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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

さりげなく異世界を救った男

作者: あーく

どの方もゆったりと見ていただけるとありがたいと思います。

 皆さんは、異世界召喚、というのを知っているだろうか。そう、今私達がいる世界からはるか遠くの異世界へ、それもファンタジーチックな世界に飛ばされる事を想像されると思う。その中でもよくあるのが、国を救う勇者として、チートまがいな能力を手に入れ、魔王やその国の平和を脅かす者を倒しに行くものであろう。苦難や困難を乗り越え、仲間と共に目的を達成するというのが大体の道筋だが、もうそんなのは既に飽きられている。今更そんな話を見たってつまらない。


 ちょっぴり可哀そうな気持ちもあるが、魔王を倒す勇者に今日もまた一人、こちらの世界から選ばれた主人公が、異世界に召喚された。


 ただし、違う事が一つ。


 主人公は魔法の存在する世界から召喚されてしまったのだ。






「……ここは何処だ」


「おお、成功だ!」


 怪しげな雰囲気の部屋には、数人の魔術師や豪華な服を着た者達がいた。魔術師たちが囲んでいる所には魔方陣が描かれており、光を放っている。その上には、どう見ても場違いな格好をした青年が立っている。どうやら何かの儀式を行っていたらしい。周りで固唾を飲みながらその様子を見守っていた、豪華な服を着ている者達は安堵の表情を浮かべ、思わず声を漏らす。


 青年は今自分が置かれている状況を理解するべく、周りの様子を観察する。


「異世界にでも召喚されたのか、俺は」


 青年の言う通り、青年は異世界に召喚されたのだ。異世界召喚、という言葉を発している事から、そのような小説やマンガ、ゲームが流通している時代から来たのであろう。


 青年の周りでしきりに喜び合っていた者達は、青年に向き直り、


「おめでとう。君はこの世界を救う勇者に選ばれたのだ」


「おめでとう? 俺は嬉しいなどと思っていないが」


 青年に話しかけているのはどこからどう見ても王である。王は青年を祝福すると、両腕を広げ、笑顔で語る。しかしそんな事など望んでいない、と青年は冷たく言い放つ。


 ちなみに、青年の服装は上下とも黒いスウェットに、紺縁の眼鏡をかけ、右手にはシャーペンを持っている。こちらはこちらでどう見ても勉強中だったという格好だ。


「と、とにかく、君にはこの国を滅ぼそうとしている魔王を倒してほしいのだ」


 青年の言葉にしばし言葉を失った王だったが、そこはきちんと青年にやってほしい事を告げた。


「この国の近くにいる魔王は、我が民達を贄とし、力を蓄えているのだ……」


 この国の魔王は、本当に王道中の王道な設定らしく、もはや現代ではつまらないと言われるレベルである。それを聞いた青年も、心の中で


(よくあるパターンか……)


 と、顔を少し顰める。そして、魔方陣の外に一歩踏み出すと、王に言い放つ。


「要件はそれだけか」


「……はぁ?」


 あまりにも唐突な青年の問いに、思わず声を漏らす王。王としては、召喚するのはこういう異世界に興味があるような年代に設定したはずなので、少しは自分にどんな力が宿ったんだ? とか、武器やお供はどうするんだ? などという質問を期待していた矢先の特に感情も籠っていない問い。


(間違えてしまったのか……?)


 王は内心そう思う。だが目の前にいるのは絶対に青年だ。ならば、と今度はこちらから問う。


「き、君の名前を聞いていなかったな。な、なんというんだ? それと年はいくつだ?」


「俺の名前は和夫(かずお)、年齢は17」


「は、はぁ」


 あまりにもあっさりと答える青年改め、勇者和夫。やはり青年という事なので、王はよく和夫の事を観察していく。整った顔立ち、すらっとしている体。所謂モテる男にしか見えない。実際彼は元の世界で、彼が通っている高校でかなり人気がある。苗字を名のらなかった事は、今の時点では放置しておこう。


 どんどん皆の方へ近寄っていく和夫。その威圧感に皆は竦んでしまう。


「今……今俺は……!!!!」


 彼が怒りを露わにしながら語る事は、一体なんなのだろうか。と、皆が緊張しまくっていたのだが、



「勉強を……していたんだよ……!!!!」



『はぁ?』


 今度は和夫以外の皆が皆、首を傾げ、口から思わず声が漏れる。まさか、まさかこの勇者は勉強をしていたがために、事態の解決を望んでいるのだろうか? と。


 その通りであった。和夫は勉強をしていた所に、こんな場所に召喚されてしまったのだ。しかも彼は勉強が好き、という人であった。


「早く勉強の続きをやりたいのに、なんで、なんでこんな所に……!!!!」


 今度は「あはははははははは」と狂笑しながら、周りに殺気をまき散らす。いや、正しくは殺気を含んだ風、といったところであろうか。


「お、落ち着け。和夫殿」


 王が説得に試みるも、和夫は笑う事を止めずにこちら側を睨んでくる。ひっと王は一歩後ずさりしてしまう。


「元の世界に戻れる手段はあるんだろうな?」


「あ、あるぞ。もちろん。だが魔王を倒さねばいけないのだ」


「よし、決めた、魔王ぶっ殺しにいく」


「そ、そうならばうれしいのだが……」


 こうして、元の世界へ戻り勉強がしたいがために、勇者になった和夫。なんとも妙な図である。


 ちなみにこの世界での時間軸は、地球でいう一秒がこの世界の一日らしい。これを聞いた和夫は、「何秒かが無駄になるのか」などと舌打ちしていたが、どこまで勉強がしたいのであろうか。つくづく不思議である。


 この時は、国王も一カ月はかかって魔王を倒してくれると思っていた。だが、和夫はそんな期待を裏切ってしまうなんてことは、誰も知らなかった。







「こんな町に来たところで何をしろというんだ」


 和夫が召喚されてから一時間ほど経った頃。和夫は人々が盛んに行き交う城下町の真ん中で突っ立っていた。しかも召喚された時のまま、上下黒いスウェットである。そのため少し浮いてしまっているのだが、和夫はまったく気にしていなかった。というかどうでもよかった。


 そして右手にはこの世界で服が買えるくらいの貨幣が握られていた。理由は至極簡単。国王が「流石にその格好では示しがつかないであろう。城下町にいって、軽装でも買ってこい」と言われたのだ。国王は意外と優しかった。だが別に買う気などない和夫は、少しの間だけ街を散策することにする。あれだけ時間を気にしていたくせに今こんな事をしている訳は、男子としての宿命、やはり根が冷めていようがこういう展開にはわくわくしてしまうからであった。


 そして、テンプレの展開通りにイベントが発生する。


「何だ、騒がしい」


「や、やめてください」


「何だよ姉ちゃん、景気悪いなぁ」


「嫌ですって!」


「……やはり王道な展開か」


 その様子を見た和夫は嘆息を漏らす。目の前には人だかり、その中心にはあからさまに、僕ちん悪い奴ですよー?^^ と主張しているような悪党っぽい男が一名と、傍から見たら美人、といえるまだ幼い面影を残す女性がいた。どうやら男は女性を連れて行こうとしているらしい。これがテンプレどうりなら、ヒロインフラグでも立つのだろうが関係ない。だが女性は助けろという精神を持っている和夫は、しょうがない、と人だかりの中心に突っ込んでいく。


「おいあんた、やめとけ」


「あぁ? んだよてめぇ」


「どこまでも王道だな」


 和夫を睨みつける男だが、その後ろにいる女性は危ないです、逃げてくださいという顔をしている、その一方で助けて、と懇願もしているような気がする。


「とりあえず」


 和夫が髪の毛を掻いて、意図的に目を手で隠す。すると、



「立ち去れって言っている」



「ひっ!!」


 そこには目の色が緑色になった和夫がいた。周辺に自分を包むような上昇気流を発生させ、殺気をまき散らす。男は最初こそその殺気に脅えてしまったようだが、こいつはまだ子供だ、と思い刃物を取りだす。


「安心しな、殺しはしねぇよ!!」


 そのまま和夫に向かって突進し、急所を外すように突き刺そうとする男。周りからは悲鳴も上がるが、そんな事はまったく気にせず、和夫は男の視界から消えた。その後には強く風が吹いた。


「何ッ!?」


「そっくりそのままではないが、お前に返してやろう」


 男は声がした方を振り返る。そこには和夫の姿があった。刹那、耳元で風を斬る音がしたかと思うと、


「安心しろ、お前を大衆の前で最悪の姿にはせん」


「うおわぁ!!」


 男の服だけが無残に切り刻まれ、ヒラヒラと宙を舞った。また悲鳴が上がるのだが、それは先ほどの悲鳴とは種類が違うであろう。最悪の姿、という通り下着は残っていた。


 それはともかく、「捨て台詞までか……」と溜め息を漏らす和夫。そういえば先ほどの風は彼の力でもあろうか。この世界に召喚された時手に入れたものだろうか。


「あ、あのありがとうございました」


「ん、あぁ別に当然の事だ。あんたも気をつけろ」


「はい……」


 和夫がやや微笑むと、女性は頬を赤らめる。まぁ一般的に見たらイケメンの類である和夫、しかも助けられたとなると当然でもあるだろうか。といってもここまでの展開、あまりにもテンプレすぎて和夫は内心溜め息をつきまくっている。


「帰るか」


 もう城下町でさえ本当に王道すぎる展開なため、一度城に帰る事にした和夫だった。気付くと風になって移動し、城内にある自分のために用意された部屋に移動していた。そのまま備え付きのベッドに寝転がる。


「今日の内に仕留められるといいのだが……」


 只今の時刻はこの世界でいう朝。というか、和夫が召喚されたのは午前7時ごろのである。そのため、普通にラスボスであろう魔王を今日の内に仕留めようと言うのだ。どれだけ効率性重視である事やら。


 よいしょ、とベッドから起きた和夫は、国王の部屋に行こうと歩き始める。そんな簡単に国王の部屋に入れていいのか、という問いは城外のセキュリティが強固であるからと、いうように解答出来る。


 コンコン、と部屋の扉をノックし、


「勇者和夫だ。中に入れるだろうか」


 と、中にいるであろう国王に聞く。


「ああ、いいぞ」


 中から国王の声が聞こえ、和夫は扉を開けて部屋の中に入る。中では国王が自身の机の上に書類を広げ、整理している所と思われた。


「一体どうした? 和夫殿。それにしても服装を整えていないのか……」


「面倒なのでな。変える必要は無いと思った。後で金は返す」


 部屋に入って来た和夫を見て、国王は項垂れる。勇者が黒いスウェットというのは少々示しがつかない。


「装備もいらないというし……。そんなので魔王を倒せるのか?」


「ああ、心配ない」


 国王は勇者に疑うような目をしてしまう。普通(かどうかは知らないが)であれば勇者はチートな能力や、最強の装備を身につけるものだと思っていた国王。しかし、召喚されてすぐに、装備の事を聞くと、いらないと即答されてしまったのだ。その結果が城下町で軽装を買ってこいだったのだが、それも見事にスルーしてくれた和夫がいる。


 補足だが、この世界で勇者が身につけるような能力は神殿に行って、覚醒させる。もちろん和夫を神殿にも連れて行こうとした。しかし和夫はそれを拒否した。という事は、現時点で能力は持ち合わせていないはずである。だが城下町の一件では風を操っていた。そりゃ小説の中の世界だ。ちょっぴり不思議な力を持っている事もあるのだった。


「とりあえずなのだが、今日中に魔王を仕留めてくる」


「ほう、それはいい事……え?」


「今日中に」


「ほ、本気で言っているのか!?」


「その事を今伝えに来たのだが」


「わ、分かったが大丈夫なのか!?」


 和夫が何気も無くいうものだから、国王は本気でうろたえる。


「まぁ平気だ。俺は勇者なんだろ? やるべき事ぐらいやって帰る」


「そうか……。そうだ、和夫殿が元の世界に戻る方法だが、魔王を倒したら自動的に戻れるぞ。心配するな」


「それだけ分かればいい」


 そういうと、和夫は窓の外に身を乗り出そうとするが、国王は大事な事に気付き、


「か、和夫殿、待て。旅の供はいらぬのか?」


 そう、国王が心配していたのは、こういう旅路にはつきものである、魔法使いや僧侶といったような供をつれて行かないのか、という事だった。よくあるパターンで言えばハーレム路線に走るという事だ。


「いや、いらん。一人で十分だ。それに今から従者を集めるとなると、時間もかかるであろうし、そちら側の負担を大きくなるだろう?」


「た、確かにそうだな」


 和夫の言った事は正論であった。国王も勇者の事でいっぱいいっぱいだたし、それ以外の仕事もある。となると、今から仲間を募るのは時間がかかってしまうのだ。それも、かなり忙しくなってしまうであろう。そんなことも考慮しての和夫の一言であったが、つまりは早く元の世界に帰って勉強がしたいだけであった。


「それでは行ってくる」


「ああ、気をつけてな」


 緊張感も無く、魔王を討伐するべく旅立ち和夫を見送る国王。派手な祭典などをやらないのは、和夫の意志であった。和夫は、高い位置にある城の窓から飛び降りると、風にのって、所謂風速の速さで飛びながら進んでいく。


「ちゃっちゃと終わらそう」


 適当な事を呟きながら、もの凄いスピードで風になる和夫。目的地である魔王の城はこの大地よりも海を越えはるかに遠い場所にあるのだが、一直線に城まで迎える風に乗ったためこの調子で行けば、いや今よりスピードを上げた和夫であれば、一時間もあれば着きそうであった。







「ますます疑いたくなるような光景だな、これは」


 本当に一時間と少しした頃。和夫は、無事に海を越えて、魔王やその従属が住まっている大陸に辿り着いた。途中、海上からの攻撃等もあったのだが、それをなんなく暴風を起こして撃墜してやっていた。


 そして今和夫は、魔王城を遠くに望めるような位置にまで来ていた。ここに来るまで道中は、地に吹く風のように移動していた。


 ここで説明しておく必要もないとは思うが、和夫が持っている(現実世界で既に持っていた)能力は風を操る類のものだった。詳しい事は科学では説明できない。


 ちなみに、和夫の苗字は「黒宮(くろみや)」といった。本名は、黒宮和夫というのだった。


「行くか」


 しばし魔王城を眺めていた和夫は、魔王城へと一直線に風をつかみ、飛んでいった。







 場所は変わり、魔王城の最奥、魔王の部屋にて。そこには、とても焦った様子の使い魔が魔王にある報告をしている所であった。


「た、大変です! 魔王様! ゆ、勇者が攻め込んできました!」


「ほう、人数は?」


「た、たった一人です……」


「何? 海上部隊はどうした?」


「勇者に一ぴき残らず殲滅されたようです……」


「なかなかの手練のようだな……。進行状況はどうだ? 全戦力を持って殺せ」


「は、はっ!!」


 使い魔に対処を伝えた魔王は、来たるべき勇者との決戦に備えるべく、装備を整える。最悪、自分が勇者と一騎打ちすれば、いくら手練といえども、この部屋に辿り着くまでにエネルギーを消費し、勝つことは目に見えているからであった。



 ―――だが、魔王は勇者、和夫の脅威的な力をまだ十分に理解していなかった。


 そして、その時はやって来る。




「……貴様が魔王か。なんともテンプレな姿だな」




「……誰だ」


「俺は勇者、名は黒宮和夫。さっさと貴様を殺しにきた」


 まさか勇者が直接ここに来るとは、と動揺を隠しきれない魔王。だがそこは魔王としての威厳を保とうと、人の背丈の二倍はあろう背中を伸ばし、威嚇する。


「ほう、勇者とな。殺せるものならやってみろ」


「言いたい事はそれだけだな?」


「……は?」


 魔王がテンプレにあるようなセリフを言った後、和夫は全身から殺す気まんまんのオーラを出す。風が彼の周りを包んでいき、魔王の部屋はぐちゃぐちゃになっていく。


「ああ、最後にテンプレな言葉は言わせないぞ。さっさと―――」


 和夫は全ての地を吹き荒れる風となり、魔王の体をすり抜ける。即ち、和夫自体が風に、凶悪そのものな全てを切り刻む暴風になった。何も起こらない……? いや、違う。

和夫が人の域を超えてしまったのだ。そして最後にこう言い放つ。




「死ね」




 刹那、魔王の体が内部から斬られ、内臓系は全滅、そして筋肉や皮膚の類までもが、血を噴き出しながらばらばらになっていく。部屋の中は血の色で染まっていくが、和夫の体だけは風に守られ、無傷であった。


「ま、まおうさま……!? マオウ……サ……」


 とてつもない光景を見てしまった、使い魔。彼は魔王に状況の報告をしに来た所に、この惨劇の様子を目撃してしまい、言葉を失う。分かった事は二つ。


―――我が主は死に絶えた。


 そして、


―――この勇者は危険だ、殺される。


 という事であった。和夫もその姿に気付き、使い魔を睨みつける。


「二つ聞こう、この地は魔王や悪魔により汚染されているな?」


「は、はい……」


「もう一つ、お前はこの悲劇を目撃し、伝えられるか?」


「は、はい!?」


「ならばいい。俺はお前だけは殺さない」


 和夫の言葉を聞き、安堵してしまうのも束の間、これから起こる悲劇を自分が、自分だけが見ると言うのか、と恐怖する。だがこの勇者に口答え、ましてや外傷を加えるなどしたら、どうなるか分かったものではない、と。目の前には、バラバラになって見る影もない我が主の死体があり、黒い服を着た勇者がいる。使い魔は覚悟を決めた。自分がこの悲劇を受け止めるのだと。


 心の準備が出来た、と見られる使い魔を見ると、和夫は使い魔に風のバリアを纏わせ、自らは魔王城を壊しながらこの大陸が眼下に望める位置まで上昇する。


 今更、呼吸が出来るのは何故、とか言うのは野暮な問いであろう。そして、和夫は言葉を紡ぐ。




「暴るる風よ、吹き荒れろ。魔の力に侵された大地を、その力で清浄せよ」




 すると、和夫の足元に魔方陣が形成される。それは、浸食されてしまっている大陸全体の上空に広がった。そして、先ほどとは比べ物にならない悲劇となっていく。


 黒く染まりきった風が魔方陣から吹き荒れる。それは、下降気流となり、上昇気流となり、全てを切り刻んでいく。中には瓦礫や、悪魔の死体も含まれているので、どす黒い色になっているが、構わず風は吹き続ける。


「そんな……そんな……」


 全てを見届ける役に選ばれた使い魔は、その光景を見て絶句する。仲間だったものが死んでいき、ただの肉片になっていく。頑張って築き上げてきた建物諸々が破壊されていく。



 ―――これが、風を知ったものの恐ろしさ、ともいえる光景でもあった。








 和夫が全てを殲滅してから何時間経ったであろうか。使い魔はまだ立ち上がれずに、更地となった大陸に突っ立っていた。


 あの後、風が吹きやんだかと思ったら、和夫は使い魔を包んでいたバリアを解除し、転送魔方陣で元の世界に帰っていったのだった。そして、後世にまで残される、勇者の二つ名は、



「あれは……『黒い殲風』……!!」



 に決まった瞬間であった。結構さりげなく異世界を救った勇者、黒宮和夫の名は、知る人ぞ知る、都市伝説のようなものになっていくのだった。



 ちなみに、一人生き残った使い魔は、国王に降伏し、その場で起こった悲劇をそのまま伝えた。





 勇者和夫は元の世界に戻った。本当に一秒しか経っていない事を確認し、勉強をするのであった。不思議な力を身に宿しているというのに。




 ―――これは、一日にして魔王を倒し、浸食されていた大陸までもを元の姿に戻した勇者の話。かなりさりげなく異世界を救った男の話。




〜fin〜




どうだったでしょうか?見てくださりありがとうございます。


2015年6月26日、追記

http://ncode.syosetu.com/n9760cr/

このURLで、同一主人公の小説を連載中です。よろしければ、立ち寄っていただけるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界へやって来て魔王を倒し、大陸を洗浄して帰る。その流れが簡潔にまとめられていて読みやすかったです。 [一言] 僕ちん悪い奴ですよー?^^←吹きました。ごめんなさい。さらにオメガも加える…
2014/04/22 01:35 退会済み
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