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暗殺

次の日の朝。


カンナは休まっていない身体を無理に起こした。

トリフィラの部屋の前にはちゃんとカンナ以外の騎士がつくようにされているが、危険な街の中ということもあって夜通し眠れなかったのだ。



今日視察に行くのは貧しい村。

よって街娘の装いは不相応ということでカンナは軍服で行くことになった。村の駐屯兵に見えるからだ。昨日の夜のうちに着替えておいたカンナは髪を適当に整え、トリフィラの部屋へ向かった。


カンナを見るとトリフィラの部屋の前を夜の間護衛していた騎士が恐々とした様子で敬礼し、去っていった。

それを脇目にノックする。


「カンナ?ちょっと待ってね」



少しの間のあと、扉が開く。

そこにいたのは神秘的な女性だった。


真っ黒の長いコートにトリフィラのブロンドの髪がよく映えて、蒼の瞳は闇の中の花だった。


そしてコートについているフードを目深に被り、トリフィラは笑う


「カンナ、何を固まっているのかしら?私は準備ができているわよ」


「…綺麗ですね。」


思わず漏れた言葉にトリフィラはきょとんとカンナを見返した。


「いつものドレスも似合っていましたが…貴女は黒も似合うのですね」


トリフィラはカンナを見た。

艶やかな黒髪に綺麗な翠の瞳。身に纏うのは凛々しい黒の軍服。


「…貴方ほどに黒を美しくすることはできないわ」


トリフィラの小さな呟きは突如宿のロビーに響く喧騒によって掻き消された。


「何事だ」

顔を青くした騎士が駆け寄るなり冷静に問う。



「団長…!!刺客です!!」



「首謀者の特定は?」

カンナは顔色一つ変えずに問い、そっとトリフィラを引き寄せた。

「まだです…」

「…恐らく奴らは反王政派の者で陛下が狙いだ。何処かで情報が漏れたのだろう。取り敢えず一人残らず拘束しろ。だが第一優先は陛下を安全に城へ届けることだ。故に一部隊を護衛隊に回せ。」


さっと敬礼を返して引き返す騎士。


「カンナ…ごめんなさい。やっぱり貴方に迷惑をかけてしまうことになるのね」


「貴方が気にすることではありませんから。」

カンナは特に気にすることもなく、他人事のように言った。

それがカンナなりの優しさであったが、トリフィラにとってそれはなんとなく寂しいものだった。


「情報源を特定しなくては なりませんね。内部に反逆者がいる可能性もありますので。」


そこまで言って、ふと脳裏に昨夜の出来事がよぎる。

あの時、アザミを家族だと思って私は…


「…まずは城へ戻りましょう」


不安を打ち消すようにトリフィラの手をとり、足早に裏口へ回る。

待機していた護衛隊は団長と陛下の姿を確認すると裏口から人目を気にしながら出る。洗練された動き。


「陛下。フードを。顔と髪を見られぬよう注意してください」

カンナは小声で言うと、外を出た。


四方を騎士に固められたトリフィラは安全であるようにみえた。


しかしトリフィラの頭部めがけて飛んできた銀の一線。

それはトリフィラのフードを切り裂いて地面に突き刺さった。

果物ナイフであった。


カンナは無意識でトリフィラを抱き寄せ、気配のする方へ剣を飛ばす。


ひっ、という悲鳴が聞こえ、その後にざく、と何かに突き刺さる。

その間数秒の出来事だった。


何もすることのできなかった騎士が1人、我に返って警戒しつつその場を見に行くと、


靴に剣が貫通し、身動きの取れなくなっているアザミがいた。


「…お母…さん…?」


呆然と呟かれたその声はカンナのもの。

その弱々しい声は、抱き寄せられているトリフィラにしか聞こえないものであった。


「…カンナ?…あの方は、あなたの…?」


ぼうっとしている間にもアザミは騎士に捕らえられていく。

ああ、私の責任だ。カンナはこれまで感じたことのない虚無感に襲われていた。


その後にもナイフ、銃弾、と何かがトリフィラめがけて飛んできたが、カンナの近くにいるトリフィラには当たらなかった。


それが何を意味するのかカンナは朧げに分かっていた。


認めたくなかった。


「これより先の計画を破棄する。護衛隊はここで奴らの動きを食い止めろ。できれば拘束、できなければ殺しても構わない。陛下の護送は、私一人で充分だ。」


だから、カンナはトリフィラを抱えて走った。一刻も早く陛下を安全な場所へ、なんて口実で。



「カンナ。無理しているでしょう?」


トリフィラは腕の中でじっとカンナを見ていた。

カンナはその視線をまともに受けることはできず、ひたすら前を向いて走っていた。


「陛下…。迷惑をかけたのは私の方です。」

ぽつり、そう呟いた声は彼女らしからぬ弱々しい声だった。

そしてぎゅう、とトリフィラを抱く手に力を込める。


「カンナ。それってどういう…」


城の門が、見えてきていた。

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