祭りの後の
優勝旗を持った桜田先輩に私は、色々、ツッコみたかった。……あの、白組のおにぎりの説明をしてくれたのは先輩ですよね。青組だったんですか。
無表情に私の隣を通りすぎる瞬間、ぽつりと、
「会長でないことは指のタコを見ればわかった。……これでも側にいる時間は君より、長い」
会長は勉強好きだからね。と、私の疑問をあっさりと答えてくれた。ーー心が読めるんですか!?そして、飴玉より確実だ。
しかし、私の困惑を感じ取ったらしく、そうではないと頭を振ってから去って行った。何を伝えたかったんだろ?
閉会の言葉は、あーたん(仮)がしていた。……不真面目なイメージがついて回るのにどうして、あんなに朗々と威厳のある言い回しが出来るんだろうか。……会長にお狐様に会う日取りは指定すると言われた。
私より桜田先輩が行くべきじゃ。
集合写真はいろいろな形で取られ、(全体だったり、学年ごとだったり、学校別だったり)文句も出たが天匙にも深託の生徒にも天久兄弟の言うことに逆らう生徒はいなかった。確かに私も会長には逆らえないけど、あーたん(仮)の方はなんでだろう?
リンと藤咲さんと片倉さんが喜々として写っていた。3人で楽しげだった。
片付けは、深託の側の持ち出してきた物のリストをチェックしながらなので、天匙の生徒は今日は備品チェックが出来る責任者以外は帰宅となった。
……光原さんに謝りたいからとメールをくれたが、私、とある暴君に喫茶店までラチられた為に後日にして欲しいと返信していた。セラ様とアディーも一緒に。アディーがお弁当を今さら食べてる。喫茶店で、店員さんの目が冷たい気がする。
「卵焼き、デザート?」
いいえ、おかずです。
「藤咲さん、私、親が探して……」
「『彼女』が消えたよ」
あっさりと本題に入った!?
正面に座った藤咲さんが珈琲を四人分、注文してくれた。……セラ様も異論はなかったらしいが、アディーは抹茶って何?って聞いてきた。いやいや、のんびりした空気はー…、ハッ、て言うことは。
「藤咲さんとの契約を切れるんですか!?」
「いや、切らない。消えただけで、消滅した訳じゃない」
きっぱりした否定に私はガッカリした。
「……秋月が天使と契約したのは知ってたけど、さほど、俺の力を遮断してなかった……ですよね。美人さん」
チラッと自分の隣に座るセラ様に同意を求める藤咲さんに頷くセラ様。
「出来る限りだが、……負担をかけていないとは思えなかった。よく黙っていたものだな。それからセラと呼べ」
感嘆するセラ様にどうして、重要な事なのに皆黙ってるんだーとか、微妙にアディーの話とずれてるとアディーを睨んだら、
「おれも、推測の段階だった」
そう言われると弱い。
「頭が回るようになったね。『泣き虫』」
「るかと、この本のおかげ」
そういえば、体育祭終了と同時に女の子たちがアディーに紙袋を持たせていた。……中身を確認すると、アゲハ嬢とか…小悪魔とか表紙に書いてある本が……、藤咲さんがそれを見て、
「………小悪魔?」
アディーを睨まないであげてください。世俗を学んでいる最中なんです。悪魔の癖に小悪魔ってなんだよとか言いたいのをぐっと堪えましょう。私と藤咲さんが黙って、本を見つめていたら、セラ様が興味深そうにその本を読み始め、
「アディー。悪魔が『小悪魔テク』を学んでどうする気だ」
あ、言っちゃった。
しかし、アディーは誇らしげに頷き、
「適度な嫉妬、表現、可愛くて、手放せなくなる」
ーーアディーの今日の奇行の一端の理由を垣間見た気がする。
「あと、役に立つ。喜ばれる。おれ、頼りになる」
えっへんと胸を張るアディーの頭を思わず撫でてしまう。
「頑張ってる!」
「俺的に今すぐ止めたい方向だけど」
店員さんが持ってきてくれた珈琲を啜りながら…、セラ様、常備された砂糖が無くなりそうな勢いで投入しないでください。アディーもスプーン3杯なのか…多くない?
私は、ミルクだけ入れよう。
「……話は戻すけど、どこに居るかはわかったから」
「え、また見失ったり」
「今日見つけた。………誰の創った物かは秋月の手に渡った時点で想像がつくけど、大分強く封じられてる。よっぽど、腹に据えかねたらしいね」
「?何がですか」
「孫の想い人を傷つけた事だよ。……秋月、聞くけど、リンにどこまで訊いてる?」
「……聞きたくありません」
そこで、リンの名前出してくるって止めてください。リンの事は、お姉ちゃんが全部知ってからにー…っ。と、私が葛藤している間に藤咲さんが、そう…って引いた。
あれ、無理やり聞かせたりしないんだ。
「俺だって、リンに嫌われるような真似はしたくない」
はあーっ、てため息を吐いた藤咲さん。そうだ、セラ様もいるから。聞けば良いのか!
「セラ様、天使は想い人への気持ちが報われなかったら、救済処置として『記憶消去』を行うって本当ですか」
ぴくり、と珈琲を飲む手を止めてセラ様が憎々しげに私を睨んだ。ーー美人の睨みって、大迫力!?
「ーーそれの何が悪い。気が狂う相手をそのままにすることが『罪』だと思わないのか」
ぞわっと、憎悪を向けられたような気がした。
地を這うような声音に怒りを感じたが私は何も答えられず、口をパクパクしただけだ。しかし、それは一瞬で、フッと、セラ様からそれが消え息を吐いて、セラ様は……伏し目がちに珈琲を見つめながら、
「と、過去の私なら言っていただろうな。……私は、その役割をなんの疑問も感じずに施行していた存在だからな。今、光原やココやまあ、遵も入れて…アディーにひばりんーーお前の記憶を誰かに『消去』される事を望んでいない。ーー『お前にはわからない』と何度も泣き叫ばれたのを……ようやく、考えている最中だ。」
セラ様の肯定に私は、ぞっとする。セラ様の言い方だと、それが普通なんだ。節度と秩序を持ったセラ様が簡単に能力を使う姿に確かに違和感を感じていたが、それが普通なら、当然なら、なんの違和感もなく他者の記憶を消せるんだ。
重くなった空気にセラ様が苦笑し、すまないって。うん、でも、やっぱり、もう一つ気になることが、
「セラ様」
「なんだ」
「私の名前……」
頼んだのにやっぱり呼んでくれてない。頼んだ時も誤魔化された。き、嫌われてるんだ。私、やっぱり、セラ様に嫌われてるんだ。
「ねえ、セラ」
藤咲さんがなんにも混ぜていないブラック珈琲をスプーンでかき混ぜながら、
「これだけ、心砕いて話してるのに通用してないって可哀想だね」
ニヤーって、どうして、悪役全開の笑顔をセラ様に向けるの?しかも、会心の笑みだよね。何か心躍る事態があったのだろうか。
アディーも、私をどうしてジト目で見るのさ。
「……救いようがない」
はあーって、頬杖するセラ様。
「契約を切る時の記念にでも取っておけ」
やだ。なげやりかつ大袈裟な事になった。私の名前ってどれだけハードル高いんだ。
「なんて、呼ばれる?」
アディーが前向きだ。いや、そんな話してる場合じゃないんだけど。話を無理やり戻す。
「藤咲さん、私の事守ってたって」
「自意識過剰」
切り捨てられた。くすん。いや、泣かんぞ!!どうせ、そうだと思ってたもん。
「ただの実験と約束してたことを機械的に守っただけだから。俺が良い人じゃないって、わかってるだろ」
からかうような試す声。む、確かに。意地悪な人だった。実験か。そうか、納得。むむっと、眉間に皺を寄せて納得していたら、なんでか、眉間に手を伸ばしてきて、デコピンしやがった。なん。やる気か。
「一番、主張が強かった部分と……『怖い、怖い』って煩い部分。ーー『彼女』が常にそんな感じだったから、『制限』はしたんだけど、」
セラ様に視線を向けたら、眉間の皺がすごい。どういう意味?
「秋月の気持なんか秋月にしかわからないって話。……俺は、俺の目的の為に力を行使しただけで、……だから、って、ーー携帯のアドレス教えない理由にはならないからな」
どこに居るってお父さんからのメールと電話に慌てて藤咲さんから隠す仕草をしたら、怒られた。いや、別にアドレス教えるのはちょっと、引っかかるだけで問題はないよ。
藤咲さんにしぶしぶアドレスを教えてから、あんまり、お父さんを心配させるのもあれなので、その後、すぐに解散になって、藤咲さんは先に帰ってしまった。私とアディーとセラ様はその場に留まって、セラ様がぽつりと、私に人間とはって、
「本当に救い難い」
それにアディーが訳知り顔で、単純、違うって。……この子を学校に通わせて正解なのだろうか。




