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リレーに出場するひばりんは、戻ってこずに代わりにバッグを持ったリンがココさんを連れてきた。
「泣いている状況でしたので心美さんは組の代表と話し合ってリレーを辞退させてもらいました。僕も怪我を理由に藤咲が代わりに出るので、落ち着くまで一緒にいてあげてください」
グズッと鼻を啜るココさんが、何かを持っている。……あ、ひまわりヘアピンだ。落ち着こうってしてくれてるんだ。
リンの持っているバッグから慌てて未使用のハンカチを出し、ココさんに渡す。
ニヤニヤして、私と腕を組んでいた悪魔を近くに居た佐々木くんに押し付ける。あ゛ー!じゃない。
心が弱ってる人の前には毒だな。貴様は。
「雲雀に僕を連れてけって言いましたか?」
リンが何か思案しながら、問いかけてきたので否定する。
「うぅん、ひばりんが自分で」
「ーー純粋だったのに」
あーぁって憐みの目をしたよ。何!?
「男子リレーが終わったら、テルが謝罪に来ます。ちょっと……やり過ぎたので笑わないように」
何がだろ。
ココさんに肩か膝か貸すよって言ったら、膝枕になった。
人数が多いから男女混合じゃなく、男女別になった女子の方のリレーが始まって、日比谷さんが一生懸命走っていった。うん、どっちが優勝に貢献したかって、どう考えても日比谷さんだよね。……ん?優勝?
「どの組が今、勝ってるの?」
「赤組が最下位で青組が1位ですね。白組と黄組は同列2位です。まあ、逆転は赤以外ですね…」
赤は男女とも1位を取れればらしい。……優勝しなかったら、賭けはなかった事になるのかな?
「そう言えば、藤咲の事、ありがとうございます」
おおっ、滅多に見れない極上スマイルが!
「でも、最終的に藤咲さんが市長に……」
あ、ココさんの前でする会話じゃないのかな。どこまで知ってるのか。でも、リンは気にしてない。『修正』のせい?でもどこまでなのか、不安になったりしないの。
「それでも、お父さんの言葉を撥ね付け戻ってきたのは、ルカのおかげですよ。ーー僕も藤咲やみんなとの集合写真を楽しみにしてましたから」
……私が黙ったら、苦笑した。
うんー…、固執する理由までは教えてくれないんだね。どうしてだろ。リンに関係者?って訊くのだけは避けている気がする。
でも、藤咲さんは孫辺りだって。……お姉ちゃんの『絵』が泉さんの手から守られたのは、お姉ちゃんと誰かが『契約』してるから?
ーーじゃあ、あの時、キスしてる夢は現実?キスしてるのは、リンだし……天使との『契約』の方法………は、ミルクティー!とか誰だ、呟いてる奴は!?
茶々を入れられたせいで、思考がストップしたじゃないかー!どうしてくれるんだ!?
そろそろボケたーいとか喧しいわ!!
「ルカ、マルが走ってきますよ」
「あ、おねえちゃーん!」
ぴょんぴょん跳ねたいが、ココさんを膝枕していた。ふ、危ない危ない。……あれ、考えていたことが吹っ飛んだ。リンめ!!
「今、走ってった子がルーの姉なの?」
「はい」
「…ふぅん…」
そう言って、上げた頭をまた膝の上に戻してしまった。
「ココさん、何があったんですか?」
グズッと、鼻を啜った。……タイミングが悪かったのかな。でも、訊かないといけないから代わりに説明できそうなリンに頼む。
「リン」
説明を求めたらそうですねって。
「自分で言う話ではないですが、僕に好意を持った子たちが直接渡すのが恥ずかしいからと手紙を僕の知り合いがいるって話していた心美さんに『友達でしょ』って言葉で押し付けてたそうです。」
確かに自分でする話じゃないね。リンも説明しづらそうだ。
「浮かれてそれを心美さんがセラに報告したらしく、ーーセラは心美さんの交友関係を知っていますから。便利に相手を扱うために『友達』と軽々しく口にするなとその子たちを叱ったそうです。それで叱られた子たちが逆ギレして『返して』って心美さんに詰め寄ったらーールカにもう渡してしまった後で、謝ってる心美さんに他の子に預けるなんて最低と知り合いがいたから頼ったくせに支離滅裂な事を言い始めて、さんざん詰っていたそうです……それを聞いたテルが目の前で手紙を破こうと勝手にルカのバッグを持っていったと」
「ーーそのお嬢様方は今どこに?」
声音が物騒になっても仕方ないじゃん。怒りのウリ坊を背負うぜ。まったく、光原さんも遠慮深い。私だって役に立つのに。
「雲雀のせいで肩身の狭い思いをしてますよ」
頭が良い分質が悪いって、リンがため息を吐いた。
「僕と云う好意を持った相手を扱い反論しづらい状況を造り出して、深託の生徒の前で、心美さんの非も認めつつ、相手を追い詰めていってましたね。心美さんに心情的に味方したくなり、お前たちが悪いと断罪しないでうやむやにはするが、周りにどちらが悪いのかを問いかけるような仕草をする狡猾さ……」
じーっと、私を見つめるリン。そして本当に残念とばかりに。
「純粋無垢な後輩が一人減った気がします」
可愛かったのになーって、何故、私を咎めるの?
「……ルカ、雲雀の為にも友達は選びなさい」
まさかの逆パターン!
「ひばりんの友達として、私はふさわしくないと!?」
「かわいい後輩が毒牙に掛かるのを黙って見てはいられなくて」
く、くそ、言い返せない。むー、リンにいつになったら、一泡ふかせられるんだろうか。あれ、ココさんの頭が膝の上で震えてる。
「ふふ…」
おおっ、ココさんが笑ってる。面白かったのかな?
リンも優しい顔をしてる。………ハッ、恋が、
「生まれてませんよ」
「心を読むな!」
まったく。とぷりぷりしていると、日比谷さんに叩かれた頬に気づいたらしく、眉間に皺を寄せた。
「頬、どうしたんですか?」
「自業自得です」
「……護身術でも習いますか?」
「ひばりんが?」
「何故そこで雲雀なんですか。ルカに決まってるでしょ」
リンが頭を抱えた。
しかし、護身術かー。悪魔や天使に効くのかな?あ、普通に怪我してたから、効くのかな?アディーにしたチョップも痛そうだったし。
「リンが教えてくれるなら」
「無理です。僕だって、引っ越す前に習ってたくらいですから……クソジジイに」
ぼそり…と、聞いたことがないくらい暗い声音でリンが呟いた。クソジジイって誰?
「リン?」
「『この土地』には来れないくらい元気な祖父が居るんですよ……しかも、ファンが多い。おかげで余計な事ばっかりー…、」
リンの目がどんどん据わっていく。爪まで噛み始めた。
どうも、お祖父さんの話題は禁句らしい。でも、元気なら孫に会いに来ればいいのに。
そういえば、数回会ったばかりのリンのご両親も会いに来るときは少し顔色が悪い気がする。息子に会いに来るのに顔色悪いって……関係あるのかな?
女子リレーが3年生までバトンが渡ったようだ。ーーセラ様が走ってる。あれ、2位狙いじゃなく、1位狙いだ。
一瞬、こちらに視線を向け、手を振るセラ様。……ココさんが起き上がり嬉しそうに手を振り替えした。必ず勝つとでも約束したのかな。
……セラ様が男前過ぎて恋が発生しそうだ!ヤバい。いや、やばくない。どっちだ!?
「セラみたいになりたいですね。どうすればあんなに泰然自若になれるんでしょうか。憧れます」
羨ましいって。そりゃ、天使様だもん!とは言えずに甘党だよって返しておく。
「それ、返事として零点です」
苦笑するリン……あれ、リンも甘党だ。
うん、セラ様がぶっちぎりだった。アディーがズルーイって。あれ、アディー、参加しなかったの?あ、日比谷さんへの責める内容ってアディーにも通じるな。そのせい?
セラ様が、競技を終えた早々こっちに走ってきた。
「ココ、戻るぞ」
「でも」
「ひばりんにも言われただろ。なるべく、反論させる機会を減らせと」
セラ様の言葉にリンの冷たい視線が後頭部に注がれる。……え、私のせい?いい事だよ。沈黙は金だって言われてるじゃん。
「私がついている。大丈夫だ」
ーーセラ様。惚れそうです!!キラキラ輝いて見える。特技が移った!?
「光原が悪かったな」
「いえ、今度何かあったら相談してくれれば、一緒にやり返します……って、セラ様?」
何故か、セラ様が項垂れてる。リンがそれに苦笑し、
「ルカにはストレートに言わないとわかりませんよ」
どうして、私の周りってすぐに苦々しい顔するんだろう。
ぽけーっと、やり取りを聞き流していたらとんだ暴言が。しかし、、セラ様は心得たように。
「ああ、そうだな………光原は悪くない。私のせいだ」
ココさんに聞こえないくらいの声で『契約』までしてすまないと、セラ様が私に謝ってきた。え、別にそこまで深刻になる失敗じゃないと思うし。うん、ココさんが私が預けたヘアピンを握っていてくれたんだから問題ない。ココさんも、自分で頑張ろうとしてくれてるんだから。まあ、セラ様が深刻ぶってるなら冗談でごまかそう。
「くふふ、悪いと思うなら一回でも私の名前呼んでくださいよ。いっつもお前とか、他の言葉で……」
あれ、どうして、目を見開いて口をパクパクさせてるんだろ。……私、セラ様に名前を呼ばれたことがない気がしたから、ーーそこまで嫌われてる?え、セラ様にはさすがに嫌われてないって図々しく思ってたけど、違うの?
「お前は、」
「はい?」
何か言いかけて、視線をさ迷わせ、それを飲み込んだ後にセラ様はいつもどおりに。
「本当に救いたくない」
あれー、欲しかった言葉じゃないけど、セラ様が笑ったから良いのかな?




