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わたくし悪役でしてよ  作者: しぶぬきかき
9/35

順調でしてよ 3

 

 ほほほほほ、子猫部……ではなくて、園芸部の入部届も無事に受理されて、晴れて園芸部部員になりましてよ。サリエさんもその場で入部届に記入してらしたので、部員は三人になりましてよ。

 活動内容としては、お野菜やお花の苗、種を植えて育てること。それと、月毎に決められた庭園のエリアのお手入れですわ。水遣り、草むしり、虫が付いたら駆除。などなど、することは沢山ありますのよ。

 今日の放課後は、何を植えるか話し合いますのよ。それと今月のお手入れエリアの説明会。

 ふふふふ、何を植えようかしら? 苺とかどうかしら? お野菜も良いですわね。小学部の頃にみなさんとトマトやキュウリを育てたのを思い出しましてよ。


「――ヤシさん。桜子・フォン・マツリバヤシさん」


「はい」


 は、授業中でしたわ。いけなくてよ、桜子。

 低いお声で名前を呼ばれて顔を上げると、数学の男性教諭が困ったようなお顔で見下ろしていましてよ。お若いのですけれど、解りやすく教えて下さると評判の先生ですわ。性格も気さくで、優しげに整ったお顔立ちも併せて、特に女子生徒に人気らしいですのよ。屋敷さんたちが楽しそうに話しているのが聞こえましたのよ。


「今日は暖かいからね。ぼんやりしたい気持ちは分かるけれど、気を引き締めて。黒板の問題を解いてくれるかな?」


「はい。申し訳ありません、先生」


 二次式を展開すればよろしいのね。気を引き締めて展開しましょうね。放課後になれば子猫さんに会えるのですから。

 そういえば、子猫さんのお名前なんて言うのかしら? 中島先輩に聞いてみましょう。


「……あ、全問解かなくても……あぁっ! あ、ありがとう。席に戻ってください」


 ほほほほ、今日はどの授業もこのような感じで浮かれていましたのよ。そのせいか、どの授業でも先生に指名されましてよ。……あら、そういえばわたくし、毎回どの授業でも先生に指名されているような気が……。


「ご、ごきげんよう、マツリバヤシさん」


「あら。ごきげんよう、屋敷さん」


 今日も、屋敷さんが挨拶してくださいましてよ。恐る恐るといった感じですけれど。わたくしそんなに怖い顔をしてまして? 生まれ持った顔立ちは仕方ないですけれど、やはり表情には気を付けなくてはなりませんことよ。

 

「あら、ごきげんよう。右衛門四朗春さん」


「ぴっ! ご、ごきげんようでございます! マツリバヤシさま!」


 お隣の席の――たとえ、一人分の空間が開いていようともお隣に違いなくてよ――右衛門四朗春さんにも挨拶をしましてよ。お顔の色は優れないようですけれど、相変わらず声が大きくて元気でしてよ。


「でも「さま」はよろしくなくてよ。右衛門四朗春さん。「さん」か「ちゃん」でお願いしますわね」

  

「「ちゃん」はかんべしてください!」


 ほほほほ、親しくなったら「ちゃん」付けにしてくださるのかしら? 楽しみでしてよ。


 廊下に出ると、今日もみなさんどの部活を見学するかで賑わってますのね。微笑ましい様子を楽しみながら歩いていると、桜色の髪の生徒さんが小走りに通り過ぎて行きましてよ。

 あら、サリエさんではなくて? お誘いして一緒に行こうかしら。それにしても……。


「サリエさん、お待ちになって」


 わたくしが声を掛けると、サリエさんは階段へ降りる曲がり角のところで止まりました。振り返ってわたくしに気が付いたのか、待ってて下さいましてよ。わたくしは急いで、でも走らずにサリエさんの許へ到着しました。


「ごきげんよう、サリエさん」


「こんにちは、マツリバヤシさん」


 彼女はニッコリと微笑んでご挨拶して下さいました。


「サリエさん、廊下を走ってはいけなくてよ?」


 ええ、そうですのよ。サリエさんは小走りに廊下を走ってらしたので、余計かもしれないですけれど注意いたしましてよ。

 サリエさんはもじもじしながら頷いてます。


「そ、そうですね。気を付けます」


「でも、部活の初活動が待ち遠しい気持ちはわたくしも分かり――きゃっ」


 何かがわたくしの背中にぶつかり、わたくしは前のめりに盛大に転んでしまいました。


「すまない、大丈夫か?」


「え、ええ……」


 ぶつかった何かは、男子生徒さんのようでしたわ。その生徒さんは、わたくしの腕を掴んで立たせて下さいましてよ。それにしても、わたくしのこの巨体を弾き飛ばすとは、しかも腕を掴んで軽々と立たせて下さるとは、なかなかでしてよ。どなたか存じ上げませんけれど。


「怪我はしていないか?」


「ええ、大丈夫でしてよ」


 男子生徒さんは、わたくしの顔をまじまじと見て首を傾げていますことよ。

 銀灰色の髪でシルバーフレームの眼鏡を掛けた、知的なお顔立ちの生徒さんです。何やら、眉を顰めてぶつぶつ言ってらっしゃってよ。そして、白い制服の袖に付けている紅色の腕章に目が行きますわ。ネクタイの色がグリーンですので、二年生の先輩ですわね。

 後ろに二人ほど、同じように腕章を付けた生徒さんが立っていらしてよ。


「ひょっとして……マツリバヤシか?」


「え、ええ。ごきげんよう、先輩」

 

「……もう少し横幅があったような気がするが……気のせいか?」


 わたくしは存じ上げなくとも、こちらの生徒さんはわたくし、というか桜子・フォン・マツリバヤシを知っているようですのね。


「悪かったな」


「いいえ。曲がり角に立っていたわたくしが悪いのでしてよ。さぁ、行きましょうかサリエさん」


 サリエさんに注意したばかりですのに、恥ずかしいですことよ。


「……そうですね」 


 どこか力なくサリエさんが頷きました。もしかして、転んだわたくしを心配して下さったのね? やはり、ゲームのヒロインに抜擢されるだけあって、気遣いもできるのですわね。


「では、ごきげんよう」


 二人でお話をしながら、部室へ向かう。懐かしいですわ、この感覚。


「ごきげんよう、中島先輩」


「こんにちは、二人とも」


 中島先輩は、美女風のお顔に温かな笑みを浮かべて迎えてくださいます。子猫さんも挨拶に来てくれましてよ。


「中島先輩? この子猫さんは先輩が飼ってらっしゃいますの?」


「そう言えばそうなるのかな? 入学式の日にやってきて、そのまま温室に住み着いたんだよ」


「まぁ、そうでしたの? お名前は付けまして?」


「んー……、迷ってるんだ。スノウかすずらんか」


 まぁ、どちらも可愛らしいわ! スノウちゃん、すずらんちゃん。雪のように白いですし、すずらんのように可愛らしいし。


「中島先輩。ミミちゃんはダメですか?」


 可愛らしい名前に迷っていると、サリエさんが子猫さんを抱っこして中島先輩を見上げています。愛いらしい仕種に先輩は少し頬を染めて頷きましてよ。……子猫さんのお名前は、ミミちゃん、に決定ですわね。


「あ、先輩。明日、見学希望のお友達連れてきても良いですか?」


「ああ、もちろんだよ」


 ま、まぁ! サリエさんたら……その手がありましたのね! わたくしも誰か……。いえ、園芸に興味のある方でしたら、きっと自ら行動を起こすはずですわ。


「じゃあ、さっそく始めようか。さ、席に着いて」


 木目調のテーブルと椅子がログハウス風の部室にピッタリですわ。椅子は六脚ありますのね。先輩の向かいにサリエさん、そのお隣にわたくしが座りましてよ。いつか六脚全部が埋まるくらいに部員が増えるかしら?


「さて、さっそくだけど。育てたい物は考えてきたかな?」


「はい。私、苺の苗を植えてみたいです」


 サリエさんがピシ、と手を挙げて仰いました。奇遇でしてよ。


「まぁ、わたくしも苺を育ててみたいと思っていましたの」


「苺か……今からでも植えられる苗があったかな? 確かあったな。じゃあ、苺にしよう」


 先輩は、さっそく苗を発注してくださるようです。届いたら苗を植えるのですね。実がなったら、お友達を誘って苺摘みをして良いと仰ってくださいましてよ! どなたを誘おうかしら? ……あら、本当に。どなたを誘えば良いのかしら? クラスの方はご挨拶程度ですし……。

 そういえば、わたくしも内部進学のはずですから、中等部の頃のお友達とか。あら? 桜子・フォン・マツリバヤシの交友関係はどうなっているのかしら? 後ほどお父様とお母様に伺ってみようかしら。


「じゃあ、後は。今月のお手入れエリアに関する説明だね……一応、庭園の配置図を作ってみたんだ。この東側のエリアなんだけど、今から実際に行ってみよう」


「はい」 


 先輩はわたくしたちにそれぞれ地図を渡して下さいました。手書きの綺麗な地図でしてよ。それから三人でお手入れエリアに向いました。子猫さんはお留守番です。

 中島先輩とサリエさんが並んで歩く姿が、とても微笑ましい光景でしてよ。

 

 さぁ、明日からのお手入れ頑張りますわよ!



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