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※暴力的な表現有り
おかしいなー。
校内解放したって言ってたのに人っ子一人いない。
美術室に来るまでの間に校舎で人に出会うことはなかった。やだ、ホラー。
美術室に来た瞬間に泉さんが豹変してくるかと思えば椅子を用意してくれ、座るように促される。……怖い。怖いパターンがきたね!
優しいふりして、グサリッて奴かな。
「秋月さん」
はい、恐れていたことが判明しました。『アキアキ』と『秋月さん』は別人です。ここ、宿題にでまーす!……ツッコミがありません。
泉さんが、ジーッとお姉ちゃんの絵を眺めているのが気になる。椅子には座らず、ドア側にいるけど、お姉ちゃんの絵になんかされたら椅子を投げる自信がある。
「私って、飽きやすいの」
いきなりの独白にそう…としか返せない。だって、あのキャラチェンジの多さは、飽きやすいからだと思うよ。
「毎日が退屈なの。家はそこそこお金持ちだし?両親の仲も悪くないわ」
なんの自慢だろ。
「欲しいものは大抵手にはいるしね」
ふぅ…って、そこのため息は意味がわかりません。やだ、羨ましいって言えば良いの?それとも、私も家族自慢を始めればいいのかな?
「いつも刺激を求めてるの」
なんだろ。これが素の性格なのかな。頑張って、キャラチェンジしてたんだねって褒めてやろうか。そして、お姉ちゃんの絵から離れろ。
「今の話を通して、私、関係なくない?」
「あるの。ーー私、小さな頃から見る夢があるから」
夢?ーーそういえば、歌う牧師が片倉さんにも夢がどうとか…、
「夢の中でね。私に毎日、刺激を与えてくれる存在が居たの。同い年の…『アキアキ』っていう女の子」
秋月さんにそっくりと笑う癖に目は笑っていない。つまりー…私の存在を認めてないって事か。
「夢の中で『アキアキ』にね。私がいつも退屈にそうにしてるからって声をかけてくれたの。そして、色んな場所に連れていってくれて……自分でお金を稼ぐ方法も教えてくれて。そうして私が集める情報を笑顔で受け取ってくれたの」
……嫌な予感しかしないんですが。
「『アキアキ』はね。家族に嫌われてたんだって。だからね。私が集めた情報で家族をどんどん追い詰めて破滅させていくの」
にこにこと、何が愉しいのか。私に『夢』の話を披露する泉さん。
……家族を破滅させたねぇ。
「ーー春に私に話しかけてきてくれたよね」
「うん」
いま、物凄く後悔している。人となりもしらずにゲームの知識だけで仲良くなろうとしてたのは、確かだ。
「私、凄くドキドキしたの。夢が本当になるかもって。なのに話しかけてくる内容が友達になろうだもん。がっかりしちゃったの」
「へえ」
「だから、夢で教えてくれた事も嘘かもって思って、一人で行ってみたの。そしたら、やっぱり刺激的な場所で。でも、『アキアキ』が守ってくれなかったせいで、酷い事されたりもしたの」
私大変だったんだからって、ぷくーっと頬を膨らませる泉さんに私は、頭が痛くなってきた。
「夢の中の『アキアキ』は、一人で行くなって言わなかったのかな?」
私が話に乗ってきた事にぱあっと顔を輝かせる泉さん。
「言ったわ!だって、私の事大事だって言ってくれたから」
「じゃあ、泉さんが悪いんじゃない?『アキアキ』の言葉に従わなかったんだから」
「ーーだって、『アキアキ』がいないんだもん!」
チッ、しまった。諭すつもりが責める言い方をしてしまった。明らかに私に敵意を増した泉さん。逃げるには足が痛む。
しかし、調子が出ない。ムカムカだけして、感情論になりそうだ。
「でも、私が『アキアキ』じゃないって、もうわかってる筈だよね?」
「うぅん、『アキアキ』はね。封印されてるの。私、わかるの」
やだ。こんな時に電波キャラにチェンジするな。だって、と…指した先にお姉ちゃんの絵がある。ーーまさか、
「あの日、たまたま、美術館に行った日。綺麗な男と一緒に居る『アキアキ』を見つけて、この『絵』を壊そうとした『アキアキ』を見てーー思い出したの。『アキアキ』は、この『絵』を必ず破り捨てていたって」
藤咲さーんッ!!
貴方のせいで、お姉ちゃんの絵がピンチです。
あの男、ーーあの男だけは許さんッ!!いや、ちょっと待てよ。
「……売春の噂はその前から流れてたけど?」
「それは、秋月さんが入学早々に先輩を泣かせたじゃない。そのせいよ。私は便乗しただけ」
はて、そんなことしたっけ?
私は首を傾げる。
先輩と意見の相違は確かにあって話し合っただけなのに。
「だからね…、この『絵』を滅茶苦茶にして、そして秋月さんも『堕とせば』私のアキアキが帰ってくるって、わかったの」
なにその理屈ーっ!
泉さんが、額縁に入ったお姉ちゃんの『絵』に手を伸ばす。
「まーー」
慌てて泉さんを止めようと動こうとしたら、ガラッとドアが開き、腕を掴まれ引っ張られる。
やだ。学ぼうか。私。口もハンカチで塞がれた。大人の男二人だ。大学生くらい?
ドアも鍵を掛けられ閉められてしまった。
「おい、本当に大丈夫かよ?」
「大丈夫よ。逆にこういう騒がしい場所で問題を大きくしたい大人っていないわ」
ふむー、確かに『神光』の選定のために行われてるなら天匙としては、問題を大きくしたくないと思うかな?……脳裏に浮かぶのはそんなに薄情な先生たちじゃないけど。
泉さんが男たちに拘束された私に近寄ってくる。
「秋月さんって、鼻につくくらい潔癖なんだもん。しかもーー甘い。あの時、もっと、私を学校にこれなくするほど断罪しておけば良かったのに……きっと、そのせいで『アキアキ』が出てこないんだと思うんだけど。ね、私、『アキアキ』が大好きなの。ーー消えてくれない?」
ニッコリと悪気なんてなく、私に消えろという泉さんにヘドが出るね。ペッ。
「何よ。その目は」
泉さんに睨まれたが、ちっとも怖くないね。ーー怖いのは、こっちのお兄さん達だ。……どうしよう。セラ様の力が発動しないって、まさか、天久兄みたいな例なの?
あれ、じゃあ、私の推測は間違ってる?
「まあ、いいわ。そこでこの『絵』が滅茶苦茶になるのを見てなさい!!」
そう言って、泉さんがお姉ちゃんの絵を頭上高く持ち上げ、振り落とし、地面に叩きつけられようとした瞬間、ふわっと、……不自然に額縁が浮いて、丁寧に地面に落ちた。
………え?
静寂が美術室を襲う。それくらい、不自然な動きだった。
……あ、もしかして、セラ様?
私、他も呆然としている中、ガラッと鍵を掛けていた筈のドアが開く。慌てて、振り返ろうとした男の一人の背中を誰かが思いっきり蹴りつけたのが見えた。……り、リン。
「テメェ」
リンは、私を拘束している方を無視し、態勢を崩した方の男の頭を容赦なく踏み潰す。ーー地面と頭がぶつかってガンって鳴った。しばらく、踏みつけた相手を見つめるリンに私ですら、ぞっとした。
「て、てめ」
踏みつけた相手が頭を抱えて丸くなったのを確認すると、私を拘束している男に目を向けるリン。……え、どこ見てるの?
「心臓は、ルカが邪魔ですね…喉か」
怖いよ!?
リンの視線の先と呟きに男も悲鳴を上げて、私から拘束を解くと私をリンに向けて投げつけるように押しつけた。
「ふおっ」
「テル、それも逃がさないでください」
変な声をあげ態勢を崩す私をリンが抱き留めてくれたが、て、テル?あ、光原さんか。
逃げようと、ドアから出て行こうとした男の前に光原さんが出て道を塞ぎ、
「あ」
光原さんがこっちを指して、あって言うので何だろうって、そっちを向いてるうちに男のうめき声が聞こえた。お腹と首元を押さえて膝をつけている。え、何したの?
「みぞおちと、鎖骨辺りに一発ずつです。鎖骨はもろい骨ですから、女性の力でも下手したら折れますので、もしもの場合以外真似しないでくださいね。ルカ」
みぞおちは、難しいですしねーってのんびりしてる。
怖い。リンと私に笑顔を向けながら男を縄で縛っている光原さんが怖い。
「ーー藤堂鈴」
泉さんがリンを思いっきり睨みつけている。どうしたの?
泉さんの話の『アキアキ』は『秋月ルカ』だ。なら、リンは…『秋月ルカ』のおもい人だよ?
泉さんは、リンを睨み据えたかと思ったら、クスリと笑った。
「私、何もしてないわよ」
開き直り方が半端ない。あれー、でも、確かにお姉ちゃんの絵も私も無事だ。リンが私から離れ、額縁を拾いあげながら。
「鍵は返してきなさい。殿なら怒りませんよ」
「スペアがあるかもしれないわね」
「その場合、この絵が紛失したり、破かれた場合、即座に君が疑われますね」
リンと泉さんの淡々とした短いやり取りで視線を先に逸らしたのは泉さんで、フンッと美術室を出て行ってしまった。額縁を飾り直し、男たちを縛りあげた光原さんにリンは頭を下げた。
「テル。付き合ってくれてありがとうございます」
「どうする。この人たち」
「先生方に任せます。ルカは何もされてませんし」
ちらっと、光原さんが私を心配そうに見た。
「女の子が襲われかけたんだから、もうちょっと、優しく」
「……」
じろって、リンに睨まれた。わー、怖い。
「今は、大丈夫ですよ。」
光原さんに後始末を押し付けたリンにおんぶされて、陣地に戻ると藤咲さんが寝ている場所が人だかりになっている。
「帰った方が」
「大丈夫です」
先生たちが、藤咲さんの様子にさすがに帰宅を促しているようだ。藤咲さんは嫌がっているみたいだけど。
リンがその様子に舌打ちし、反抗的な目で大人たちを睨んでいる。
「先生」
あ、殿やうさちゃんやリンの担任の先生もいる。
「ああ、藤堂か。お前からも」
「美術室の鍵が開いていて、大学生くらいの二人が勝手に入っていました。深託の生徒と縛りあげてきたので、煮るなり焼くなり」
「どうして、お前は時々過激なことをするんだ!?」
殿とうさちゃんが、藤咲さんの対応を任され、後の教師は美術室に走っていく。リンが残った殿とうさちゃんに剣呑な雰囲気を漂わせている。
「女性を脅すのは本意では有りませんが…」
脅すって、はっきり言ってる。ど、どうしたの。リンが怖い。しかし、そんなリンを殿が制し、
「藤咲、一回、病院に行って、点滴打って貰って戻ってこい」
「そんな、笹塚先生」
うさちゃんが殿(笹塚って苗字だったね)に非難の声を上げる。が、ガン無視した。
「藤咲も藤堂もそれでいいな。」
「……はい」
「わかりました」
藤咲さんはしぶしぶ従い、リンも頷いた。
「じゃあ、秋月も来い」
ーーなぜだ。殿の言葉にリンの背中から私は顔を出し目を丸くする。
「藤堂に背負われなきゃならないくらい足が痛むなら、本職に見て貰ってくるぞ」
やだ。楽した代償がこんなところで。
リンは私を殿の車の助手席に押し込められると、声をひそめて、
「絶対、藤咲を帰さないようにしてあげてください」
正直、リンの言葉と行動の意図が読めずに困惑してしまう。
私がむーっと、リンの顔を見ていたら、リンは苦笑して、お願いしますと繰り返した。
「帰ってきたら説明しますから。」
そして、私は未来のお義兄様(予定)のお願いを実行しようと孤軍奮闘を行う羽目になった。
「葵を迎えに来たのだが」
藤咲さんによく似た面影のそれでいて如何にも出来る男代表みたいな人だが、神取みたいな若頭風でも、お父さんみたいに少し童顔でもないタイプの中年って言って良いのかわからない美丈夫に見下ろされながら、私、藤咲さんが点滴中の部屋にこの人が行かないようにドアの前で番犬よろしく、椅子に座って邪魔をしている。
どうして、こんな冷や汗を流しながら頑張っているんですか?はい。この人と、今藤咲さんを会話させちゃいけないと思ったからです。ーー人の努力を全部否定するタイプだって警鐘が鳴っています。よし、勝率は!ーー全然有りません!!
うむ、無謀なたたか…あれ、脳内会議がいつの間にか復活してる。なぜだ?




