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「右足、左足どっちに結ぶ?」

「左だ。当然だろ」


 今、私、盗撮くんとどっちの足に紐を括りつけるか訊いてみた一幕だったりする。

 うーん、仁王立ちして手伝ってくれないので座って盗撮くんの左足と私の右足を紐で結ぶ。ちゃんと結べたかな?

 しかし、こんなに手伝ってくれない子って初めてだ。藤咲さんも会長も偉そうだけど甲斐甲斐しいぞ。

 ………私、恵まれてたんだと改めて再認識してしまった。


「掛け声は左ー、右でいい?」

「任せる」


 えーと、左、右って言いながら、反対の足を出すんだっけか。あ、掛け声を出すんだから、反対じゃなくて良いのか。

 やばい。こんがらがる。

 レースのスタートの位置についてはいるが、周りがなんだか余裕に満ちていて、私はなんだかいたたまれない気分になってきた。

 本当に盗撮くんに負けるようにと頼まれているのだろうか。

 不安だ。いつもと違って、ま、いっかとかどう煙に巻いてやろうかと考えれないくらい不安になってきた。

 うーん、小者らしく逃げ回る術が思い付かない。どうしたんだろ?


「ルカ、今日は記念すべき日になる」


 ……キラーンって聞こえた。何かが光った音がした。若干男前を気取ってるのが凄く気になる。


「えーと、笑い的に?」

「違う。おれ達の記念日だ」


 片倉さんが助けてくれるみたいな事を言ってたけど、その前にレースから逃げそうです。近くで私達のやり取りを聞いていた深託のペアが、お腹を抱えて肩を震わせている。いっそう笑って。

 記念日って……、付き合ってないし、1位になってもキスなんかしないよ?

 お、お父さんが黙ってないもん!多分。

 ハッ、そういえば、神取、来てるのかな?キョロキョロ。保護者席を見る。うむ、巨体でよく目立つ太刀川さんの姿が見えない。…来ないのかな。冷静に考えたら泉さんの件でこないでくれた方がいいって言うのはあるけど。

 ………来ないのか。なんか、残念だ。


「おい、ルカ!」


 あれ、現実逃避してたら、盗撮くんに怒鳴られた。そ、そんなに怒らなくても。


「まったく、鈍い女だ」


 盗撮くんが怒鳴り周りがクスクス笑うので、さらに居づらくなって萎縮してしまう。

 もう、レースよ。さっさと始まってくれ!



「それでは、準備を始めてください」



 係りの女の子が声をかけてきたので盗撮くんと肩を組む。同じくらいの背なのだから、肩に手を置けばいいのに何故腰なんだ。

 いや、自分で蒔いた種だ。……このレースだけ。と念仏のように唱えてやろう。だって、セラ様にお世話になる前は純然な仏教徒だったから。


「いちについてー、ヨーイ」



 ドンッとピストルが鳴り響く。よし、


「左ー」


 掛け声をあげながら、私が左足を出すと同時に盗撮くんも左足を出した。………へっ?


「うわわっ」


 両足のバランスを崩して、最初からスッ転んでしまった。……思わず、一緒に転んだ盗撮くんの顔色を確認してしまった。うわっ、凄く不機嫌な顔してる。

 慌てて、体制を整えようと立ち上がって、括りつけた右足がピキッと痛んだが、走れないほどじゃないな。うん。

 ごめん。と盗撮くんに謝るとトロい。と舌打ちされた。

 あれー、なんだか心にグサって刺さる。


「左で、愛川くんが左を出すんだよね」

「当たり前だ」


 確認すると、当然って顔で返された。確認しなかった私が悪いのか。え、でも、…はっ、周りのレース中の子たちもわざと転んで時間を稼いでいる。

 め、迷惑かけてる!


「じゃ、じゃあ、ひだりー」


 最初の一歩目をようやく成功させて、みぎーと続ける。ゆっくりゆっくりと、掛け声をあげる。右って言って左足を出して。左って言って右足……私、試されてる。脳処理的ななにかを試されている!足もなんだか痛いけど、このペースなら行けるぜ。おっとつあん。ってひとりツッコみって空しいね。

 距離をゆっくり消費して、他のレース参加者はよくゴールしないなってペースで走っている。

 レース参加者はそれでもいいかも知れないけれど、観客達がこの茶番にイライラし始めるのは必然だ。



『「あー、天匙の生徒諸君」』



 あれー、会長の声が放送から聞こえる。しかも、何か声音が低い。



『「俺の前でよくそんなやる気のないレース展開が出来るな」』



 天匙の帝王様がお怒りのようです。大変ご不快だったらしい。確かにみんな転びすぎ。やっぱり、裏で取引してたのか。



『「ーーお前たちの顔はよく覚えておく」』



 瞬間、私と盗撮くん以外の天匙生徒が猛列な勢いでゴールに向かって走っていく。バカな手抜きしてたって認めてどうすんだ。

 しかし、私は、転ばないように慎重に右ー、左ーとしか言えない。

 私も盗撮くんも残念ながら、互いにリカバリー出来るほどの運動神経の持ち主ではないし、なんだか右足が痛いぜ!ははん。

 深託中のレース参加者たちに睨まれてはいるけど、これ以上のスピードアップは無理だ。


「掛け声がおそい!」


 イライラした様子で怒鳴りつけてくる盗撮くんに私は、反論せず掛け声を続ける。ゴールすれば終わるーと心で唱えるが、その間がどうしてこんなに長いのか。


「ひだりー、みぎー」


 と、足を合わせるのに必死な私に焦れたのは盗撮くんだった。次にひだりーと言おうとする前に無理やり足を出そうとする。うわっ、待って。と口に暇もなく、私はまたバランスを崩して倒れてしまった。


「おい!」


 やだ。レース参加者の目が怖い。そして、盗撮くんが本当にイライラした様子で睨んでいる。


「早く立て!」


 ごもっともな言葉に私は、よいしょっと立ち上がろうとしたが、最初に痛めた足がピキッとした痛みを主張し顔を歪めてしまう。右足をさらに痛めたらしい。

 なかなか立てない私に深託のレース参加者がもう時間稼ぎのしようがないと判断したらしく、さっさとゴールに向かってしまう。あ、舌打ちは止めてください。微妙に心が弱っているので。

 その様子に盗撮くんが舌打ちをし、


「紐を外せ」

「え?」

「いいから、早く外せ!」


 これは、私を心配してでしょうか?ーーー無いですねー。

 急いで紐を外そうとしたが、なんだか情けないような悔しいような気持ちでいっぱいで、手が思うように動かない。

 盗撮くんがそんな、私を冷たく一瞥し、ぽつりと呟いた。


「お前……卑怯者だな」


 は?


「そんなミエミエの時間かせぎして、そんなにおれと1位に取るのが嫌だったのかよ。レースに出れば、約束守ったことになるのか」


 二の句が告げれない。そして、一理はある。

 一位を取るのは嫌だったし、レースに出れば約束守ったじゃんって言おうとしてた。痛いとこ突くね!ははん。……お陰で、手が余計に震える。


「ほんと、最悪だな。つかえない」


 泣かんぞー。お前の為に泣くなんて、むかつきすぎて勿体無い。

 言いたい事はたくさんあるが、しかし、今は泣かん。口を開いたら泣きそうなので我慢だ。

 震える手で漸く外した紐を纏めようとすると、盗撮くんがまだ、何かいい足りないのか私を見て口を開く。


「お前、あっちに行って棄権するって言って来い。まったくー…、お前のせいで恥をかいた」


 イラッとした。本気でイラッとして、私も我慢できず反撃に出ようとした瞬間、


「秋月、立てる?」


 声をかけられ、冷静になった。


「……ひばりん」


 保険医の殿が私の異変に気づいたらしくひばりんに救急箱を持たせてこちらに走って来てくれた。あれ?ひばりんって救護班?


「………腫れてるな」


 殿が診断して、救護のテントに連れていくようひばりんに指示を出す。

 私は、ひばりんに肩を貸してもらい立ち上がると、それを冷めた目で手も貸してくれなかった盗撮くんが厭きれたように


「は、怪我までしてたのか。ほんと、いいご身分だな」


 ………私、よく我慢したな。いいご身分ってなんだ。ねっちり聞いてやろ……、


「秋月、ごめん」


 なんでか、ひばりんに謝られた。

 瞬間、私はひばりんに抱き上げられた。姫抱っこーっ!?

 安定感がない。無理してる!

 ひばりんがプルプルしてる。やっぱり、重いんだ!!と半ばパニックになりながら、ひばりんの顔が近いことにさらにパニックになる。


「お前さー」


 私を抱き上げながら、ひばりんが盗撮くんを睨み付けつけ、



「怪我してる人に大丈夫の一言も言えないわ。こうやって抱き上げてあげることすら出来ないくせに何、カッコつけてんの?ーーカッコ悪っ」



 ひばりんのあまりのストレートな言い分にポカーンと、目を丸くして、反論できずにいる盗撮くんに言いたいことを言いきったとばかりにフンッと鼻を鳴らして背を向けるひばりん。


 そのまま私を抱き上げたまま、テントに行こうとするひばりんに向かって、盗撮くんの罵詈雑言が聞こえてくる。しかし、ひばりんはそれを無視する。聞く価値なんか有るかっていう態度を貫き、私をテントまで姫抱っこのまま連れてきてパイプ椅子に座らせてくれた。


「ひばりん」

「本当はさー」


 ありがとうってお礼を言おうとしたら、ひばりんが拗ねたように愚痴り始めた。


「1位通過したペアの女子を攫って逆走して、ペアを組んだ男子に追いつかれなきゃキスの権利が移動するんだって、」


 んん?


「ちょっと、狙ってた」


 少しはにかみながら、だから、近くにいたのに秋月って、運動神経ないなって笑うひばりん。

 意味が最初わからず、ぽけーっとしているうちにひばりんは、佐々木くんにに呼ばれて行ってしまい、殿が足の手当してくれながら、


「どうした。顔色が真っ赤だぞ」

「し、しんぞうが爆発しそうで……」


 男らしい事をして、爽やかに可愛く笑って、ちょっと冗談と皮肉を言って、あの子は誰ですか。私に涙を見せてた子でしょうか。守ってあげないとって、私が考えている子でしょうか。


「そうか、子犬が騎士(ナイト)様を務めたんだな。お前の事をよく見ているからな。お前のやり方も吸収して育ってくるぞ」


 殿の言葉にドキドキ感が別な意味になった。やだ。ひばりん、私のやり方を吸収しないで。純粋なままで居て。


 片倉さんが心配そうにテントに来てくれたが、私はそのせいでさらに青くなったり、赤くなったりと忙しい顔色になってしまった。


 ただ、わかった事がある。1位、取れなくて良かった。本当に良かった。



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