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6.5


 殿が私と藤咲さんを連れてきたのは、薄汚い個人病院だった。

 ーー病院なのに薄汚いって。と思ったが、覚えがある。ゲーム内で喧嘩っ早い男主人公(光原さん)がよくお世話になっているじい様医者の経営している病院だ。

 女主人公のヒーロー攻略時には鬼門の場所らしいが。

 怪しげな薬ばかり用意するじい様は、「腐ったゾンビがさらに元気に!」と謎のキャッチフレーズを振り撒いていた。そんな病院を我々を置いて行く殿は鬼に違いない。

 藤咲さんは、あれだけ一眠りを拒否していたのに注射と点滴を打たれた後、ぐっすりベッドで眠っている。私も、ピンクミニスカナース(じい様の趣味)に足の手当てをして貰ったら痛くなくなった。

 怖い。

 そして、こんなに腕が良いのに待合室に人っ子一人いない。

 ミステリー!

 今から、ホラーかサスペンスでしょうか。なんて、考えていた30分前が懐かしい。


「ぼっちゃんは二本目も必要みたいじゃけん」


 私の記憶が正しければ、ナースキャップ廃止されたような。そして、それは本当に点滴かって、ツッコみたい。藤咲さんは、点滴二本目突入です。

 待っている間、暇をもて余した所で藤咲さんの父親とその秘書が病室の前に来ました。ここで、脳内会議は復活しました。何故だ。

 はい。ナースコスの看護士さん、パイプ椅子をわざわざ部屋の前にご用意を感謝いたします。

 連れて帰るって言われたら、バトラなきゃならんのでって。……リンのお願いじゃなきゃ藤咲さんに帰った方が良いって言うよ私だって。

 そんくらい顔色悪いし、熱もあるんだもん。

 椅子に座って息子さんのいる病室に入るのを邪魔する小娘に奇異の目を向ける藤咲さんの父親を名乗った男性とピリッとした感じの眼鏡の秘書を名乗る女性。


「……君は?」

「見張りです」

「そうか。葵の担任から連絡があったので迎えに来た。退きなさい」


 ーー退きなさい?


 私は、耳を疑ったぞ。き、貴様、よくそれで市長なんて出来てるな!はん、人間的に未熟でも『悪魔』様のお力で、市長になれるのか。

 だから、藤咲さんの性格があんな曲がって、歪むんだぞ!?

 ちょっと、退くにしたってしないたって一言物申す!だって、生前プラスαだからね。同い年か私の方が精神年齢上だ。

 藤咲さんをめんこいーっ!てするって誓ったし、ふふん、やってやろう。


「命令されて、退くのが嫌なので退きません。」

「な…っ」


 秘書さんが、私に怒気を向けたが知りません。だいたい、先に失礼を働いたのは、そちらですぜ。


「君は、葵のファンなんだろ。私の機嫌を損ねるのは上手くない筈だ」


 やだ、藤咲さんのファンの子ってお父様にこんな対応されてたんだ。かわいそう。私、そのファンの分までやり返そ。


「藤咲さんの周りにいる人が必ずファンとか笑えるんですけど。私、一復讐者ですから」

「復讐者?」

「ええ、いっつも意地悪やら陰湿な罠に嵌められる哀れな子羊です。いつか、やり返します」


 えっへん、と胸を張ったら、しばらく思案する様子を見せ、ぽつりと呟く。


「君は、富士山に上りたいか」

「は?」


 突拍子のない質問に目を丸くする。


「東京に行ってみたいか?海外でもいい」

「……えーと、イタリア?」


 イタリアンが食べたいからじゃないよ。ほ、本当だよ!?


「『この土地』に縛られていないのか……なら、葵など覚えておくだけ無駄だ(・・・・・・・・・)


 ーー絶句した。

 真顔でそう、……自分の子供を覚えてるだけ無駄だという親が目の前にいる事に驚いた。いやーー、覚えのある痛みだ。私の生前も、アイツラはー…、


「どういう意味ですか」


 思わず、噛みついた私に藤咲さんの父親の目は冷たい。


「説明は無駄だ。何も知らない小娘と語り合うだけ時間はない」

「『この土地』から、私も出ていけませんよ。それじゃあ、ダメでしょうか」


 今度はあちらが絶句した。ふむ、手札として間違っていなかったのかな。


「…『悪魔憑き』か『天使の加護』か?それともーーどれにしても、君は契約を解除すれば良い。葵とは違う。期待させて葵を独りにさせるくらいなら近づくな」


 む、話の展開がおかしい。まるで、私が藤咲さんが好きみたいじゃないか。ーーいや、嫌いだけど、ん?


「私、どちらかと言ったら藤咲さん、苦手ですよ?」


 嫌いって、親の前でいう言葉じゃないので濁してみたら、目をパチクリされた。纏っていた殺気も緩和されたような。


「では、何故、私が葵を連れて帰ろうとするのを邪魔をする」

「藤咲さんは体育祭に戻りたいみたいですし、……退けって言われたからムカつきました。」

「それだけで目上に喧嘩を売るな」


 ごもっともだが、なんだろ。市長よ……藤咲さんの事、嫌いなの。好きなの。どっち?


「そもそも、葵の都合などどうでもいい。私の息子が他者に弱っている所を見せているのが問題だ。葵は連れて帰る。それを邪魔する権利が君のような子供にあるとは思わない」


 ーーやっぱり腹立つ。

 間違ってない。具合の悪い子供を連れて帰る親っていうのは間違ってないけど。


「藤咲さんの意見も大切にしてください。体育祭に残りたいって」

「ーー正しいと思って言っていないだろ。そして、葵の意見を尊重する気もない。そんな人間が何を言った所で説得力などない」


 痛いとこ突かれてる。……そもそも、藤咲さんがどうして、体育祭に残りたいのかがわからない。リンが積極的に手伝っていた。

 先ほど、何故か復活した脳内会議よ。なにか意見は?


 ーーそもそも、藤咲を助ける理由がありません。

 却下。リンに頼まれている。

 ーー悪巧み?

 違う気がする。

 ーー競技に出てないし、目立とうって感じじゃないであります!

 うん。

 ーーリンが、藤咲さんと写真を撮りたいって人が来たら起こせっていってたよー。

 写真……あー、繋がりそうだけど、駄目だ。

 いや、待てよ。


「『この土地』に縛られてないと、藤咲さんを覚えてるだけ無駄って言いましたっけ?」

「不愉快な事を確認する」


 渋面を作られた。いや、これを藤咲さんには確認できない。

 そうだ、リンだ。あのリンが夏休み中、連絡を不精していた理由って…、『この土地』から出れない人間は、『この土地』から出られる人間に曖昧な存在にされる?

 ーー忘れられる?


 じゃあ、それを知っている立場の人間はどう思うかーー忘れられたくない。思い出して欲しい?じゃあ、体育祭は?…『この土地』から出ていける人?ーー写真を断るなって、……藤咲さんは十五歳の中学生、



「あ、……集合写真」



「は?」


 怪訝な顔をする藤咲父はもしかして、息子が『外』に出たがっているのを知らないのか?


 うん、これが理由かわからない。けど、


「あの、私がもし、やっぱり、藤咲さんを連れて帰るのを反対したら怒りますか?」

「くだらない事を」

「どんな理由でもですか?」


 一瞬だけ険しい顔をしたが、私をもう一度一瞥し、頷く。


「藤咲さんは、みんなに覚えていてもらうために集合写真に写りたいんじゃないかと」

「時間の無駄だった」


 ギャーッス。結論が早い。


「中学三年生ですよ!!『この土地』以外に進学や就職する子がいるかもって」

「そもそも、そういう事態には『修正』がつく。葵も相手もすぐ記憶の存在が曖昧になる。『外』に誘われないよう」


 ああ、やっぱり、藤咲さんが『外』の世界を認識してるって知らないのか。いや、どうして、この人は『外』を認識してるんだ?『この土地』に縛られて、


「余計なことを考えている時間があるのか」


 さすが、親子。脅し方が同じだ。だんだん、不機嫌さから室内温度が下がっている。ええい、このめんどくさい親子め。情に訴えても無駄か。それなら、


「何してるんですか」


 ガチャっと、開いたドアから顔色が目に見えるほど良くなった藤咲さんが出てくる。あ、点滴を引っ張って出てきたんだ。……「腐ったゾンビもさらに元気に!」のキャッチフレーズは間違って…、ゾンビって、元気にならないよね。前提が間違っている。


「葵、かえりなさ」

「今、俺が帰ったら『あの女』を気にしてのことになりそうなので、お断りします」

「ーー来てるのか?」

「はい」


 あの女って、…藤咲さんの産みのお母さん?

 淡々とやり取りをして、藤咲父よ。なんで、連れて帰ろうとしないの?さっきまでの勢いは?


「わかった。好きにしろ」

「はい」


 いやいや、何にもわかんないから。なんで帰るの。藤咲父と秘書。支払いは済ませとくじゃなくって。

 文句を言おうとしたら、口を塞がれて部屋に連れ込まれた。ギャーッス、本日二回目。


「あの、藤咲さん…?」


 後ろから腰に手をまわしてどうして、あちくしに抱き着くのでしょうか。


「頭悪いのか、バカなのか、ハッキリして」


 やだ、どっちも意味として同じじゃ。

 そして、後ろから肩に顎を乗せて聞かないで、貴方の声がなんか掠れててエロヴォイス。やだー、今日怖い目に有ったの思い出してきた。あれ、あの時は、あんまり恐怖を感じなかったのに。泉さんにイライラしてたからかな?


「ふ、藤咲さん」

「何」

「怖い」

「……」


 はあってため息を吐いて、あっさり解放してくれた。


「やっぱり、変なとこ『封じてた』みたい」


 ボソッて、なんだろ?聞き捨てならない。


「少し、話があるんだけど。」

「?はい」

「……体育祭に戻ってからでいいよね」


 なんか、妙に元気になったって。……やばい薬じゃないよね!?



 藤咲さんがタクシーを呼んで、戻ってきたのは良かったがお昼が過ぎてるーっ。青組と黄色組の応援パフォーマンスが始まっていた。


「お、お腹すいた」

「……二、三年は弁当だから俺の分、あげる」


 本気でくすんっと鼻を啜る私に藤咲さんが妙に優しい。ま、まさか罠か。


「ルカさん」

「あ、太刀川さん」


 運動場に戻る前に現れた太刀川さんが、私に重箱を手渡してきた。

 あれ?神取は?


「神取はさすがにこのような場には」

「あ、…そうですか」

「代わりにお弁当をと」

「おおっ!これは、駅前にあるお店の!!」

「お好きかと」


 それでは、と去っていく太刀川さんに手を振り、どこで食べようかと辺りを見回すと藤咲さんが、こっちって。……あ、青組の応援パフォーマンスだ。


「片倉さんだ」


 天匙の学制服をきちんと着こんで、3・3・7拍子の音頭を取る片倉さん。ち、近くで見たかった。女子生徒の黄色い声が…、くそっ混ざりたい。きゃーきゃー言いたい。


「なんだ、勝手に帰ってきたのか」


 私たちの姿を確認した殿に今から迎えに行く予定だったと愚痴られたが、今から来られたら片倉さんの勇姿が見れなかった。藤咲さんのおかげだ。


「…機嫌良いね」

「はい。良いもの見れましたから」


 ありがとうございますって言ったのに何故か、藤咲さんの機嫌が物凄く悪くなった。な、なんでー?


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