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 艶やかな和風美人さんを不快げに一瞥し、私の方に歩み寄ってくる藤咲さん。やだ。心の距離の歩みよりをー…、そして、藤咲さんは私に近寄り耳元に顔を寄せて、


「ーー縄の準備はしておいたから」



 死刑宣告でしょうか。目が本気だ。



「あらー、葵くん、久しぶりね。ママに何か言うことは?」

「……」



 ーーママだと!?

 間延びした声で藤咲さんに声をかける美人さん。

 藤咲さんのママって事は、--あれか。



「藤咲さん、|母でしょうか」

「ちょっと黙ってろ」


 藤咲さんの私の扱いが粗い。

 そ、聡明って思われていたあの日々よ。カムバーック。あ、ママって…産みの親の方か!じゃあ、ココさんのお継母さん!?


「久しぶりに会ったせいか化粧が濃くなったように感じます。でも、相変わらずお綺麗に化けてますね。おばさん(・・・・)



 あれー、寒い。なんか一気に気温が下がった気がする。秋だからだろうか。私たちの様子に聞き耳を立てていたやじ馬がこの気温変化に着いて行けず、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 本能的に関わるのを拒否したということか。



「うふふ、相変わらず冗談が上手な子ね」

「ええ、存在が冗談みたいなおばさんが存在してますから。俺程度の軽口なんかで、青筋たてないでくださいね。おばさん」


 お互いに笑顔なのに視線に険が宿っている。


「その子、葵くんの新しい獲物?可愛いわね。うふふ、でも、ちょっと、護りすぎよ。あっちもこっちも制限したらただのお人形さんよ。だから、藤咲はつまらないのよ(・・・・・・・・・・)


 一瞬、藤咲さんが、グッと唇を噛んだが、すぐにそれを笑顔で抑え込む。


「ーーつまらないと言えば、おばさんも随分な冗談を彼女に対して口にしていたようですけど」

「あら、なんの事?」


 可愛らしくしなをつくる美人さんに藤咲さんは、にこやかに口を開いた。ーーこの顔で毒を吐いてるとか思われないだろうなって顔で。


「許容範囲が狭いとか、好意を持った相手を離したくないとか……まあ、他にも何かを言っていたようだが、普通の人間だったら誰にでもある所だ。大袈裟ぶって揺さぶらないでくださいよ」

「あらー、そうねえ。普通の人間にはある所ねえ。じゃあ、葵くんは普通じゃないから、無いのかしら?」


 お互いに胡散臭い笑顔を張り付けてはいるけど、ここは氷点下でしょうかってくらいに私は、鳥肌がたっている。

 藤咲さんは、すうっと目を細め、


「ええ、ありませんよ」


 やんわりと……でも、きっぱり、言い切ったよ!?

 きょ、許容範囲めっちゃ、狭いじゃんかーっ。ぶー。

 私のこと、よく制限するじゃんか。しかも怒るし。


「秋月、行こう。おばさんと話してると日が暮れる」


 まだ、午前の段階なのにひどい。私が、黙って従おうとしたら、そうそうって。美人さんに釘を刺した。


「彼女は『泣き虫』と契約している」


 藤咲さんの言葉に美人さんが目を見開き、あらあらと私を品定めするようにジロジロと見つめた。……なんだか、面差しが藤咲さんに似ている?


「あらー、あの子に?……よく苛々しないものね。」


 アディーって、どんな存在なのか、前に藤咲さんが物凄く教えてくれたから。|仲間≪同族≫にすらこの扱いって。


「最近、頑張ってますよ?」


 美人さん。何故そこで、ぷっと笑うのでしょうか。藤咲さんが私の腕を引き、行くよって。


「ふふ、心美ちゃんの事で話があるんでしょ。またね。ルーちゃん。あと、万葉って呼んでね」


 手を振ってばいばいって。藤咲さんが舌打ちした。なんたる事でしょう。美人さんはたぬ………狐だった。きっと、妖狐だ。化かされた!

 私のことしってやがった。




 黙って藤咲さんと自陣に戻る間にパトカーのサイレンの音が聞こえた。


「あ、…………れ?」


 突然、立ち止まり、首を傾げる私に藤咲さんは怪訝な顔をし、問いかけてきた。


「どうしたの」

「今、パトカーが…」


 サイレンが聞こえたのに足もすくまないし、硬直もしない。ーー治った?

 え、こんな、あっさり?

 私の心情なんて知りもしない藤咲さんはため息を吐いた。


「具合が悪いんだ。ちょろちょろしないでくれないか」


 迎えに行くのも大変だと、愚痴るのでムッとなる。


「来てくださいなんて言ってません」

「当たり前だろ。勝手に行ってるんだから」


 な、なるほどー…。じゃなくて、じゃあ愚痴られる理由ないよ!


「じゃあ、私だって好きにしてていいじゃないですか」

「………どうしたの。今日は変に口答えするね」

「?いつも、こんな感じですよ」

「いや…、」


 思案するように私を観る藤咲さん。



「……『命じ方』を間違ったのか?…そうすると…『彼女』はどこに?」


 ん?藤咲さんがなんだか聞き捨てならない事を言っている。


「藤咲さん」

「具合悪いから。後でね」


 私の勢いをさらっと流した。やだ。マイペース!

 自陣に戻ったら藤咲さんは、ころっと寝てしまった。リンが無言で藤咲さんに上着を掛けて、私にニッコリ縄をちらつかせてる。怖い。

 片倉さんからカフェオレを貰った。どうやら、あの時、たまたま通りかかったのではなく私にこれを渡そうと探していたらしい。

 片倉さんの優しさは嬉しかったが、


「桜田が激辛パンを食べた人に支給してたから」


 わー、素直に感謝できない。


 そして、お姉ちゃんとリンが化け物だった件について。

 お互いに中距離を一位で終了し、ついでに男子の長距離もリンは一位で帰ってきた。

 片倉さんも二位で戻ってきていたらしい。光原さんとは対決しないグループだったから、光原さんも1位を取っていったようだ。なに、この高スペックな人たち。私だけ運動能力低くないか?

 藤咲さんは、今のところ、競技を棄権しているので除いて、ココさんもひばりんも会長も参加した競技は常に2位以内だ。

 天久兄は、完璧に手抜きしているのが分かるがあれでも支持率が高いから深託の会長なんだって。得点圏内必ず入っているってセラ様が教えてくれた。

 うん、男女ともに応援されてるから人気者なんだね。解せぬ。


 セラ様は、あとはリレーのみらしく、天匙の陣に居ついているがココさんが何度か迎えにきてしぶしぶ戻っていく。

 天久兄が苦手らしい。アディーは長距離以降、本当に2位狙いで頑張っている。あ、マナルン、障害物、最下位だったんだ。良かった仲間!


「僕はあとは、午前は短距離だけです。残りは棒倒しとリレーだけです」


 やだ、私がクラスメイトに嫌がらせとして参加させられそうになっていたものにさらに足して参加してやがるよ。この男。


「んー、私も、短距離と午後からリレーかな?」


 ……お姉ちゃんって、もしかして、スポーツ出来ない人間にとって苦行的なお方なのでしょうか。さらっと、運動系(ミユミユ)を抑えている。

 私だって借り物競争に出てきたが、指示は『好きな人』だったのでお姉ちゃんを引き連れて1位通過したのに失格になった。異性じゃないとダメとか解せぬ。

 保護者席に居たお父さんを誘えば良かったのかな?は、担当競技、最下位と失格って……。か、考えないようにしよう。



 そして、問題の二人三脚の時間になった。うん、この子、どうしたのって私は、頭を抱えたい。


「ルカ。迎えに来たぞ」


 薔薇の花束を持って、私に二人三脚を申し込む盗撮くん。どうして、若干男前な顔をしているんだろ。ヒューっと口笛を吹くやじ馬たち。



 一瞬、キョトンってした私を許してほしい。


 薔薇の花束を貰うのを戸惑っていると、横からリンが無言で花束を取り上げ、マナルンが盗撮くんの前に出た。少し怒ってますよと主張している。


「みーくん、るかちゃんに無理強いしちゃだめ」


 マナルンの言葉にチッ、って舌打ちして約束は約束だと主張されたので、まあ確かにと盗撮くんのあとをついて行き、寝ている筈の藤咲さんの横を通り過ぎようとしたら腕を引っ張られこけそうになったが藤咲さんが抱き留めてくれた。

 ち、近い。

 慌てて身を引き離そうとしたら、耳元で、盗撮くんに聞こえないようにか小声で、


「1位通過してもキスしなくていい救済処置について知ってる?」

「え、片倉さんが」

「…ああ、任せる」


 頷いて、任せるって。何を?


 説明を求めようとしたら、盗撮くんに乱暴に腕を引っ張られた。話は終わったとばかりにまた、寝てしまった藤咲さんに片倉さんが話しかけているのが見える。

 みんなー、説明義務って言葉知ってるかい?

 私の不安を取り除くなら一番はそれだと思うんだい。脳内会議もどうおも……まだ、返答がない。あれー、どうしたんだ?


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