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孤児院

滝の様な雨、悪に満ちたスラム街。

誘拐、強奪、恐喝…それらが日常茶飯事で周りは被害者に手を差し延べることもなくただ弱者が滅びていく街。


そんな街をふらふらと歩く幼い少女がいた。手足はやせ細り、力も無く、服はぼろぼろで皮膚も傷だらけ。髪は雨に濡れて顔にくっつき、体の汚れは洗い流されると同時に足は泥に塗れる。


「食べ物を…食べ物を…」

うわ言のようにそう呟き続けるその子は救いなど期待していなかった。でも、救いが無ければ死んでしまうだけであると知っていた。


雨の音が遠くなっていく。

少女は天を仰ぎ、その顔を濡らした。

「お母さん…お父さん…」


見たことのない軍服を着た男たちに壊された暖かい日々。

お母さんはこの国は戦争をしているから、国境沿いのこの村はいつ攻撃されてもおかしくない、と言った。お父さんはそれでもお前は守るから安心しろ、と言った。

でもその少女にとって、家族は一緒でないと意味が無かった。目の前で惨殺された愛しい人達…


今度お母さんに会ったら暖かいシチューをこしらえてもらおう。今度お父さんに会ったらぎゅっと抱きしめてもらおう。

それくらいは、望んでもいいでしょう?







「あ、起きた。」

目を覚ますと、視界いっぱいに自分より幼くみえる女の子の顔があった。

驚いて起き上がると女の子は元気良く走っていってしまった。


「ねえせんせー!あの子おきたよっ!!」

すると初老の女性は慌てたように駆け寄ってきた。


「体は大丈夫…そうね、よかった。自分の事は分かる?お名前、教えてくれるかしら」


「…カンナ。」

おっかなびっくり答えると女性は安心させるように微笑んだ。


「そう、カンナ…いい名前だわ。私はここの孤児院の管理をしているアイリスよ。皆は先生って呼んでいるけれど。」


アイリスは外で遊ぶ子供達に優しい眼差しを送る。子供達を大切に育て、見守っていることがよくわかった。


孤児院…か。

少女は羨ましかった。こんなにも想ってくれる大人がいることが。その大人が近くで、触れられるところで生きているということが。


「貴方の家はあるの?路上で倒れていたから回復するまででも孤児院にいてもらおうと思ったのだけど」


「怖い男の人が家も、お母さんもお父さんも壊しちゃったの」


少女は他人事のように呟いた。そうでなければまた涙が止まらなくなってしまうから。

もう泣いてはいけないと本能が言っていた。泣いたら、認めてしまうことになるから。心を、許すことになるから。


でもその時ふわっといい香りに包まれた。


「辛い思い、したのね。もう大丈夫よ、ここに居なさい」


アイリスは悟った。少女の思いを、考えを、悲しみを、憎しみを。

そして少女を認めた。


少女は救いに抱きとめられた。


「ここに、いていいの?」


「勿論。貴方を放っておける訳ないじゃないの」


安心、したのか嬉しいのか分からないけれど、少女は我慢していたはずの涙を我慢することはできなかった。


「よしよし、大丈夫、もう大丈夫だからね。」

そう何度も言いながらアイリスは少女の頭をを優しく撫でた。


そして時計を見、少女に笑いかける。


「もう昼食の時間だわ。他の先生達が作って待ってるからまずは顔を洗ってきましょう?」


心が凍ったはずの少女は、救いを信じなかった少女は、こうして救われた。



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