サリエさんの恋を応援する会でしてよ
ほほほほほ! 持つべきものは頼りになるお友達と先輩ですわね。
なんだかんだとおっしゃっても、サリエさんの疲れた様子を心配なさった中島先輩が殿下と交渉してくださって、生徒会のお仕事はデータの復旧が済み次第終わりにしてくださいましたのよ!
中島先輩もきっとサリエさんを憎からず思ってらっしゃるのね。サリエさんが園芸部に戻ってきたら、二人きりになれるように気を利かせなくては。
もう一つ。わたくしがもう嫌がらせをしないことをご理解いただけたのか、猪俣さんも生徒会預かりではなくなるそうですわ。
などと考えながら昼食をいただきに食堂へ来ると、ちょうどサリエさんも来ましてよ。
「あ、桜子ちゃん!」
「ごきげんよう、サリエさん。宜しければ一緒にいかがかしら?」
「うん!」
二人で並んで食堂へ入ります。
「お仕事はどう?」
「無くなったデータも、書類もできたよ! 明日か明後日には部活にも行けます!」
「でしたら、また心置きなく部活に励めますわね。みんな心待ちにしてますのよ」
「ありがとう。苺摘みも楽しみだねぇ」
中島先輩を想ってか、サリエさんの頬がピンクに染まります。可愛らしいですわね。乙女ですわね。
「そうですわ! わたくしもいよいよゲーム機を買っていただけることになりましたの! 今度はぜひわたくしのお部屋で一緒に遊びましょう」
「そうなんだ。何のソフト買うの?」
「マリモバトルと、恋愛シミュレーションゲームも買って頂きますの! 一緒に攻略しましょうね」
え? とサリエさんが何やら微妙なお顔をなさいましてよ。
あら、恋愛シミュレーションはお好きではないのかしら……?
「あの……?」
「う、ううん、何でもないよ! 楽しみだねぇ」
「ええ!」
ほほほほ、楽しみですことよ。
二人で楽しく語らいながら、お食事をしているとサリエさんが突然俯いてしまいました。
「まあ、どうなさったの?」
「あのね、桜子ちゃん……」
「なにかしら?」
「あのね……あのねぇ……」
言い淀みながら俯いていたお顔を上げると、なぜか真っ赤になって目が心なし潤んでおります。
「どうなさったの?」
「あの……私、あの……。あの! ……だめ! やっぱり、恥ずかしくて言えない!」
サリエさんは両手で顔を覆うとテーブルに伏せてしまいました。お食事中にいかがかと思いますけれど、悩める乙女のようですし……。乙女の悩み? まあ、もしかして?
「ええ……ええ! 分かりましてよ。全て、わたくしにお任せなさいな!」
「……え? あ、ありがとう……?」
恋のお悩みですのね!
中島先輩と結ばれるように、わたくしの恋愛経験値(万祐子ちゃんと遊んだゲームのみ)を存分に発揮いたしましてよ!
お任せなさいな!
********
さて、そういう訳で作戦会議でしてよ。
メンバーは屋敷さん、ちいちゃん、わたくしの三人です。放課後、少々お時間を頂いております。
「つーかさ……こればっかりは本人同士の気持ちの問題だし、外野が騒いでどうにかなるもんじゃないでしょ」
「……そうよねぇ」
なのに、お二人はあまり乗り気ではなさそうです。
「でも、わたくしサリエさんの恋の行方をぜひとも見守りたいのです」
「なんで?」
なぜなら……。
あら? なぜだったかしら?
あ、そうでしたわ。サリエさんの恋を応援して、見守ってハッピーエンドになった暁にはわたくし元の世界に戻れるのでしたわ。
そんなことを言ったらおかしな人と思われてしまいますわね……。
「ええと、わたくしの家柄は恋愛などは縁遠いものですから……せめて、お友達には素敵な恋をしていただきたいのです」
ええ、これもまごうことなき本心でしてよ。
こうして生活しているとゲームの世界だなんて思えませんもの。ハッピーエンドになったら元の世界に戻るのですわね……なにやら寂しくなってきましてよ。
「そっかぁ……。でも、私たちに出来る事ってないよね?」
「ええ。ですから作戦会議でしてよ」
「とりあえず見守る方向で良いんじゃないの? ヤバそうになったら手助けするってことで」
……ちいちゃんは、あまり積極的に手助けするのは反対のようですわね。
そうですわね……。わたくしが、一人ではしゃいでも仕方ありませんわね。
「お時間取らせてごめんあそばせ……」
「マツリバヤシさん、そんなにしょんぼりしないで。もしものときは手伝うから、ね?」
「わかりましてよ……わたくし、部活に行ってきますわね……」
********
草をむしりながら考えます。
これからのことを。
あまりにも現実的な上に、最近お友達が増えたせいかここがゲームの世界だということをすっかり失念していましてよ。
そして、もう一つ恐ろしい可能性が挙げられます。
ここがゲームなどではなく現実の世界だという可能性が……。
だとしたら、元の世界のわたくしはどうなってしまったのでしょう。
パパやママやお兄様、万祐子ちゃんにもう二度と会えないのかしら?




