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手紙を持った私はーっ、リンの姿を求めて歩き回るとかしなかった。
うんうん、大人しくしてろって言われたからね。私、最後くらい大人しくします。決して問題を先送りとかじゃないぞ。
しかし、……この手紙、いつ用意したんだ?
渡すタイミングを探していたとか?……ココさん、友達出来てたんだ……、セラ様、そういう重要な事をどうして、言わなかったんだろう。
「ルカ、ようやく席に戻ってきたの?」
「お姉ちゃん」
隣に座って、頭を撫でてくるお姉ちゃん。やだ、大好き!……じゃなかった。ヤバい。今、私は見られてはならぬ爆発物を持っている。
これをお姉ちゃんに見られたら、今のリンとの微妙な空気で「リンくんも他の人に目を向けるべきだよ」とか言われたら、私が泣いちゃう!
そして、今のリンにはトドメだ。なので急いでバッグに片づける。あとからー、帰ってから渡そう。
いやー、泉さん、すごく地味に効果ある嫌がらせだ。しかし、……地味すぎる。まさか、小さいことからコツコツ嫌がらせを始めたのか。
「……リンくん」
「ひゃい」
ドモッてしまった。お姉ちゃんは、気づいてないらしくジーッと陣地に居るリンを見つめている。
「怪我、大丈夫かな。…なんだか、変な転び方してたから」
片倉さんが転ばされたって言ってたけど、お姉ちゃんに言うべきか。
「あ、そういえば、リンって有名人なの?」
「え、…うん、昔、ヴァイオリンのコンクールで入賞してたらしいから。知ってる人はいるみたいだよ」
「…知らなかった」
「私とルカがあんまりそういうことに興味なくて、助かったって言ってたから。引っ越ししてきたときはやめる気だったんだって」
お姉ちゃんが、知らないうちにリンくんの役に立てたねって、久しぶりの満面の笑みのような気がする。うん、幸せー。…それにしても、仮装競技って、コスプレ?
「最初っから着替えるんじゃなくて、コースの真ん中で着替えるんだ」
円形の簡単な試着場が出来上がっている。ふむ、確かにその方が競技らしいけど…、よくPTAが黙ったな。みんなの前で生着替えって。なんかあった気がする。バラエティでだ。
「ルカったら、知らなかったの?女子は浴衣で男子はスーツ一辺倒よ」
「……面白味ないね」
「そうでもないの」
お姉ちゃんが凄い意地悪だよーって、何故だ。
そして、その意味を最初の女子が走り出してからわかった。
「浴衣は手作りよ。わざわざ、ボランティアを頼んだのよ」
うふふっ。て、簡単に着れるタイプじゃないの!?生地は天久会長からのご好意って、何してるの会長!?
「あと、みんながみんな自分で着れる訳じゃないから。ほら、帯が崩れちゃったね。何を着るかは事前まで通知しなかったからね。うふふ…、隠してきたかいがあるわ」
あ、体育祭実行委員疲れちゃったんだ。忙しすぎて、大変だったんだ。
なんだか、実行委員の見覚えのある方々がにやにやしながら競技を見つめている。お姉ちゃんまで邪悪な笑みを浮かべている。そこで、放送が響く。
『「競技中の皆さん、浴衣はきちんと着てください。お手伝いしてくださる方を競技中に見つけ出してください。出場前に探したりした場合、その組はマイナス200点です」』
悪意の塊きたーっ!何、その最終問題は一億点みたいなルール!?絶対、不正出来ないー。え、リレーが山場だよね。最終競技残して何そのルール。
そして、最初に言ってあげてー。
『「なお、この鬼ルールは、天匙が誇る鬼会計桜田雅によるものであり、体育祭実行委員は企みには協力はしても関与はしておりません。深託の生徒会長にも許可を頂きましたので。あしからず」』
みんなが一斉に競技参加者にいた天久兄を睨んだ。しかし、必死に頭を振っている様子に私は、青組の陣地で我関せずを貫いている会長を見た。
……入れ替わっている時にサインしたのか。お、恐ろしい。真っ白にゃんこが制作者の威光を受けてさらに輝いてる気がする。ガンバレ、おにぎり!!
「マルーッ!お願い!!」
「うん、わかった」
お姉ちゃんの友達も参加していたらしく、呼ばれたから行くねって。……しかし、手伝いに呼ばれたのは良いけど、手伝えてない子とか、結構いるな。自分の着付けと違うからか。それとも、見栄で自分で着たのーって言っていたけどって子もいるのかな?
この競技は伝説になって封印されてくれ。
「どうだ」
「会長」
こちらに歩いてきながら、競技を見物している会長に声をかける。隣に座るように促したら、ああ、だって。
隣に座った会長から視線外し競技参加者をよくよく見れば、あれ、片倉さんがいる。参加するなんて聞いてないよ。
「片倉さん、どうして、この競技に出てるんだろ」
「片倉は、桜田発案の競技と聞いて恐怖を感じた友人に頼まれて、代理だ。藤咲は……まあ、ざまぁだな」
あ、マナルンも参加してる。ちゃんと自分一人で着替えきった!お嬢様だからなの?凄い!!しかし、
「会長、初めて見るくらい良い笑顔です」
眼鏡をくいっと人差し指であげる仕草が決まっている。よほど溜飲が下がったのか心なしか輝いて見える。……会長には『鶴』になる前の人間は『この土地』から出れるって、教えるべきか。しかし、そうなると、……天久兄弟って……。
「男子はスーツって楽じゃ。それに深託ってブレザーじゃないですか。ネクタイの事を考えたら、あっちが断然有利ですよ」
私が疑問をそのまま、会長に問いかけてる。
確かに毎日、ネクタイを締めてる深託の方が有利じゃ。
「ああ、きちんと自分で締めてればな。……遵に苦労したのは俺だけではないからな。秋月、桜田が本当に感謝していたぞ。ーーようやく、気づかないふりをしなくて良いと言っていた」
やだ、その言い方この競技って私のせいなの!?
そして、桜田先輩。気づいてたの!?そのスルー能力、私にちょうだい!!
あ、今度は男子の方が始まった。
あれー、一年生がもうモタモタしてる。
「佐々木ーっがんばれーっ!」
あ、ひばりんの同級生の佐々木くんもいるんだ。うーん、出来ないんだ。そして、保護者に助けを求めるのは敗けだ空気が漂っている。あ、深託の生徒にもネクタイを締められない子がいる。
……彼女か誰かに締めてもらいに行った……ああ、そう。見栄ね。仕方ない。
「おーい、佐々木くん、出来なかったら締めてあげようかー?」
「「は?」」
やだ。なんでみんなが怪訝な目を。私、生前プラスαだぜ。喪女としても長かったから空想の旦那を想像した時期もあったさ。新婚妻を夢見て、旦那様のネクタイを締め上げ……泣けてきた。やめよう。
「いいの!秋月さん!?」
佐々木くんが来た。四苦八苦したのがよくわかるシャツの皺。……私が、ネクタイを締め直してあげると、おおっ!と喚声があがった。……何故だ。
「ありがと!」
佐々木くんがお礼に投げキッスしていった。うむ。黒歴史として残すが良い。
「意外な特技だな」
何故だろう。会長にすごくバカにされてる気が。ふ、虚しい過去だが、役に立って良かった。あ、お姉ちゃんに頼みに行った人。お姉ちゃんはしたことないから断るよ。
私のせいか、手伝えるよーと声をかける女子陣が増えた。うん、顔の良い子は特に声を掛けられている。あ、深託は男子がやってあげてる。……これからは、自分でちゃんとネクタイを締めるだろうね。
……うん、だからこの3人が並ぶと黄色の悲鳴がひどいね。
「達也ーっ!こっちに来てね!!」
「葵くーんっ!!」
「遵ーっ、頑張ってー!!」
耳痛い。
「ついでに遵は一人でネクタイを締められない」
いらん情報だ。いつも着崩したり、会長に行事の時だけ締め直して貰ってるんだって。やだ、腐がつく女子要素はあるけど、好きカプじゃないから萌えなかった。しょんぼり。
しかし、3人とも微妙にやる気がないようだ。
「秋月、応援するのか?」
「やる気なさそうに見えるから、あんまり…」
……片倉さんのネクタイを締めてあげたい。けど、倍率が高そうだ。
そうこうしているうちに競技が始まってしまった。
簡易試着室から一番始めに出てきたのは、藤咲さんだ。隙のない着こなしで、あっさりゴールに向かっていってる。きゃーっ!!だって。
ふっ、本性を知らないからだな。次に天久兄か。スーツは着なれてはいるけど、本当にネクタイを締めてない。……ホストに見えるよー。そして、なんでこっちに来たの。
「俊平」
「……女子にやって貰え」
「選ばれなかった奴がかわいそーだろ」
甲斐甲斐しく、わざわざそちらに寄って行き、自分の兄のネクタイを締めてあげる会長。うーん、違う悲鳴が上がってる。いや、良いもんは見れた気がするけども!
片倉さんも試着場から出てきて…、天久兄の後を追うようにこっちに。ネクタイをきちんと締めて……ないね。肩にかけてるだけだった。
みんながきゃあきゃあと片倉さんを呼んでる。よし、私も便乗しよう!
「片倉さーん!」
あ、気づいてくれた。わーい。
手を振ってこっちに来てくれた。おお、叫んでみるもんだ。私も席から少し離れて、片倉さんに近づくとニッコリ。
「お願いしていい?」
「マジですか!!」
「うん」
上着を脱いで貰い、屈んで貰う。至福だ。私、この日の為にネクタイ締めを覚えたに違い………、
「秋月さん」
本日二度目のサイレンの音に今度は身体が硬直する。あれ?平気だった分、いつも以上にバクバクと心臓がうるさい。
「えーと」
「チビ、片倉の首を絞めたいのはわかるけど、人前で…チビ?」
天久兄の言葉にさらに身体が震える。首を絞めるーー?『誰が』、私を?私が、『誰かを』?
ガタガタ身体が震え始める。血の気も引いて、あれ、どうして治ってないの?
震える私の頭にふんわりと、片倉さんの手が延び頭を撫でる。
「大丈夫だから。…ほら、もう音が聞こえないから……」
よしよしと、サイレンが聴こえなくなるまで頭を撫でてくれる片倉さんにホッとする。落ち着いたのに気付いたのか、周りのなんともいえない空気に片倉さんは苦笑し、私の頭から手が離れてしまった。それが名残惜しく、じっと手を見つめてしまう。
「俊平、悪い。マルさんかリン呼んできて。雲雀って、…ええっと、アディーさん?」
私の様子のおかしさを心配して近寄ってきたひばりんに何か言おうとした片倉さんが、睨みつけるように自分を見ているアディーに気づいて声を掛ける。
「るか、おれの。触るな!」
ぎゅうっと、片倉さんから私を奪い取るように抱き着いてきたアディーにびっくりした。え、何。どうしたんだ。思わず頭を撫でたら、あおいもダメって。なんでそこで藤咲さんまで?
「え、と…じゃあ、秋月さんを任せてもいい?」
片倉さんも驚いたようで、目をぱちくりさせたが、すぐにじゃあ、競技に戻るからって。アディーが何故かガルーって、私の真似か。あ、ちゃんとネクタイ締めれてないけど、大丈夫かな。
「秋月、どうしたんだ」
「あ~、ちょっと、サイレンの音が苦手で」
「ひばりもダメ!!」
また、威嚇し始めるアディーにそれじゃあ、私、親しい人がいなくなっちゃうよ。って、頭にリン直伝のチョップを入れておく。そして、辺りの視線が生暖かかったり、刺々しかったり忙しい。
「身体が動かなくなるくらい?」
「体調次第かな?今日は色々あったし」
「秋月、今日行方不明になりすぎだと思う。うさちゃんが、真っ青だったし」
やだ。後で謝んなきゃ。ひばりんに付き添って貰う距離ではないとはいえ、席に戻るまで一緒だったが、あれ……?カバンがない。
「どうしたの。秋月」
よし、落ち着こう。ハンカチ1枚、携帯、200円はジャージの中。バッグには何が入ってた?財布はそもそも持ってなかった。ハンカチ2枚とティッシュ。お守りーーやばい。リンへの危険物数枚………本気でやばい。
先ほどの非ではないくらいに私の血の気が引いた。




