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わたくし悪役でしてよ  作者: しぶぬきかき
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こちらのお嬢さんはどなたですの?

いつもお読みくださりありがとうございます。一話目固有名詞を一部修正しましたが、本文に影響はございません。また、誤字脱字に関しては気付き次第訂正を入れておりますが、本文自体に変更はございません。では、楽しんでいただければ幸いでございます。

 

 新しいクラスにて自己紹介がはじまりましてよ。

 みなさんのお名前とご趣味など、緊張しながらも紹介してくれるようすが初々しくてよ。これも、萌え! かしら?

 それにても、わたくしの椅子のずいぶんと小さいこと。椅子からヒップがはみ出ているような気がするのだけど。後ほど大きい椅子と取り換えていただかなくては。


 ……まだ四月ですのに暑いですわね。なぜか、汗が浮かぶどころか滝のように流れて来てましてよ。新しい環境に緊張しているのかしら? いえ、新しい環境というより全く知らない環境でしてよ? でも、学園の名前は聞き覚えはありますのよ。ああ! 考えれば考えるほど、万祐子ちゃんの笑顔が思い起こされましてよ。万祐子ちゃんはどちらにいるのかしら?


「桜子・フォン・マツリバヤシさん」


「はい!」


「あなたで最後です。早くなさい」


「はい。桜子・フォン・マツリバヤシと申します。趣味は読書と音楽鑑賞ですの。みなさんと仲良く楽しい学園生活を過ごしたいですわ。よろしくお願いいたしますね、みなさん」


 とりあえずみなさんの拍手を頂けましてよ。


 自己紹介を終えると丁度お昼になり、ジャダン先生の案内で学園内の食堂へ向かうことになりましたわ。今日は初めてですので、クラスのみなさんとの交流を兼ねて食事をご一緒してから先生の案内で寮へ向かいます。そちらで入寮手続き、寮長、寮母さんからの説明の後、解散。という流れになりますのよ。


 さて、食堂は校舎内一階の東側から渡り廊下を抜けた先にあります。生徒数を鑑みても余裕のある広さですのね。 

 それにしても、それほど歩いていないのに息が切れてきましてよ。あと少しですから、しゃんとしなければ。


 本日はビュッフェスタイル。お好きな物を召し上がれ、ということですわね。

 トレイを持って、みなさんに混ざってお料理を取りに向かいます。


「ええ、そちらを……それから、そちらと、そちらと。あら、そんなに沢山盛らないでくださる?」


 係りの方が取り分けてくれる仕組みですので、お料理と量を言えばよいのですが。……ですが、わたくしが量を言う前にお皿に山のように盛られそうになりましたの。お皿とのバランスが悪くてよ。初めて給仕をする方なのかしら?

 ともかく。トレイに乗った彩の綺麗なお料理と美味しそうな香りに心が弾んできましてよ。


「みなさん揃いましたね、ではいただきましょう」


 先生のご挨拶に、いただきます、とまたみなさん揃ってお行儀のよい挨拶。

 わたくしのトレイには、しじみとエビのお澄まし、お煮しめ、ほんのり桜色の桜ごはん。そして、鰆の西京焼き。

 食事が進むに連れ、みなさん緊張が解れて和気藹々と、とてもよい雰囲気でしてよ。

 それにしても、わたくしの右隣はまたしても壁、向かいは空席、お隣の席にはふっくらした頬の小柄な男子生徒のさん。彼は緊張しているのかしら。小刻みに震えて、顔色も心なし青ざめているように見えましてよ。確かお名前は……。


右衛門四朗春えもんしろうはるさん、どうかなさって? どこか具合でも悪いのかしら?」


 もしなんともなかったら、右衛門四朗春さんに恥ずかしい思いをさせてしまうのでわたくしは小声で尋ねました。それにしても、どこまでが名字なのかしら?


「ひゃ、ひゃい!」


 右衛門四朗春さんは大きな声で返事をしてくださいましてよ。きっと緊張しているだけですのね。


「でしたら温かい内にいただきましょう」

 

「ひっ! ママ、マ……マツリバヤシ様のお気を煩わせて申し訳ございません!」 


 本当に大丈夫なのかしら、右衛門四朗春さん。だんだん青白くなって、瞳も潤んでいるし、もしかして体が弱いのかしら?


「校医さんを呼んでもらいましょうか?」 


「ぴっ! だ、だいじょぶでしゅから、ほっといて下しゃい!」


 右衛門四朗さんは大きな声を出しながら椅子から転げ落ちてしまいました。大丈夫ではなさそうでしてよ。ジャダン先生にお報せして校医さんを呼んでいただくべきではなくて?

 

「桜子・フォン・マツリバヤシさん」


 あら、先生。丁度よいところへ来て下さいましてよ。早く校医を呼んでいただかなくては。


「何を騒いでいるのです? 食事中ですよ」


 クラスのみなさんが何事かとこちらを見て、先生などさらに厳しいお顔立ちになっております。みなさん、さきほどまで歓談しつつお食事の時間を楽しんでいましたのに。


「お騒がせして申し訳ありません、みなさん。さぁ、お食事を再開なさって」


「……桜子・フォン・マツリバヤシさん」


「はい」


「入学早々なにをしているのです?」


「ええ。本当に申し訳ありませんわ、先生」


「……今回は大目に見ますが、あなたのことは中等部の先生方から申し送りがきています。高等部で同じようなことができるとは思わないことです」


 大きなため息を吐いたジャダン先生は、眉を吊り上げてそう仰いましたの。怒ってらっしゃるようでしてよ。たしかに、お食事中に騒ぐなど言語道断でしたわ。

 それにしても、わたくしのことで申し送りされるようなことなどあったかしら? よく分かりませんことよ。いえ、今はそれどころではなくてよ。


「はい。以後、気を付けます。ところで、校医さんを呼んでくださいませんか?」


「校医? なぜです?」


「右衛門四朗春さんの具合があまりよろしくないようですの。お顔が真っ青でしてよ」


 今は真っ青どころか真白なお顔の右衛門四朗春さんが心配でしてよ。きっと、初めての環境で疲れが出てきたのに違いなくてよ。


「好い加減になさい! 桜子・フォン・マツリバヤシさん」

 

 大きくはないけれど、良く通るジャダン先生の声に食堂中が静まり返りました。すごい迫力ですわ。午午午午学園にはここまで迫力のある先生はいませんことよ。

 右衛門四朗春さんなど、魂が抜けたようなお顔になってましてよ。


 ああ、でも桜子! 確かに、高等部生になるのにあれこれ言うのは彼らの自尊心を傷付けてしまうかもしれなくてよ。わたくしが親切と思っても、それは彼らの成長を妨げるだけかもしれないわ。男子生徒なら特に女生徒に恰好悪いところなど見せたくないでしょう?


「ええ。いえ、はい。余計なことをして申し訳ありません、右衛門四朗春さん」


「ぴっ! いえ、はい、先生! だいじょうぶでありましゅから!」


 たとえどんなに真白なお顔をしていても、わたくしは、あなたの意志を尊重しましてよ。右衛門四朗春さん。


「分かりました。衛門四朗春さん。本当に具合が悪ければ校医を呼びますよ」


「い、いえ! それには及びません!」


 そう言うと、衛門四朗春さんは椅子にきちんと座りなおして、お食事を再開しましてよ。

 その後、みなさんもお食事を再開してつつがなく食事を終えました。


 そして! 次はいよいよ寮ですのね……楽しみでしてよ!

 それにしても、お食事後はますます暑くなってきましてよ。


 寮への道のりは、それほど遠くありませんでした。庭園を抜けて、男子生徒は西へ、女子生徒は東へ五分。五百メートルもありませんわね。それなのに、わたくし動悸、息切れを起こしてしまいましたの。こんなこと初めてでしてよ。


 寮は校舎の建築様式とは異なり、八階建てのRCマンションでしてよ。ホワイエにて寮長さんと寮母さん、それとお手伝いの先輩方がお出迎えをしてくださいました。寮母さんは優しいお顔立ちの年輩の女性で、寮長さんは二年生の先輩でしてよ。

 寮内施設の説明、寮生活における注意事項などの後、ひとりひとりに鍵を渡していきます。

 

 わたくしは四階の角部屋の五二五号室でしてよ。どきどきわくわく、ですことよ。


 など浮かれておりましたけれど……。

 階段で上らなければなりませんのね……四階まで。エレベーターの使用は原則として五階以上のみの使用だそうですの。

 お部屋に着く頃には案内してくださった先輩が、なんでしょう? 遠い目? いえ、憐憫の眼差しをしてらしたわ。


「案内、ふぅ、ありがとっ……ございました、先輩」


 息が切れて咳き込みそうになったのを堪えて先輩にお礼を言うと、小さく会釈をして去って行きました。

 こうして息も絶え絶え、震える手で鍵を開けてやっとお部屋に入れましてよ! ごほ! 失礼いたしました。


「まぁ、可愛らしいお部屋ですこと」


 八畳ほどのお部屋には扉が二つありましてよ。お部屋にはすでに小さな木製テーブルと座面が皮張りの木星の椅子が並んでいます。

 それに、なんということ……テレビですわ! テレビがありましてよ、みなさん! では、どこかにゲーム機があるということですわね。うふふ、万祐子ちゃんに教えてあげなくてはね。 


「ゲーム機はどこかしら?」


 お部屋に入って左側の扉を開けると、六畳ほどの寝室になってましてよ。ベッドがあって奥にはクローゼットまでありましてよ。


「このクローゼット、開けても良いかしら? 良いのよね? うふふふふ。ホーホッホホホ……ほ?」


 なんということでしょう!

 クローゼットの中には、その、お洋服らしきものが山積み? になって更に、その上にバランス悪く大量の段ボールの箱が積まれていましてよ。

 

「ああっ……いけないわ」


 段ボールが傾いてこちらに倒れて……!


 とりあえず、横に避けたので事なきを得ましてよ。

 それにしても、やたらと軽そうな箱ですことよ。何が入っているのかしら? とりあえず、中身の確認をしましょうね。


「お菓子……ですわね」


 チョコレート、飴。それから袋に入ったお菓子は……まぁ、ポテチではなくて? なぜこんなに大量にあるのかしら?

 他の箱は何が入っているのかしら?


「お菓子、ですのね……こちらも、こちらも……あちらも、そちらも……」


 一時間ほど掛けて調べた結果。お菓子の箱が全部で三十箱。ゲーム機はありませんでしたの……。


「は……もう一つ、扉があったわ。きっとそちらに……! いえ、その前に出したお菓子を箱に詰めなおさなくては!」


 ええ、それはもう手早く詰めなおして件の扉の前にやってきました。

 きっとここにゲーム機が!

 心なし、震える手で扉を開けると脱衣所と少し広めのユニットバスがありましてよ。ゲーム機があるような場所には見えなくてよ、桜子。

 いいえ、きっとこの脱衣所の鏡の下のラックに……。


「あら? え? え?」

 

 わたくし、こんなに動揺したのきっと物心がついてからは初めてでしてよ。


「んまああぁぁ! どなたですの、この……えと、ふくよかなお嬢さんは!」


 ええ、あまりはっきり言うとお嬢さんは傷付くでしょうから遠回しに言いましたけれど、お顔がパンパンに膨らんで目も鼻も口もお肉に埋もれて、体は鏡からはみ出ていましてよ。 

 お嬢さんはわたくしと全く同じ動きをして……いえ、わたくしですのね。

  

「わたくしですのね。こちらの、その、ふくよかなお嬢さんはわたくしですのね……」


 なんということでしょう、万祐子ちゃん。わたくし、いつの間にか太ってしまったようですのよ!

 縦ロールが惨めさを引き立てていてよ!


 いいえ、自分を憐れんでいる暇などなくてよ、桜子! ダイエットですわ!



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