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わたくし悪役でしてよ  作者: しぶぬきかき
19/35

幕間

 

 

「桜子は?」


「お部屋にいらっしゃいます」


 そうか、と呟いて恭親は溜息を吐いた。

 桜子を押し付けられるなど夢にも思わなかった。こんなことなら、さっさと誰かと結婚しておくべきだった、と苦々しい想いで書類を見つめた。


 恭親は、金融、自動車産業、貿易など手広く事業を展開している小野伯爵家の三男だ。マツリバヤシ侯爵家とは祖母の代で繋がっており、桜子と恭親ははとこのに当たる。だが、実際は年に一度会う程度で、顔を知っている、という希薄な繋がりだった。

 そういう薄い繋がりでも、桜子の噂はなにかと耳に入ってきていた。

 ありていに言えば、悪い噂ばかりで、良いことは一つもない。ものすごく好意的に解釈すれば、一途に婚約者である殿下を慕っている、とも言えるのだろうが生憎とそんな人間はいない。

 断ろうにも話は本人そっちのけで着々と進み、恭親に話が来た時には全てが決まった後。

 そもそも恭親に白羽の矢が当たったのは、なんとなくリオウ殿下に似ているから、という理由だった。

 

 かえすがえすも悔やまれる。

 なぜさっさと結婚しなかったのか、と。


「少し休憩するか……ん?」


「おや?」


 恭親とレミジオ二人揃って訝しげな顔をして見合わせる。

 静かにしていなければ聞き取れないほどの音量だが、二人の耳に流れる旋律が入ってきた。音の元を辿るとリビングからピアノの音が聞こえてくるのが分かった。恭親は静かな曲に聞き入っていたが、レミジオは首を傾げている。

 恭親は演奏が終わると自然に拍手していた。図々しくも、もう一曲リクエストすると快く演奏してくれた。

 噂されている桜子とは明らかに違い過ぎて、違和感を感じるどころではなかった。


「あの方は、桜子様なのでしょうか?」


 書斎へ戻るとレミジオの呟きが恭親の耳に入ったが、恭親は首を横に振った。


「見た目は桜子のようだが……俺は彼女をよく知っている訳ではないから分からない」


 侯爵家に長く勤めるレミジオは首を傾げているが、恭親には知りようがない。今までのことをいくら聞かされても、実際に彼の目で見たわけではないので実感できないのだ。

 だが、悪い噂塗れの彼女がこの先、どのように学園生活を送るのか心配になったのは確かだ。




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