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校舎の中は、泉さんと歩いた時とは違い、疎らだが人は居る。
自分の子供の通う教室を興味津々に見て回る大人たちと紺ジャージの深託の生徒……私みたいにピンクジャージの生徒が歩いていると、目立つな。
ちゃんと、携帯は所持してまーす。
ふふん、無謀に突進はアカンと思い至り、携帯を持ち歩く私は、流石だね!……どうして、泉さんの時に思い至らんかった。お守りも持ち歩いてなかった。
なんで、あんなに無謀だったんだろ?
「おい、チビ」
会いたくない人に話しかけられました。ーー足が痛いので華麗に逃げられません。
「なんでしょうか。天久兄」
名前なんぜ、呼んでやらんぜ。貴様にも痛い目にあってるからな。くふふ。
「煙草吸えそうなとこ知らないか?」
よし、話を聞く価値もなかった。ーー私は、ツーンと無視を決め込んだら、腕を掴まれた。
「俺が吸うわけじゃねえよ」
なぜか心外だとばかりに言い訳する。よしんばそうだとしても、貴様の評価は変わらんが、
「じゃあ、誰が吸うんですか!」
もう、お前の評価は底辺だぞ。底辺!
これ以上、どうしたいんだ。さらに下がる気か。もう、谷に穴を掘る勢いだぞ。
「ちがくてだな。うちの生徒の問題児が居ねぇんだよ」
「ほう、貴殿より問題児とな」
「どんなキャラチェンジだ。泉水穂か」
あ、やべ。これから安易なキャラチェンジは止めよう。私のイジメ問題の時、会長のふりしていたのはコイツだった。
「……話は戻すがそいつらが、煙草休憩しに行ったんじゃないかと、……で、だ。近くに穴場はあるか」
「有ったとして、こんなに人が多い場所じゃ無謀ですよ。そうですねー。車持ちの協力者が居て、そこで吸ってるとか」
「チッ、駐車場どこだよ」
舌打ちしながら案内しろって。やだワガママ。
「私、忙しい!」
「忙しい奴が、フラフラしてんじゃねえよ。俺の為に働け」
ガルーッ!確かに反論できない。いや、こういう最低な奴ほど、相手の気持ちがわかるかも!
「こういう場で、女の子を一人監禁としたらどこですか?」
「は?お前、連れ込んで欲しいのか。悪いが、お前相手じゃやる気が起きないぞ」
ーー殴っていいだろうか。
「違うよ!参考意見!!」
「はあ…?レズなのか」
こ、コイツの頭、ピンクの花畑か!?もう最低だーっ!!
「あー、じゃあ、やっぱり車だな。後部座席が広いやつ。後ろが見えない加工をしたワゴンとか良いな」
「……最低だな。君」
「アホか。俺はそんな事しなくても、相手に事欠かねえよ」
自信満々に顔も身体も悪くないって、胸を張りやがった。やだ。耳が腐る。会長に怒鳴られてたほうが千倍も万倍も良いぞ!
「むーっ、本命に振られてしまえ!」
「いねえよ。そんなの」
『小鳥』だって、一回遊んだら俊平に渡すって。ふーん。へー、ほー。誰か知らんがフッてしまえ。
「そんな恋愛経験豊富な天久兄に『祝福を』」
「は?」
「これから先、恋愛面で死ぬほど苦労しろー」
神様、仏様、セラ様、ついでにアディー。全勢力を持って私の祝福を叶えたまえー。ナムナム。
「どこが祝福なんだ!?」
「神は言った『困難の先の幸福を』」
あれ、リンだっけ?まあ、そんな風な詞だか、なんだか有ったのか耳にした気がする。
「困難は人生のスパイスだ。ケッ、痛い目見ろ」
天久兄に無言で腕を引っ張られる。痛い。足が痛い!どうして、私が痛い目を見なければならんのだ。まったく。
「駐車場は?」
「先生たちも使ってるのは校舎裏で、あ…、えーと、一般客用にちょっと離れた場所にも解放してる場所が、……天久兄は、もう競技ないの?」
「リレーと棒倒し。サボっても別に他がいるし。美人が煩いだけだな」
美人って、ココさん?ーーあ、セラ様が遵が、どうとか言ってたから。……天使に苦労かけてるのか強者過ぎるっ。
ん、お前もだって……聞こえな……は、反省しないとコイツと一緒だと!?多大に反省致します!
メインの駐車場を一通り見て回ったが、見つけたい相手はいない。
ーー途中で、お姉ちゃんから電話が来たので短距離のレース結果を聞いたら、日々谷さんがゴール寸前でわざと立ち止まり、1位から最下位になった事を責められているらしい。ふむ。やり過ぎ。
「なんか有ったって、バレバレな事しちゃダメだよねー。もっと、ネチネチと」
「チビは、どの立場なんだ」
私が、どうして誰かを探す真似をしているのか説明を求められ、拒否した所、自分のもっともピンクなネタを耳元で語るぞ!とわりと目がマジ気味に言われたので、白状したら頭おかしいんじゃないかコイツって顔された。やだ、正直!
しかし、私の話を聞いた後の天久兄の行動は早かった。スマホを取り出し、誰かに連絡している。
「あー、大人は、まだいいんじゃね?チビの勘らしいからな。録でもない」
どういう意味だ。天久兄。
「ただ、万が一が有った場合、深託の生徒が関わってたらめんどくさいじゃん。俺、生徒会長だし………じゃあな。俊平。ガンバーっ」
何人かに電話を終えて、最後に我が校の会長様に電話してたんだ。ふぅーっと一息吐いたと思えば、
「校舎は、俊平が捜索し直すらしいから、チビは戻れ」
「ふえ?」
「大人が出てきた場合、どんな言い訳するつもりだ。お前は」
やだ、まともな理由で帰れって言われてる。でもなー、うーん。
チラッと、天久兄を見上げる。
「もみ消さない?」
「チビが俺をどう思っているのかは理解した。……まあ、事と次第によっては揉み消す」
そう言われて戻れる人間がどこにいるんだ!?
私が絶対戻るかと、天久兄の腕にしがみつくと、本気で嫌そうな顔をされた。バカな。貴様が自分の為にってつれ回したんだろ。
「……チビの危惧した通りだとしても、チビが心配してる子が無事なら、俺に全部任せるっていうなら連れてくけど」
「それはー…」
一瞬、納得しかかったが、いや待て。
ーー無事なら、……無事なら?ーー無事なら、うん、やっぱり、言葉遊びかしら。無事じゃなければ、面倒見ないって宣言してないか?
そ れなら私だって責任もてるだろうが、なにいってんだ。天久兄!!
「無事じゃなかったらどうする気でしょうか」
チッ、て舌打ちか。そうか、貴様、私を阿呆だと信じていたか。否定はせんぞ。
「あのな。お前の為でもあるんだぞ」
その言葉にジトーって、つい、天久兄を疑いに満ちた目で見つめてしまった。私、悪くないはずだ。




