サリエさんとわたくし――私と桜子ちゃん
「あのね、桜子ちゃん。私、最近変なんだ……桜子ちゃんと出会ってから」
も、もしや!
「そ、それは! わたくしが変だから?」
「うん、違うからね!」
良かったですわ。
「なんかねぇ、昔から私じゃない人の思い出がときどき頭に浮かんでたの……それが、最近はっきりと浮かぶようになって……うん。きっと、前世の思い出かもしれないねぇ。前世の私から見れば、ここはゲームの世界だったんだよ?」
なんてことですの!
では前世のサリエさんもこのゲームをしたことがある、と?
「まあ、奇遇ですわ! わたくしもお友達と一緒に遊んだゲームの世界と同じような世界なんですのよ!」
「「聖坂上マローネ学園」」
わたくしとサリエさんの声が重なりましてよ。心強くなってきましてよ!
「そっかぁ……桜子ちゃんも転生、じゃなくてトリップしてきたのかぁ」
サリエさんがしみじみと言います。
「あ、話の腰を折ってごめんね。それで?」
「……ええと、それで。ゲームをクリアしたら元の世界に帰れるのかと思いましたの。でも、最近あまりにもこちらの世界が現実的過ぎるので分からなくなってきたのですわ……本当にゲームの世界なのかしら? わたくし帰れるのかしら?」
もう、サリエさんにすっかりお話してしまいましてよ。
「そっかぁ……ううん……。卒業式の後にトリップしてきたんだね?」
「え、ええ……たぶん。あの、お友達の万祐子ちゃんと言う方と一緒に学園を出たと思ったらこちらの世界へ……」
「ふぅん? どんな感じだったの?」
「ええと……二人で手を繋いで学園生活を偲びながら……なぜか、突然悲しくなって苦しくなって……気が付いたら、でしたわ」
サリエさんは手に持っていたクッキーを食べて、お茶を飲んで考え込みましてよ。
とても難しいお顔をしておりましてよ。わたくしのことで悩ませるなど……
「ちょっと考えさせてね……」
「お願いしますわ……」
サリエさんはゆっくり考えたいとおっしゃってお部屋に戻って行きました。
やはり、話すべきではなかったのかしら?
********
びっくりしました。
桜子ちゃんと話しているとときどき懐かしく感じてたんだけど、桜子ちゃんだったんだ……。
前世の記憶があります! しかもここってゲームの世界みたいです!
なんて、恥ずかしくて人には言えなかったけれど。好きな人の名前を皆の前で叫ぶより恥ずかしい、と思っていたので……。まさか桜子ちゃんから異世界トリップしちゃった~。なんて聞くとは思わなかった……。
「どうしよう……」
皆さんお気づきのように、私、前世は桜子ちゃんの親友の万祐子でした。
桜子ちゃんは気付いていないけど、たまに万祐子と重なるときがあるみたい。
桜子ちゃん、あのときのこと覚えていないんだ……。
午午午午学園の卒業式の日。
突然のできごとで……。あのとき、二人で手を繋いで学園を出てすぐだったの。通りかかった男の人が突然、刃物を振り回して桜子ちゃんに向って行ったの。
私は思わず桜子ちゃんを庇って……男の人はすぐに取り押さえられたんだけど。たぶん、通り魔だったのかなぁ。私は分からないけど。
とにかく、桜子ちゃんも少し怪我してたけど倒れる私を必死で抱き締めて、私の名前をずっと呼んでくれて……。
大丈夫だよ。そう言いたくて、桜子ちゃんの名前を呼んで……。
でも、救急車が来た時には間に合わなかったと思うんだよねぇ。
で、気付いたらここにいました!
それからときどき前世の記憶らしきものが浮かんで、この学園の特待生として入学したときに、なぜか桜子ちゃんが怖く見えたり。
あと、本当に恥ずかしいんだけどリオウ殿下と結ばれるんだ~。とかお花畑なことを妄想したのは恥ずかしい記憶であります。なのでご内密に!
今思い出しても恥ずかしくて恥ずかしくて……
て、それよりも桜子ちゃん。
私に意地悪しようとしたのも、ゲームだとおもっていたからだったんだねぇ。でも、したくて意地悪したわけじゃないって言ってたしねぇ。
桜子ちゃんはどこにいても桜子ちゃんなんだなぁ……。
ああ、どうしよう。
たぶん、というかきっと桜子ちゃんも転生してきちゃったんだよね? と、言うことは祭囃子桜子ちゃんはもう死んでる、んだよね……。
どうしよう……。話すべきかなぁ……。
誰か相談に乗って……くれないよね……。




