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 ーーパン食い競争は熾烈を極めた。


 終了したけど。いま、他の競技中。



 

「……どうやったら、あんなにタイミング、悪くジャンプが出来るんだ」


 黄色いハチマキを巻いた天久兄に捕まり、先程の競技について協議された。……はい、高度なギャグですよー。ツッコンでいいんですよ。え、無理?ふ、……泣かんからな!

 袋いりのパンはゴムによって吊るされ、ピョンピョン跳ねていた。しかし、伸縮性があるものではなく、皆、簡単に口で取っていったと言うのに……、30秒過ぎても口で取れなかったら手で取れとルールなので、手でパンを取りそれから完食しないとゴール出来ないと口に含んだそのパンは、何故か激辛カレー味だった。ーー悪意を感じる。

 あとから走ったセラ様も激辛カレーを引き当てたらしく、今、甘ったるいジュースを大量に消費している最中だ。誰だ。こんなの用意したのは!備品担当?ーー桜田………よし、関わんないぞー!

 と、いうことで私も激辛を流し込むためにジュースを買おうとしたら、横からミックスジュースをくれた天久兄は、じろじろと鈍いなーと私に呆れている。

 鈍いなーって、


「人を襲っておいて、平気で話しかけてくる天久兄も神経が鈍いと思います!」

「そこは図太いだ。よくよく考えたら、チビなんかで楽しめるわけなかったな。悪かったよ。犯罪者にしないでくれて、ありがとな。鼻水」



 ーーぶん殴りたい。



 ぶくーっとフグよろしくは頬を膨らませたら、突っつこうとしやがった。急いで避けたら後ろに転びそうになった瞬間、きゃって。マナルンにぶつかって一緒に転んでしまった。急いで身を起こして、マナルンの怪我をチェックする。ーー良かった。怪我はない。


「マナルン。ごめん」

「んーん、るかちゃん、大丈夫?」


 それにしても、なんだか焦っているみたいだ。


「みーくん、見なかった?」

「美草?また、アイツ何かやったのか。真奈美」


 厭きれ顔の天久兄にマナルンは不服げに、


「またなんてやってないわ!遵くんひどい」


 マナルンが、あだ名呼びしないだと!?

 いや、驚くとこじゃなかった。


「と……愛川くんが、どうかしたの?」


 無難な質問をしてみる。だって聞かなきゃ何にも言えないから。


「深託中の子とどっか行っちゃったみたいなの。あの子、これから玉入れも参加しているのに姿がみえなくて…」

「あー…」


 天久兄が、気まずそうに頬を掻いている。


「美草、たぶん、二人三脚で1位にしてくれって交渉してる最中だと思うんだけど」

「なんで!?」


 マナルンが、びっくりし声をあげた。


「あの子、どうせ、相手いないのに?わたしが走ってあげる約束だよ」


 マナルンが酷いのか。盗撮くんが普段の行いか。……そして、私が蒔いた種か。


「なんか、一位を取って公認の仲になんだと」


 なにその話。


「こ、公認って、みーくん、彼女いないよ?」

「美草の話を全部信じるとしたら、あっちがベタぼれで、どうしても、自分と二人三脚したいっておねだりするんだとさ。で、一位取ってキスもしたいって……物好きがいたもんだ」


 私から血の気が引くのは仕方ないと思う。

 盗撮くん、君の中でどこまで話が進んでいるんだ。は、これが因果応報ってものか。毎日、お姉ちゃんとリンで悶え続けた私に対する罰かなのか!

 他人の妄想に巻き込まれるのがどれだけ迷惑か思い知れとー…っ。や、やめ……られない!!


「みーくん、彼女出来たのかな?」


 知らなかったーとマナルンがぽつり、と呟く。いや、違うよ。私、約束したけど、もし、私なら付き合ってない。


「そうじゃねえの。ここまでやって、違うなら、よっぽどひどい女に騙されたんじゃねえか?」

「そ、そうなのかな…、みーくん…大丈夫かな」


 二人の話がどんどん大きくなっていく。あれ、誤解だって言わなきゃいけないのにどうしてか、心臓がバクバクして、声が出づらい。


「まあ、女の方にその気はないのかもな。ほら、無自覚に男をたぶらかさなきゃ生きてけねえ奴だっているんだし」


 天久兄の言葉に私は、覚えがないのに言われたくない言葉を言われたような気がして喉がかすれる気まずさを思い出す。


「みーくんの事、好きじゃないのにその気にさせたの?ーーひどい。ゆるせられない」

 

 マンルンの言葉に頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。違うと否定しても空しいことだという訴える声と嫌われたくないと主張する声に従ってしまう。

 マナルンの軽蔑の言葉に俯いて、黙って逃げるようにその場を後にする。


 あれ、なんだか間違ってる。その場を後にせず、きちんと説明すべきなのにどうしてか、逃げる方を選択してしまった。図々しく、言わなきゃ、例の件で証拠写真を貰ったお礼として取引したことだって。

 呆れられるだろうけど、嫌われても、自分が伝えたいことはきちんと言わないと、また同じことを、……、あれ、何を考えていたっけ?



 保護者の席の方から自陣に戻ろうと歩くと、ドンッと誰かにぶつかってしまった。着物姿の艶やか美人に一瞬惚けてしまったが慌てて、謝る。


「すみませっ」

「あら…、葵くんの気配がするわ」

「ふえ?」


 葵……って誰だっけ。とかとぼけられない。ーー何故、藤咲さんの名がいまここで。


「あらあら、随分、制限(・・)がかかってるわね。必死に誰から護ろうとしてるのかしら?」


 ペタペタ、頬を触る美人さん。な、何歳ですか。二十代でしょうか?年齢不祥すぎる…っ。

 藤咲さんの……恋人とか!?


「うーん、でも、貴女、人格が絶妙に変なバランスで保たれてるのにね……制限の仕方は貴女じゃなければ正しいんだけど。悪魔(わたし)から護れても、人間同士の微妙な悪意と些細な軋轢に対応出来なくなるみたいね。うーん、面白いわー」


 ペタペタあっちこっち触られている。び、美人に触られているこの状況をセクハラかどうか応えよ。脳内会議!

 ………あ、あれ?どうしたんだ。会議、応答せよ!!まさか、拗ねているのか。前にしばらく頼らんって言ったせいか。おーい。


「るかちゃん!」


 あ、マナルンがこちらに走り寄ってくる。あれ、片倉さんも一緒だ。


「ご、ごめんね。みーくんが二人三脚の相手を申し込んだのが、るかちゃんだって、知らなくて、酷いこといっちゃって。みーくんがるかちゃんにしてた事、考えたら、……って」

「あ、……片倉さんが?」

「たまたま通りかかって…、オレが安易な提案をしたから」


 申し訳なさそうに二人に謝られる。違う。笑い話に出来たはずだ。どうして、あの場で逃げたりしたんだろ。二人が盗撮くんを探しに行くからと去っていく姿を見つめ、わざわざ私を優先してくれたことにじくじくと胸が痛む。

 この美人さんが『制限』って言ってた。ーーじゃあ、藤咲さんのせい(・・・・・・・)で、私がはっきり行動が出来なかったってこと?

 あんなに顔色を悪くさせながら、嫌がらせしてーーそんなに私が嫌いなのか。

 私、バカだから、もっと、わかりやすく言えばいいじゃんか。

 それとも、セラ様と契約したからかな。『位上げ』したいからかな。天使や悪魔と契約した私を『堕落』させたり『破滅』させたら、『この土地』から出ていきたいって願いが叶うのかな。そっか、自分が関わってなきゃいけないからそれ以外のことだと助けに来てくれたり、


 私が自分の考えに結論をつけようとした瞬間、美人さんが涼やかにコロコロ笑った。


「あら、一人(・・)じゃ、つまらない子なのね。嫌われたくない気持ちばっかり、嫌われたって判断したら、言い訳ばかり。不幸が好きなのかしら。好きなひとに媚びたいのね。好意を持ってくれる人を離したくないのね。自分の許容範囲が狭い子。勝手に自滅しちゃうタイプ。つまらない子。貴方の考えばかりが正しいわけじゃ」



「おばさん」


 美人さんの一言一言が大変胸に突き刺さり、私が頑張って、知らない人の前で泣かないように堪えていたのに。

 絶対零度のもと暴君は、私と美人さんの前に現れた。

 おばさんって、生前プラスαな私のことかな。

 笑顔なのに口元が引くついている美人さんのことじゃないよね。

 

 私と美人さんを見る藤咲さんの目はどこまでも冷たかった。


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