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わたくし悪役でしてよ  作者: しぶぬきかき
23/35

思わぬ……


 やってしまいましてよ……。

 思わずサリエさんに近付くなと言ってしまいましてよ……。しかも大きな声で……。でも、あのような不誠実な方達はサリエさんに相応しくありませんもの。

 ゲームのシナリオがなんですの?

 ゲームなどもう関係ありませんことよ。


「ど、どうしたの、桜子ちゃん? 何かあったの?」


 あの後サリエさんのお部屋に急いで行くと、心配しながら待っていてくださいましたの。

 風紀委員室でのことをお話しすると、少し怖いお顔になりましてよ。でもとくに何もなかったと告げると、頬を膨らませながら納得してくださいましてよ。


 それから夕食を頂きに二人で食堂へ行くと、屋敷さんとエレベーターでお会いしたのでご一緒することに。


「え! じゃあ、猪俣さんと一人で対面したの?」


「一人ではなくてよ? 風紀委員長さんも殿下も、エミリオ先輩も……」


 思い出したら腹が立って……いいえ。落ち着きなさい桜子。


「え……だって、あの人たちって猪俣さんの取り巻きでしょう? 敵陣に一人で乗り込んだってことでしょう? 大丈夫だった?」


「ええ、問題なく謝ることができましてよ。そういえば、確かにいつも彼女を取り囲んでいますわね……」


「うん。猪俣さん男子に囲まれて楽しそうにしてるよ?」


 ええ、先ほどまではサリエさんを囲んで下さることを願いましたけれど、願い下げですわ。


「悲しまないでください、サリエさん。あなたにはもっと相応しい方が現れるはずですから……」


「んん? なにが?」


「い、いいえ。なんでもありませんことよ、ほほほほほ。サリエさんや屋敷さんはどのような方が好みですの?」


 は、はしたないことを聞いてしまいましてよ。今のはなかったこと――。


「私はねぇ。優しくて頼りになるカッコいい人かなぁ」


「私も!」


 サリエさんが言うと、屋敷さんも頷いて同意しています。わたくしも全く同感でしてよ。


「そうですわよねぇ……優しい方……そうだわ、中島先輩はどうかしら?」


「中島先輩優しいよねぇ。それに、綺麗だよねぇ」


「でも、あの人綺麗すぎじゃない? よっぽど自信がないと隣に並べないよね……」


 そう言われると……そうですわねぇ。バランスは大事ですわね……。


「それにしても、赤井里先生はカッコ良いよねぇ。あの甘い声で囁いてほしいなぁ……」


 屋敷さんがウットリしながら呟いておりましてよ。

 やはり女子の皆さんが憧れる先生ですのねぇ。あのようなあんぽんたんな方に比べれば……。生徒と教師だからなんだというのです。

 それにしても、何を囁いていただきたいのかしら? な・ん・て! わたくしにも分かっておりましてよ? もちろん「愛の言葉」ですわ――。


「――君優しいんだよねぇ。頼りになるしカッコいいし腹筋割れてるし……」


 え? サリエさん? 今……なんておっしゃいましたの!?

 サリエさんもどなたかの名前を呟いてウットリしております。聞き逃してしまいましてよ!

 どなたが、優しくて頼りになってカッコ良くて腹筋が割れていますの!?



********


「はぁ……」 


「溜息吐いてどうしたんだい? 桜子ちゃん」


「あ、お綺麗な中島先輩……」


 今月から秋にかけての庭園のお手入れは草むしりが主流になりますのよ。

 先輩は軍手というものを用意してくださって……お優しい先輩ですわ。


「中島先輩はお優しいのですね、お綺麗ですし」


「そ、そんなに綺麗、かな?」


「あ、失礼いたしましたわ。男性に綺麗や可愛らしいは褒め言葉になりませんでしたわね……」


「うん、そうだね。でも、悪意はなさそうだから今回はだけは見逃すよ」


 まあ、お話が分かる方ですのね。優しいし、お綺麗だし……そのくせ学園指定ジャージもお似合いで……て、わたくしがときめいてどうしますの?


「それより、サリエさんは今日の部活はお休みですの?」


「ああ、それがね。生徒会の手伝いに引っ張られちゃって」


「んまあ! どういうことですの? わたくし、もうサリエさんには近付かないように言いましたのに!」


 ずうずうしいこと甚だしいですわ!


「何かあったの?」


「リオウ殿下とエミリオ先輩は、サリエさんの純粋な乙女心を弄んだ不届き者でしてよ!」


「ええー……それは、あの二人に限ってはないんじゃないかなぁ?」


「んまあ、んまあ! やはり、男性は男性の味方ですのね!」


「いや、そんなウーマンリブみたいなことを言われても……。あの二人は、誠実だよ」


「冗談はお止しになってくださいませ。先日までサリエさんをチヤホヤしていたのに、今は猪俣ユリアさんを囲んでチヤホヤでしてよ」


「いや、それはないよ。二人とも立場を知っているから、なんだかんだ言いつつも婚約者一筋だよ?」


「そんな訳ありませんことよ!? 第一、殿下とわたくしの婚約は白紙になりましたもの!」


「あ! あ、ああー……え、と。その、でも、君と婚約しているときは余所見はしていなかった!」


「だって、わたくし知っていますのよ? 小学生のころ、殿下と猪俣さんが仲良く手を繋いで遊んでらしたのよ! それは、浮気ではなくて!?」


 わたくし知っていましてよ! 手記に書いてありましたもの。


「いや、だって。小学生だよね? 小さい頃は大体そんなものじゃないか? 思春期以降はそういうことは一切ないから。堅物殿下と言われるくらいだからね」


「ならなぜ、サリエさんを囲んでチヤホヤしてましたの!?」


「チヤホヤ、してたかなぁ? ただ、すごく優秀な子だ、とは褒めていたけれど……。苺の苗のときは、忙しいから早く苗を植えるの終わらせたい、とかって言ってたしなぁ……」


「とにかく、次からは可愛い後輩を殿下とエミリオ先輩から守ってくださいませね!」


「はいはい。さ、今日の草むしりはこれくらいにしようか。ミミちゃんと遊んでから帰ると良いよ」


「先輩の分からず屋! 頑固者! 綺麗者!」


「え? 桜子ちゃん? 桜子ちゃん!」


 先輩に子供扱いされて、わたくしは悔しくなって走って逃げてしまいましたのよ。これでは、むしろわたくしが分からず屋な感じですわね。


 でも、ものすごく嫌な予感がしますのよ。

 今までの情報がごちゃごちゃと、形にできないもやもやとしたものになって、頭の片隅で何かを告げているようなのです。




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