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わたくし悪役でしてよ  作者: しぶぬきかき
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わたくしの華麗なる意地悪 2

  

 

 使命感に燃えるわたくしに、この程度の土砂降りなど、と思っておりましたけれど……寒いですわ。冷えますわね。

 暖かいシャワーでも浴びて髪を乾かしてから、寮母さんのところへまいりましょう。


「さ、寒いですことよ……シャワーでは温まりませんわ……」


 室内は適温に保たれているのですけれど、本当に適温なので冷えた体には少々厳しいですわ。体の震えが止まりませんことよ。りょ、寮母さんのところへ行かなければ……それから、カフェで温かいお茶でも頂こうかしら?

 手早く髪の毛を乾かして、寮母さんの元へ向かいました。普段は、寮の入り口が見えるカウンターに座っていらっしゃいます。

 相変わらず優しそうな方です……。くしゅっ!


「あら、大丈夫?」


「失礼いたしました。少し寒くて」


 ええ、寒いので上に何か羽織りたいのですが、羽織れるものがないのです。いえ、ありますけれど、寮内でセーブルのショールは羽織りたくありませんことよ。


「顔色があまり良くないようね。今日は早めに寝なさいね」


「はい。お手数ですけれど、1-Sクラスのサリエ・マヒロさんを寮内放送で呼んでいただけますか?」


「分かったわ。ここに呼んで良いのかしら?」


「はい」


「じゃあ、ちょっと待ってなさいね」


 寮母さんがサリエさんを呼び出して、十分ほど経つとサリエさんがやってきました。やってきたサリエさんは、とても眠たそうなお顔をしていましてよ。


「お待たせしてすみません、寮母さん。さっき寮内放送で呼ばれた、1-Sサリエ・マヒロです」


「お待ちしてましてよ、サリエさん」


「あ、マツリバヤシさん。さっきぶり」


「あなたにご用があるのはわたくしですのよ」


 サリエさんは、わたくしを見ると首を傾げました。こういう仕種が可愛らしいのでしょうね。


「明日の朝八時までに、生徒会室へ来て欲しいとの伝言を承りましたの。よろしくて?」


「え? 私が? 生徒会室に?」


「そうです。あなたです、サリエさん。忘れずに生徒会室へ行ってくださいね」


「え? 私だけ?」


「それは存じませんことよ? わたくしが頼まれたのは、サリエさんだけですもの。では、ごきげんよう」


 無事に使命も果たしたことですし、暖かい湯船に浸かって早く寝ましょう。明日の朝も嫌がらせの品を詰めなくてはなりませんからね。


「ま、待って! マツリバヤシさん」


「はい、何かしら?」


「あの……明日の朝、生徒会室に一緒に行ってくれませんか?」


 サリエさんは小首を傾げてわたくしを見上げてきました。……可愛らしいのですけれども、何かしら違和感があるような、ないような……。


「サリエさん。わたくしは呼ばれていないので、行けませんことよ?」


「う、うん……それは、分かってるけど。行ったことのない場所だし、生徒会室の前までで良いから、お願い」


 ここまでお願いされて断れましょうか?


「そうですわね……。そこまででしたら、よろしくてよ」


「じゃあ、八時に昇降口で待ち合わせで良いかな?」


「いけません! 八時までに生徒会室ですよ。ですから、七時五十分に昇降口で待ち合わせです」


「は、はい……。じゃあ、明日宜しくお願いします!」


 サリエさんは、ペコリと音が付くように頭を下げるとエレベーターへ向かいました。どうやら、五階以上のお部屋のようです。わたくしは、階段で地道に四階へ上りましてよ。階段の昇り降りもだいぶ慣れましてよ。

 さて、お風呂で温まったら、明日の嫌がらせの品を準備して寝てしまいましょう。

 

 

 ほほほほ、昨夜は早く寝たので風邪などひかずにすみましてよ。自己管理は大切ですわね。今日も雨でしてよ。昨日降り出してからずっと小降りの雨が続いてますのよ。それでも、わたくしは、朝六時には下駄箱へ向かいましてよ。


「あら? これは、昨日わたくしが入れた品ではなくて?」


 意気揚々とサリエさんの下駄箱の扉を開けると、昨日わたくしが入れたままの状態で嫌がらせの品が入っていましてよ。 


「では、今日の嫌がらせの品と交換、ですわね。……今日こそは、わたくしの嫌がらせの品を受け取っていただきますことよ! ほほほほ……」


 天井が高いせいか、笑い声が思った以上に響きましてよ。びっくりでしてよ。

 さて、今日はここでサリエさんと待ち合わせです。嫌がらせの品を見て、いったいどのようなお顔をなさるのかしら? 楽しみでしてよ。

 いったん寮に戻り、朝食を済ませて制服に着替え、学校へ向かう準備をしましょう。身嗜みの確認も忘れずに。栗色の髪は綺麗な縦ロールになっているのですが、いかんせんお顔が大きくて――初めて見たときよりも小さくなってきましたけれど――やはり惨めです。

 あら、もう行かなくては遅れてしまいましてよ。

 

「遅いですわ、もう八時になってしまうわ……」


 あと、一分ほどで八時になってしまいます。確実に約束の時間に遅れてしまうわ。気をもみながら腕時計を見ていると、パタパタと足音が聞こえてきましてよ。


「おはようございます、マツリバヤシさん! 遅くなってごめんなさい」


「おはようございます、サリエさん。さぁ、まいりましょう。廊下は走ってはいけませんことよ」


 二人で無言で早歩きで生徒会室へと向かいます。走っていないと言える限度ぎりぎりの速度でしてよ。

 生徒会室は、よりにもよって校舎の四階の西端に配置されています。もう八時になってしまったので遅刻です。二人とも少し息が切れてましてよ。あら、息が切れているのはわたくしだけでしたわ。


「どうしよう、遅れちゃった……怒られるかなぁ?」


「ふぅ、とりあえず、早く中に入って謝ることですわ……では、わたくしはここで――」


 お暇しようとしたら、サリエさんがわたくしの制服をぎゅっと掴んできましてよ。瞳が潤んで今にも涙が毀れてきそうです。ですが、いけません。遅れたのはサリエさん自身なのですから。ええ、わたくし昨日きちんと言いましてよ? 十分前に昇降口で待ち合わせ、と……。……分かりましたわ。


「……一緒に謝ってあげるので、泣かないで下さいな」


 これ以上、生徒会のみなさんをお待たせするわけにもいきませんし。ノックをすると、待っていましたとばかりに扉が開きましてよ。わたくしはサリエさんの背中をそっと押しました。


「失礼します……サリエ・マヒロです」


「ああ、お待ちしてました。さ、どうぞ……? 泣いているのですか?」


 扉を開けたのは栗色の髪の先輩。それにしても、わたくしと話すときよりもずいぶんと優しいですこと。


「あ、あの……遅れてしまってすみませんでした」


「ああ、確かに……遅刻ですね。ん? マツリバヤシ公爵令嬢も一緒なのですか? お呼びした記憶はないのですけれど」


 栗色の髪の先輩はわたくしを見て、顔を顰めました。


「あ、私が無理についてきてもらっただけなんです」


「そうですわね、わたくしもう教室へ戻りますわ」


 サリエさんも謝ったし、先輩も怒っていないようですし教室へ行ってもよろしいですわね?


「ちょっと、待て」


 と思いましたのに、奥から別の声が聞こえましてよ。殿下ですわ。


「何故、遅れたんだ?」


 サリエさんが遅れたからですけれど……。あら、これもチャンスではなくて? そうよ、ここでサリエさんを持ち上げれば、お二人のサリエさんに対する何かのパラメーターが上がるのではなくて? 


「わたくしが待ち合わせの時間を八時にしてしまったからですのよ。遅れさせて申し訳ございません。サリエさんは悪くありませんのよ」


 殿下と栗色の髪の方が呆れたお顔でわたくしを見てましてよ。


「ふぅん……お前は馬鹿か? いや、馬鹿だったな……。呼んでもいないのにノコノコやってきて、時間も守れないなんてな」


「ち、違うんです! あの、マツリバヤシさんは七時五十分に待ち合わせって言ったのに、私が遅れちゃったから。だからマツリバヤシさんは悪くないんです!」


「別に庇う必要はありませんよ、サリエさん」


 あら、栗色の髪の方は、ずいぶんと桜子・フォン・マツリバヤシを目の敵にしていますのね。はっきり言い切りましたわね。

 ……いいえ、サリエさん。是非ともわたくしを庇って貴女の印象を良くするべきでしてよ。


「……どうせ、殿下に会いたくて無理に付いてきたんでしょう? 伝言を受けたのもそのためなんでしょう? まあ、今ここで揉めても時間が惜しいので、遅刻の件はもう良いです」

 

「そうだな。何しに来たのか知らないが、桜子はもう戻れ」


「ええ。では、ごきげんよう」


 ふふ……ふふふふ、ほほほほほ! ついてきた甲斐がありましてよ! お二人がサリエさんの優しさにメロメロになる日も遠くなくてよ! それにしても、引き立て役がいないと優しさというものは、分かりずらいものですこと。





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