困惑
「訳が分らない…」
カンナは職務を終え自室に戻るとベッドに倒れ込んだ。
はっきり言って女王の考えることが理解できない。
執務室の外で待機すればいいところを執務室内に招き入れとりとめのない話をしてきたり、自分の事を「陛下」でなく名前で呼んで欲しいと頼んできたり、食事を共にしたいと言い出したり。
この様な新手の職務妨害をされたことは未だかつてなかった為、どのように対処すればいいのか分からない。
他国から来る暗殺者や反王制の民衆から女王をお守りするという義務があるため、一日中気を張っていなければならないのに。
「はあ…」
大体、雑談ならお付きの侍女にすればいいのだ。わざわざ何故こんな無愛想な女に無理して話しかけているのか。
コンコン
枕に顔を埋めていると、部屋の戸が叩かれた。
時刻は深夜2時。急ぎの任務だろうか。
しかし、戸を開けると意外な人物がいた。
「あの…夜分遅くにごめんなさい。こんな時間でしかお話できないと思って…」
明るい栗毛の小柄な少女。 確か女王のお付きの侍女だったはず。
「…どうぞ。」
とりあえず部屋に入れて椅子に座らせる。
「お話とは?」
侍女はふうっと深呼吸すると決意した様に言った。
「カンナ様は反王制派の方なのでしょうか?」
「…??」
顔をしかめたカンナに侍女は慌てたように捲し立てた。
「だ、だって!陛下からお声かけされても梨の礫というか…!でも王政に疑問をお持ちであるならばその態度もわかるような気がしますし…だから!!」
「あの」
何か誤解されている気がする。
「私は陛下のことをなんとも思っておりません。ただ、お守りする対象であるというだけです。それが仕事ですから無駄話は無用。肝心な時にお守りできなければ騎士の仕事を全うできなくなります。」
侍女は呆気にとられてカンナを見た。
「このような騎士がいるなんて知りませんでした…」
「どういうことです?」
「例え何も仕事をしなくても騎士へ支給される金額は高いです。ですから怠慢な方が多いと思っていたのです」
侍女は俯きながら呟いた。
「…私も、似たようなものです。いえ、もっと酷い目的かもしれません。」
侍女はカンナの言っていることが分からずに首を傾げた。
「守りたいものがあったか、ないかの差です。前者は限界まで這い上がろうとし、後者は自分だけが潤えばそれ以上のことはしなくなるものでしょう。」
侍女は、カンナの過去に何かがあったということを悟った。
でも、聞き出すなんてことはしなかった。
「貴方は前者であるから這い上がり、団長まで上り詰めたのですね」
カンナは黙って頷いた。