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「何故、こんなことをしたのですか」


カンナは母を前に震えていた。

その顔が表すのは怒りであり、哀しみであったが、何よりも諦念が色濃く刻まれていた。


「貴方を、救いたかった」


牢の中の母は、親を失った子のようでもあり、月のような静けさをも纏っていた。


「貴方が…諦めたように笑うから。そうさせてしまった全てを壊してやろうと思った…」

母は反省したようでもなく、失敗しちゃった、と弱く笑った。


カンナは雨にでも打たれたような顔をした。

「ふふ、どうしてそんな顔をするの。貴方に、幸せになってほしいだけなのに。どうして、こうなるのかしら。」

ふふ、と抜け殻のように笑う母にカンナは言った。


「私はもう、幸せにはなれないのですよ」


それは死の鉄槌だった。

「私は、死ぬまで家族を奪った隣国を呪い続けるんです。そういうふうにできているんです。なのに…なんで…」


私の幸せを望むのですか…その呟きは地面に落ちもせずにカンナの口腔で消えた。

同時に何故か王の顔が浮かんだ。

あの女王はいつも笑顔で純粋で、辺りに幸せを撒き散らしていた。そして、嗚呼、この母はあんな娘を望んでいたんだな、と思った。


「カンナ。」

母はよく通る声を出してカンナをじっと見た。


「私は、貴方に幸せになってほしいの。他でもない、とても良い顔で笑う可愛い私のカンナに」

終焉を知った顔で母は囁く。

「貴方、私の死んだ娘に似ているのよ。強くて誰よりも優しい自慢の娘…だからあの時放ってなんておけなかった。でもね、一緒に暮らして分かったの。貴方は貴方なんだなって。貴方は強いけれど弱い。優しいけれど鋭い。暖かいけれど冷たい…太陽だけど月のよう。」

歌うように話す。それは願いだった。


「復讐をして貴方が幸せに笑っていられるならそれでいい。でも、そんな負の感情で幸せになってほしくはない。これは…私の我が儘。」

母は手を伸ばす。その届かない距離にカンナがいた。冷たくなった心に慣れてしまったカンナはその遠くにある暖かい手に焼かれそうだった。


「…もう、いいです」

その暖かな場所からカンナは逃げた。


「…明日、刑が執行されます。」



















「女王陛下。」

拳を床に付け、もう片方の腕を腰にあてて跪く最敬礼。


「か、カンナ?どうしたの?」

そこには明らかに動揺しているトリフィラに、お前何してたの?とばかりの視線を跳ばしてくるヴィクターがいた。




「私を、死刑にしてください」



トリフィラはカンナが何を言っているのかわからなかった。

「カンナ?ごめんなさい、意味が分からないわ」

心底不思議そうに、トリフィラが首を傾げる。

だからカンナは、全て説明した。

自分が油断して機密事項を話してしまったこと、その結果トリフィラの命が狙われたこと。


「ですから私は死罪が相応しいと言う結論に至りました。陛下、直ちに私を罰してください。」

再び、頭を下げる。もっとも、カンナは一度もトリフィラの目を見ることはなかったが、その瞳には覚悟があった。


トリフィラは初め、驚いた様子だったがそのうち明日の休憩時間にやることでも考えるように口に手を当てた。

「ふぅーん。…」

どうしよっかなー、となんだか楽しそうなトリフィラを訝しく思ったのかカンナは顔をあげる。

同時にトリフィラは言った。


「それじゃあカンナ、無期懲役ってことで」

ニコっと笑うトリフィラに疑問を覚えながらもカンナは成程、と納得した。

簡単に死を与えて責任をとらせるよりも、生きて責任をとらせるということか。

確かに死を恐れないという騎士に植えつけられた教育、思想を考えるに、死を与えるより生き地獄を味わわせる方が罪人を苦しませることができるということだ。

そこまで考えて、神妙な顔をしたカンナに、トリフィラは告げた。



「あ、因みに貴方の牢はここ。」

トリフィラは人差し指で自分自身を指した。








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