もちょっと痛い。


『すまんすまん!わざとじゃないから許して!』


??(やべ、あいつあれだけ忠告しといたのに…!)

 教室の丁度真ん中辺りに座する体格のいい生徒が、村田の方を見ながら「あちゃー」という表情を浮かべる。



『先生には敬語を使いなさい?』


??(そりゃ怒られるわ馬鹿。)



『あっ、すまん!俺本当に尊敬する人にしか敬語は使わない主義だから!』


『そういう問題じゃないでしょ!尊敬するしない抜きに、目上の人には敬語を使う。これは社会のマナーですよ!』

 宮野先生の目つきが一層鋭くなる。


『まぁそんくらいでそんな怒るなって!なぁ!?逸也(いつや)!』

 


??(うわっ!えっ!?ふざけんなお前…!みんなからお前痛い目で見られてんのに俺に絡んでくるなよ!!)

 本音が口から溢れそうになるものの、なんとか口の中にしまい込み村田に対し拒否反応を起こす。


『村田くんと酒井くんは友達?』


酒井『あーあースミマセン!俺が叱っとくんで今日はとりあえず許してやってください!』


村田『逸也ーっ!!さっすが俺の恋女房!!』


酒井(やめろお前これ以上変なことするな!俺のイメージまで……!)


『恋女房…?』


ザワザワ…


「恋女房」という古典にでも出てきそうな聞き慣れない単語に、クラスがざわつき始める。教室のどこからか「ホモ?」というフレーズが聞こえ酒井は冷や汗をかき始める。




 一応念のために、両者共にホモではない。



『もう…なんだかわからない子ね。早く席に着きなさい。今日だけは特別だからね。』

 入学式前で手際よくタスクを熟さなければいけないことを思い出したかのように、宮野先生があっさりと説諭を終わらせる。


村田『ありがとな!』


酒井(だから敬語使えって!!!)

 現状、仲良しに思われたくないので心の中で嘆く酒井。




 ***



キーン・コーン・カーン・コーン


『よしっ!ひとまず連絡事項はこれで終わりです!配布物をちゃんと保護者の方に見せること!三日後にすぐ期限の紙とかも入ってるのでくれぐれも遅れないように!』



ガヤガヤガヤガヤ…!



村田『オッス!!逸也!!』


酒井『オマエ…。』


村田『なんでそんな不機嫌そうなん?』


酒井『オマエ俺を巻き添えにしたな…。』


村田『…は?』


酒井『お前今日の鮮烈デビューで端から見たらスゲーおかしいヤツってイメージだからな…?お前が勝手に絡んできたせいで俺がそのおかしいヤツの親友でましてや恋女房だと…』


村田『いやいや、間違ったこといってないでしょ。俺はピッチャー。お前はキャッチャー。中学もバッテリー組んでた仲じゃんかよ!』


酒井『みんながみんな野球知ってる訳じゃないんだからいきなりみんなの前で恋女房とか言うのはやめろよバカ!』


村田『まぁそんな堅いこと言うなよ。早く飯食おうぜ。今日は野球部は午後練だから、俺らのデビューまであと1時間ちょっとだぜ! 』


酒井『グラウンド使うのは午後からで、もうどっかで練習してるはずだけどな。お前といるとトコトン疲れるぜ…。』


村田『ちゃっちゃと飯食うぞ!』





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