サリエさん、部活復帰……そしてお悩み相談
本日水曜日、サリエさんはめでたく部活に復帰でしてよ。これで、恋する乙女な学園生活、を見守る生活に戻れますことよ。
ですから、わたくしは部活のときは草むしりをしながらサリエさんと中島先輩を見守ることに徹するのです。
「桜子ちゃん、後で苺見に行こうよ」
「そうですわね」
ではなくて。せっかく気を利かせてサリエさんと中島先輩が二人で草むしりできるように、お二人から離れましたのに。
「あの、サリエさん? 中島先輩が人手を欲しがっているようですわ……とか、聞いたような」
「春君が手伝ってるから大丈夫だよ?」
まあ、なんということ? このままでは中島先輩と春さんが怪しからん仲に!
「春君も一緒に苺の手入れしてくれるって!」
「でしたら、中島先輩にも手伝っていただきませんこと?」
わたくしが提案すると、サリエさんはちょこんと首を傾げにこりと笑って頷きましてよ。わたくしの気持ちが通じましたのね。
「いちご、いちご」
今日の分の草むしりを終えると、さっそく苺の植えてあるビニールハウスへ。サリエさんは久しぶりのため楽しそうに口ずさみながら、わたくしの手を引っ張って温室へ向かいます。
「苺の花ですわ!」
白い小さな蕾を付けております。花が咲いて実がなって……楽しみでしてよ。
でも、わたくし苺摘みに参加できるのかしら?
ゲーム通りに進んでいませんから、もしかして、こちらの世界へ来た時と同じように突然に元の世界へ帰ることがあるかもしれません。この瞬間にもそれは起こり得ることですわ。
「どうしたの? ……桜子ちゃん?」
突然、黙り込んだわたくしにサリエさんが心配そいうに声を掛けてくださいます。
サリエさんに相談したら……変な人と思われてしまうかしら? ですが、サリエさんが誠実な方ですから笑わず聞いてくれるかもしれません。そして、頭の良い方ですから何かアドバイスを頂けるかもしれません。
「あの……わたくし……」
「うん! 私で良ければ言って。今度は私が桜子ちゃんの悩みを聞く番です!」
ああ、サリエさん! あなたのような方とご縁を持ててわたくしは、果報者ですわ! こちらの世界の万祐子ちゃんですわ。嗚呼……万祐子ちゃん……!
「万祐子ちゃん! あの、ここではなんですから……後ほどわたくしのお部屋へいらしてくださいな」
「え? まゆこ……?」
いけなくてよ。感極まって思わず万祐子ちゃんのお名前を叫んでしまいましてよ。中島先輩と春さんが驚いてこちらを見ていましてよ。
そうですわ! 今はわたくしなどに構わず中島先輩と仲良くしてくださいませ!
「ほほほ……間違えてしまいましてよ。仲良しの方とサリエさんの雰囲気が似ておりましたもので……。今は、中島先輩に今後の苺のお手入れ指導をしていただきましょう」
さあ! わたくしに遠慮せず中島先輩の胸へ飛び込むのです! わたくしが見守っておりますから。
「さあ、行きましょう! 中島先輩の元へ」
「あ、うん!」
わたくしたちは温室の反対側で苺の様子を見ている中島先輩と春さんの元へ向かいました。
ところが……!
「それでね、葉っぱの裏側にも水をかけてあげると良いんだってよ?」
「そうなんだねぇ……」
「あと、花は一株に3輪から5輪の残して摘むと、栄養が行きわたるんだって」
「え、そうなの? 摘むのは可哀そうだけど……仕方ないよねぇ……」
中島先輩受け売りのお手入れを嬉々として説明する春さんと、嬉しそうに聞いて一緒にお手入れをするサリエさん。
なぜですの!? なぜ春さんと!?
「どうしたの、桜子ちゃん?」
「い、いえ……なんでもありませんでしてよ。ただ、納得がいかないだけでしてよ」
「なにが?」
「サリエさんが、春さんと……いいえ! お花を摘むのが可愛そうなので……」
なぜか、わたくしが中島先輩と二人でお手入れをしています。お手入れをしつつ、サリエさんを見ているとサリエさんと目が合いました。
サリエさんが満面の笑みで手を握って力いっぱい親指を立てました。
「仲が良いね、君たち」
「え、ええ。仲良しですの。親友ですのよ!」
中島先輩にもお分かりですのね! わたくしたちの仲の良さが!
ほほほほ! こうして苺の手入れも無事に終わり本日の部活も終了ですわ。
清々しい気分でサリエさんと一緒に寮に戻りましてよ。
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サリエさんは着替えを済ませるとすぐにわたくしのお部屋へやってきました。
お湯を沸かしてお茶の準備と、お菓子の用意もしております。先日頂いた先輩のとっておきのプリンと水羊羹はきちんとお返しいたしましてよ。
さて、本命とも言えるゲーム機の準備も完了したところでサリエさんがやってきたのです。
「お待ちしてましたわ。さ、お入りになって、ゲームしましょう、ゲーム!」
いけない、小さい子供みたいでしてよ。落ち着きなさい、桜子。
サリエさんとこうしてゲームをするのも久し振りですから、ついつい嬉しくて……。
「ゲーム。も良いんだけど。桜子ちゃん、何か悩みがあるみたいだったし」
「悩み? ……?」
そ、そうでしたわ!
「あ、そうですわね。先に宜しいかしら? さ、座って」
小さなテーブルの小さな椅子を勧めて、お茶を二人分用意してわたくしも椅子に座りました。
「それで、どうしたの?」
「あの、恥ずかしいのですけれど……その、変な人と思わないでくだるかしら?」
「うん!」
でも、いざ他の人に話すとなると恥ずかしいですわね。
わたくし違う世界からやってきましたのよ。違う世界の人間ですのよ? ええと、こちらはゲームの世界のようですわ?
「なんだか、口に出して言うのは恥ずかしいですわね……」
サリエさんはお茶を飲んで少しだけ首を傾げて、わたくしが言うのを待っております。
「もしかして……中島先輩のこと?」
「あら、中島先輩がどうかなさって?」
「うん……桜子ちゃんて中島先輩のことが好きなのかなぁって……思ったりして」
「違いましてよ? あら、サリエさんが中島先輩をお好きなのではなくて?」
「え!? 違うよぉ! 私は……え、と私のことは今は良いよ」
「そうですの? あら? わたくしすっかり勘違いを……まあ! 恥ずかしいわ!」
なんて早合点を。
しかも、屋敷さんとちいちゃんにも言ってしまいましてよ!? 後で、誤解を解かなくては! 彼女たちからサリエさんの耳に入る前に訂正しなくては!
「そっか。違うからね! それで、桜子ちゃんどうしたの?」
「まあ! ほほほほ、わたくし以前こちらとは違う世界に住んでいましたのよ?」
「え?」
まあ、ツルっと口が滑ってしまいましたわ! どうしましょう……いえ、サリエさんならば……。
「え……と。それって、あの異世界に転生しちゃった~、とか?」
「転生? 輪廻転生のことかしら? いえ、違いましてよ。卒業式が終わったと思ったら、こちらの学園の入学式に参加しておりましたの。桜子・フォン・マツリバヤシとして」
わたくしが言うと、サリエさんはティーカップを持ったまま固まってしまいました。
やはり変な人と思われてしまったようでしてよ。
「ごめんなさい、サリエさん。今のは聞かなかったことにして、今後とも仲良くしてくださると……サリエさん? サリエさん?」
「……! あ、ごめんねぇ……ちょっと、ビックリしただけ」
「そ、そうですの? お菓子でも召し上がって? 美味しいのよ?」
「ありがとう……。あ、あのね? あのね? 私の話も、聞いてくれるかなぁ……桜子ちゃん」
サリエさんはシナモン風味のクッキーを一つ手に取ると、泣きそうなお顔をしました。
「ええ。もちろん」




