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8・5


 私有地の駐車場では、水沢さんは結局見つからず、天久兄の危惧した通りの事態で少年二人を捕まえ、つい、「隠れて吸うって罪悪感があるなら、吸わなきゃいいのに」って余計なこと言ったら殴られそうになった。

 それをさすがに天久兄が止めて、煙草を取り上げたのち消臭スプレーを無言で少年二人に発射しようとした天久兄を慌てて止め、校舎に戻る途中で私に渡し忘れていた物があったと駐車場に居た太刀川さんから紙袋を受け取った。


「……なんにもなかったな」


 何故かガッカリされた。うん、騒いだ分気まずいが、どうして、そんなトラブルを所望するような事を言うんだ。


「会長から、連絡はないんですか?」

「ああ、戻ってるって連絡はないな」

「……」

「疑いの目を送るなよ」


 イマイチ信用がならない相手とどうして行動してるんだろ。自分も不思議。

 しかし、妙に歩いたせいか汗で、ハチマキが不快。というよりその下のかさぶたになってる場所が痒い。


「おい。チビ、飴舐めるか?」

「くれるなら、貰います」


 こくり、と頷いて、天久兄に渡された飴にあれ?って思った。……なんで、棒つきじゃないの?


「……統一しないんですね」

「あ゛?俊平が変えたから、俺が変えたんだよ」


 ーー意味がわからない。

 えーと、天久兄は、体育祭前に会長のふりをして、天匙に来て、棒つきじゃない飴をなめていた。

 その前に私が会長に飴の種類を統一しろって言って、会長も棒つきになっていたから、天久兄だと気づいた。……んだよね。

 なんで、見分けてくださいって行動してるの?

 見分けられたくないんだよね!

 ハッ、買った飴が勿体無かった?いや、今の発言は意図して、会長と同じことを拒否したって。………ん、わかんない。額、痒い。

 混乱して、思わずハチマキの上から額を掻いていると腕を掴まれる。あ、そう言えば、嫌悪感がない。

 あんなされたのに私が鈍いせい?


「お前、額を怪我してるんだろ。掻くなよ」



 ーー誰だ!コイツは!?


 冷静な部分で会長は知ってただろと訴えてくるが、勘的な部分と会長を知る自分が違うと悲鳴をあげる。

 たぶん、コイツ。私が『会長』と呼んだ時点終わるゲームをしている。そんな人を食った態度だ。

 私が携帯を取り出し、ポツポツと、会長の携帯に通話する。ーー確認の為だ。が、組んでいたら終わりだ。


「?どこにかけているんだ」


 着信音が聴こえないし、マナーモードにしていないこともさっきまでのやりとりで知っている。

 通話が繋がった。



『ーーこの馬鹿が、どこにいる』



 安定の罵声に私は、とりあえず安堵し訊きたいことを悲鳴混じりに問いかける。


「かいちょー、三つ子だったんですか!?」

『は?』


 会長の間抜けな声を訊いた瞬間に携帯を取り上げられた。舌打ちし、通話を勝手に切られた。


「ーーあの、イイコちゃんが『鶴』に教えてない事があったなんて」


 盲点って。口角をあげて薄暗い笑みを浮かべる天久兄っぽい人。

 やべ。人外だ。


「どうだ。似てたか?」


 私に向かって、クスクス笑う……天久兄っぽい。


「す、すみません。お名前の方を」


 私が状況に似つかわしくない質問をすると、少しだけ化け物じみた何かが緩和された。


「ああ、……天久では『お狐様』って呼ばれているから。そう呼べ」


 狐の要素が見当たりません。いや、化けてるから。やだ、怖い!


「そういえば、お前が捜している水沢という少女は少し眠って貰っただけだから、安心しろ」

「日々谷さんは…?」


 思わず問うとクツクツ笑う。


「俊平のふりをして、頼んだらアッサリと友人たちと協力してくれたよ。……水沢という少女を真剣に捜しているのは、今仲良くなった方だよ。友という点でも引き離しは正解だったようだな」


 やだ。褒められちゃった。しかし、どこまで知ってるの。


「志鶴が知っている事しか知らんよ。ああ、俊平の報告がたびたびあるからね。ーーその中で、お前、遵に上手に『諦めさせた』から興味がわいてな」


 やだー、こんな人外に興味持たれてたなんて。かいちょー、私、今日から地味に生きたい。指導してくれ!つーか、志鶴って誰!?そして、何を上手に『諦めさせた』の!?


「あの子は、『弟になりたかった』んだよ」

「……は?」

「長子でなければ、『鶴』にならずにすむからね。ーーだから、あんなに子供っぽい。だがね、お前、あの子の前で泣いたらしいな」


 ……鼻水って言われたのを思い出して、ちょっと赤面した。


「大事にしていた物で、お前の涙を拭いてやりながら、憑き物が落ちたようだ。『欠落者』としての素養が無くなったーー正直、面白くない」


 今の話の展開って、どう考えても感謝される方向だよね。なんで、面白くないんだ?

 本当に退屈そうにあくびまでした。


「『鶴』が『欠落者』などになる訳がないだろ。それだと云うのに必死になって、事実を隠そうとする間抜けどもに遵を『欠落者』にした上で、事実を伝えてやろうと思っていたというのに……つまらん」


 あ、最低な性格してやがる。しかし、何か重要なことを言っている気がする。


「天久兄は『この土地』から出れないって」

「『鶴』になる前は、出れる筈だったが、まあ余興だ。どこかへ行っても結局は一族の者が連れて帰ってくるからな……藤咲のは予定外だが」


 退屈になったと嘆くお狐様にムカーッとした。き、貴様のせいか。天久兄と藤咲さんが最悪な性格になったのは、本人の資質だとしても貴様が二割くらい悪い!

 一言、物申すぞ!!


「はっ、物事が退屈なのはなー」


 確か、お母さんが酔っぱらいながら、テレビの台詞に管をまいていたときの台詞だぜ。あの人、酔うと気が強くなる。

 ビシッと、天久兄の姿をしたお狐様を指し、


「お前が退屈な奴だからだって、知らないのかよ。かーばっ!」

 私とお狐様の間がシィン…と、なった。ふ、……決まった。あ、遠くから誰かが走ってくる。

 会長と本物の天久兄と……なんで藤咲さんまで?

 やっほー。私、ちょうど名台詞を放ち終わったとこ、


「馬鹿者ーっ!」


 会長の怒鳴り声とともに私、なんでか天久兄と藤咲さんに腕を両方掴まれ、引きずられた。え、ど、どうして。やだ、どっかの捕まった宇宙人みたいじゃん。

 走っては来なかったが、天久兄弟によく似た着物を着た男性がこちらに歩いてくる。私を見て、苦笑した。


「『お狐様』、子供のした事です」


 何かを思案するように腕を組むお狐様というやつに私は、もう一回何かを言ってやろうとしたら、三者に睨まれた。ぐはっ、美形な分ダメージが辛い。


「……志鶴。かーばっとはどんな意味だ」


 ちゃんと、馬鹿って言ってやれば良かった!不完全燃焼!!


「遊びが過ぎます。……御帰還を」


 チッと、舌打ちするお狐様は、私を一瞥し、


「体育祭とやらを終えたら必ず、天久へ来るのだぞ」

「お約束します」


 誰が行くかボケッ!と口にしようとしたら、藤咲さんに口を塞がれ、代わりに会長が応えた。美形だから、何しても許されると思うなよー。

 狐と天久お父さんが帰っていくのを待たずに私は、陣地に強制連行された。

 そして、本当に縄で縛られそうになった。やめてください。そんな新しい扉は断固拒否する!

 会長が水沢さんを探したら、保健室で寝ているのを発見したらしい。さすが狐だ。私、そこ探したのに。

 とりあえず、仲良しグループに教えておくと、感謝され、日々谷さんにニッコリと釘を刺しておいた。



「日々谷さんに頼み事したの。兄の方で会長、怒ってたよー」



 顔面蒼白している。否、ちょっと芝居が過ぎたし、反省してくれ。

 しかし、本格的に藤咲さんに見張られている。げ、元気になったなら競技に出てきなよー。あ、そういえば、太刀川さんが届けてくれた物をお父さんに見せなきゃ。


「どこ行く気」


 短く問われ、うーんとってなる。まあ、聞かれて困るものじゃないし。


「お父さんに届け物を」

「俺も行くから」


 あっさり立ち上がり、どこって……藤咲さん、そんなに信用なくすような事したのか私は。あ、棒倒し、熾烈な感じだ。……けが人出なきゃいいけど。



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