新入生歓迎会でしてよ2
寮のお部屋で着替えて、一休みしてから食堂ですわ。制服着用とのことでしたから。
「あ、桜子ちゃん!」
サリエさんですわ。もちろん、サリエさんもウィッグを被っています。それにしても、可愛らしいお顔立ちの方はどのような髪型でも似合いますのね?
わたくしも鏡で確認したのですけれど、似合っておりましてよ。いいえ! わたくしが可愛いというわけではなくてよ? どちらかというと、笑ってしまうのですけれど似合っている、というおかしな現象が……。
「桜子ちゃん、微妙に似合ってる!」
そう、言いえて妙ですわね。ほほほほほ!
「そういえば、苺摘みに屋敷さんとちいちゃんを誘いましてよ」
「そうなんだ! 楽しみだね、皆で苺摘み!」
ええ、本当に。
「頑張ってお手入れしましょうね」
「うん! あ、春君だ……」
あら、本当。サリエさん、よく春さんを見付けますこと、ほほほ……ほ?
まさか……。いえ、でも! 早まってはいけなくてよ、桜子! 2度も同じ過ちを繰り返す訳には……! でも!
「あ、あの……サリエさん?」
「なあに?」
「春さんの腹筋は割れているのかしら?」
「うん! 割とぽちゃっとして見えるけど、うっすら割れてるよ? どうして?」
「い、いえ! ほら、わたくし春さんのお隣の席ですから、つい気になって。それだけでしてよ?」
「ふぅん、良いなぁ……。Cクラスは楽しそうだねぇ」
「ええ、皆さん気さくで、担任のジャダン先生もレインボーの華麗なるウィッグの似合う素敵な先生ですし!」
ええ? まさか、かもしれませんわ……。
「あら? それより、どうして春さんの腹筋が割れていることをご存知ですの?」
「あ、私たち幼なじみで家族ぐるみのお付き合いがあるからねぇ。今年の春休みも一緒に海外の海に行ったりしたんだよ」
「まあ! 楽しそうですわねぇ……」
あら、わたくしが出る幕はなさそうですわ。そうですわね。余計なことはするべきではないわね。
「あのね、内緒だけどね……私の初恋は春君なんだ」
「まあ、初恋。可愛らしい響きだわ!」
「うん、今でも好きなんだよ? あ、でも、春君には内緒だよ?」
「ええ! ええ、もちろん! そんな野暮天さんな真似はもう致しませんわ!」
サリエさんはにこにこしながら、わたくしの手を引いて食堂へ向かいます。もう、大丈夫そうですわね。
あら? でしたら、そろそろゲームは終了なのかしら?
「サリエさん……ひょっとして、そろそろゲーム終了なのかしら?」
「ん? ゲームはもう終わってるよ? 私たちのチームは24位だったけどねぇ! 桜子ちゃんのチームは何貰えるのかなぁ? 楽しみだねぇ!」
「いえ、そちらではなくて……あの、こちらの世界の、という意味ですわ」
わたくしが言うと、サリエさんはピタリと歩みを止めてこちらへ振り向きました。
「ごめんね、桜子ちゃん……その件なんだけど、もう少しだけ考えさせて? 多分、あのゲームとは違うことになってるし。この先どうなるか分からないし……もう少しだけ、ね?」
そう言って首を傾げるサリエさんは、まるで、そうですわ。万祐子ちゃんみたいなのです。
「……そうだわ、サリエさん。前世の記憶があると言ってましたわね? ご自分が以前どなたなのか分かりますの?」
「ううん。その辺は曖昧なんだよねぇ……。断片的って言うのかなぁ。どうして?」
「わたくしの、大事なお友達に似ているところがたくさんありますの。癖とか……それに、あのとき一緒にいたので、もしかして、と思いましたのよ」
「そっかぁ……。早くそのお友達に会いたいよね?」
「え、ええ。もちろんですわ! あ、でも。サリエさんも大事なお友達ですから、わたくしが戻ってしまったら2度と会えなくなってしまうわ……そんな……わたくし、どうしたら……」
「あはっ! ごめんごめん。意地悪なこと聞いちゃったねぇ……早く戻れるように協力るすからね!」
サリエさん、優しい方だわ。きっと、春さんもサリエさんの優しいところを好きに違いありませんわ。大丈夫ですわね、サリエさん。
そして、食堂へ着くとレインボーなウィッグを被った先輩たちに温かく迎えられましてよ。
*******
『では、これよりパーティを始めます。新入生の皆さん、有志の先輩方のアトラクションと共にお食事をお楽しみください』
庶務の先輩のアナウンスによりパーティが始まりましてよ。自由席になっており、各テーブルに先輩方がおります。
わたくしとサリエさんは、屋敷さんとちいちゃんを見付けてから、中島先輩の座っていらっしゃるテーブルを探して、そちらに行きましてよ。
中島先輩の他に先輩のお友達らしき先輩が3人と、体育館を出てわたくしを罠に掛けた女性の先輩もおいでですの。
「あら、あなた、さっきの引っ掛かった子ね? どうだった?」
「おかげさまで、なんとか6位になれましたの。ありがとうぞんじます、先輩!」
先輩にお礼を言うと、良かったわ、と笑ってくださいました。食堂の料理人さんたちが、腕を揮って用意してくださったお食事を楽しみつつ談笑をしていると、アトラクションが始まりましてよ。
演奏や混声合唱、コントや落語、手品など素晴らしいアトラクションを披露してくださいます。
それから、リオウ殿下とエミリオ先輩のチェロとピアノのデュオも素晴らしかったですわ。
『では、午前のゲームの表彰を始めます』
そして、お待ちかねの表彰式です。まずは全員に参加賞として、レインボーアフロをいただきましてよ。お父様、お母様、恭親さんにお見せしなくてはね。
そして、10位から順に表彰です。
わたくしたち、チーム「あんみつ」は寮のカフェのスイーツ券15枚綴りをいただきましたのよ。嬉しいですわ。1位の方達はスペシャルメニュー券でしたわね。
3人で5枚ずつですから、これでサリエさんと何かいただきましょうね。
こうして、新入生歓迎会も恙なく終了、解散……と、なったところでおかしな事が起きましたの。
「でも、どうしてこんな変な鬘を被らなきゃならないんですか!?」
女子生徒の大きな声が食堂に響き、まだいくらかざわめきの残っていた食堂内が静まり返りました。
「ユリアちゃん……落ち着きなよ?」
「あなたも、いつまでそんな馬鹿みたいなものを被ってるつもりなの!?」
あら、それは……ここにいる方皆さんが被ってましてよ。理事長はじめ、先生方。リオウ生徒会長もエミリオ副会長も風紀委員長も、皆さんレインボーに華やかなる頭でしてよ?
「好い加減にしなさい、ユリア。これのどこが気に入らないんだ?」
殿下もとてもお似合いですわね。
「そうですよ? 被り心地良いじゃないですか」
そうですわね。歩き回って汗をかいても蒸れないですし。通気性抜群でフィット感が心地良いですわ。どこが気に入らないのかしら?
「リオウ様も、エミリオ様もおかしいわ! どうして私がこんなもの被らなきゃならないのよ!」
「いや、俺たちだけじゃないだろう? 皆被ってるし良いじゃないか」
殿下は気分を害せもせずに優しく諭そうとしてらっしゃいます。
「あーあ……。とうとう、自爆しちゃったかぁ……」
一連のやり取りを見ていたサリエさんが呟きましてよ。
「なんですの?」
「場所変えよう」
「え、ええ……」
こうしてわたくしとサリエさん、そして屋敷さんとちいちゃんも一緒に寮へ戻り、さっそく寮のカフェでスイーツを頂くことになりましたのよ。
「ふぅ……別腹だね」
「だな」
「ありがとう、桜子ちゃん!」
わたくしは、桃のシャーベット。サリエさんはフルーツのヨーグルト添え。屋敷さんは濃厚ミルクアイス。ちいちゃんは、ベリータルト。皆で一口ずつ交換していただいておりますの。
「美味しいねぇ……」
「で? 自爆ってなんなの?」
「なんかねぇ。猪俣さん桜子ちゃんのことを陥れようとしていたみたいだったんだよねぇ」
まあ、なぜそのようなことを? わたくし、猪俣さんに恨まれるようなことを……しましたわね。誠心誠意謝ったつもりでしたけれど、きっとまだ怒ってらっしゃるのね。
「ああ……小学生の頃陰口叩かれてたんだっけ?」
「そう。桜子ちゃんの粗探ししたり、何かやらかさないか虎視眈々と狙ってたみたいなんだけどねぇ」
「無理でしょ。マツリバヤシさん天然……て言うか、根っからのお嬢様だから」
「そうなんだよねぇ。だから、それでフラストレーション溜まって爆発? 自爆しちゃったんだねぇ」
「そうだったんだ。でも、マヒロさんマツリバヤシさんに忠告したりは?」
「そうですわね、屋敷さんの言う通りでしてよ? 教えてくださればわたくしも注意しましたのに。そうすれば猪俣さんもあのような真似はしなかったかもしれませんでしてよ」
「独断だけど、教えるほどじゃないかなぁ、って。だって、どう見てもあからさまだったし、相手にするほどじゃないかなぁって。ごめんなさい、桜子ちゃん」
そうでしたのね。サリエさんなりに考えてくださったのね?
「それで、会長とか副会長も前の階段の事故もおかしいな、って思い始めてたみたいだし」
「そうでしたのね……。ありがとう、サリエさん」
「大丈夫? 顔色悪いよ、マツリバヤシさん」
「え、ええ……」
「なんか、酷い顔色……今日は、部屋に帰ってもう休みな、ね?」
「そうですわね……わたくしお先に失礼しますわね。ありがとう、皆さん」
「うん。ゆっくり休んで? 今日は歩き回って疲れてるんだし、エレベーター使っちゃいなよ」
そうですわね……。




