安らぎの
幼いカンナが孤児院にきて僅かの頃。
「ねえ、お名前なんていうの?」
座って本を読んでいたカンナに初めて目覚めた時にカンナの顔をのぞき込んでいたあの小さな女の子が話しかける。
「…カンナ」
「カンナ!何歳?私、今年でみっつよ!」
明るく振舞うその女の子は、カンナの隣にどかっと腰掛ける。
新しい友になるかもしれない女の子を歓迎している様だった。
「8歳…だよ」
「凄い凄いっ!私よりたくさん、お姉ちゃんだ!あと、本も読めるんだもん!文字って読める人少ないってお姉ちゃんが言ってた!」
凄い、と嬉しそうに何度も言う女の子自然と頬が緩む。
「あ、お姉ちゃん笑った!」
すると女の子はもっと嬉しそうに言った。
「お姉ちゃんずっとしょんぼりしてたから、笑ってくれてよかった!」
途端にカンナに言いようもない罪悪感が広がった。
「ごめんね…」
女の子は不思議そうな顔をした。カンナの言いようもない感情は理解できないようだった。
「?駄目だよ お姉ちゃん、笑顔笑顔!」
女の子は自分の頬を両手の人差し指でぐいっと上にやる。
「マーサ?誰と話しているのかしら?」
その時頭上から落ち着いた声がした。
「イレイアお姉ちゃん!この前ここに来たカンナお姉ちゃんっていうんだよ!」
見上げると自分より10歳は年上に見える少女が微笑んでいた。
後ろには何人か好奇の目線を送る子達がいる。
「カンナ…いい名前ね。綺麗な花の名前。」
そういってにこりと微笑み、目線を合わせてくる。
「皆貴方がここに来てから仲良くしたがっていたのよ?」
後ろを見るとこくこくと頷く子達がいる。
カンナは目を見開いた。
読んていた本を無意識に放す。
ここに来てからもずっと塞ぎ込んでいたカンナは、ここで初めて独りよがりであったことに気づいた。
ここに来る子達は家族から捨てられたか、死んでしまったかの二択だ。皆辛い過去を持っているに違いなかった。
「遊ぼ…みんなで遊ぼ…!私も皆と仲良くなりたい!!」
最初は囁くように、それからはっきりと聞こえるように。
皆嬉しそうに笑った。
そこにはカンナがここに来て初めて見る、しあわせというもので満ちていた。