開始前
体育祭は天匙中学校の方で行われる。
深託中学校の方はどちらかというと、勉学に力を入れてるので運動場が天匙よりは規模が小さいという事らしい。あと、生徒数も天匙より三百人くらい少ないからだって、今さら疑問になって、お姉ちゃんに訊いたら、そう教えてくれた。
「だから、天匙より深託の生徒のほうが担当競技が多いはずよ」
「へーっ」
「僕的に今さら、それを聞くルカが不思議です」
バスで次々にくる深託の生徒をみたら疑問になったんだもん。
「でも、生徒だけで1600くらい?保護者が来たらカオスだよ?」
「人数制限はしたみたいですけど…、どこまで守られるかですよね。」
「今年は合同だから体育祭に来ないでくださいって言えなかったの。1年生の保護者のみって一応お願いだけはしたけど」
天匙は毎年、保護者を歓迎していたらからと。お姉ちゃん。
あれー、ココさんたちの話だと去年から話があったんでしょ。リンに視線を向けたら、はーぁって呆れている。やっぱり、どっかで無理があったのかな?
深託中の生徒が全員バスから降り集まると会長同士で挨拶している。……うわっ、双子で義務的に挨拶してる。もっと、フレンドリーにウィットに飛んだギャグを!会長様!!
心で応援したのに一瞬、会長の人を射殺す勢いの視線が私に向けられたような。き、気のせいだよね?
「にゃんこは、ペンキが間に合わなかったようだよ」
開会式まで実行委員のお姉ちゃんや色々雑用を押し付けられているリンとは違い、雑用を押し付けられもせず暇を体現できたのでうろうろとしている途中でオブジェ班の先輩に会って、マッシロにゃんこは修復が間に合わなかった旨を伝えられ、だから抱きつかないでくれ。と頼まれた。
……うん、あの後次々に被害者が続出したらしいマッシロにゃんこは、ペンキ塗り立てのままおにぎりとともに天匙の陣地に置かれている。
すごい光景だ。
深託中は、龍の絵をデカデカと飾り付け、何故か虎のキグルミを着ている人がいる。いや、意味はわかるけど。龍虎ってやつでしょ。でも、なんで、キグルミ?そして、着てるのって光原さんだよね。何、私に気づいて手を振ってるの?
セラ様が紺のジャージと短パンでこちらに走ってきた。大変美味しい光景です。しかし、私に向かってではなく、光原さんに鬼の形相で駆け寄り、
「光原!まだ着なくていいと言っただろうが!!開会式をどうするつもりだ」
「え?このままで良いって遵が」
「あの、たわけ者の話を間に受けるなっ!」
来いッ!とキグルミの首根っこを掴んでどっかに行ってしまった。……く、苦労している。
そういえば、ココさんはどこだろう?と、辺りを見回すと……あ、マッシロにゃんこの回りをうろうろしている。やばい。
「ココさん!それ触っちゃ」
ダメって言葉が言い終わる前に抱きついてしまった。………あーぁっ。べったりとペンキがくっついて半泣きになってる。
「い、嫌がらせ!?天匙中って性格が悪いのね!!」
「いえ、もう、あれは制作者が性格が悪いんだと思います」
ペンキ塗り立ての紙は確かに有ったが、横に例の『抱き締めてにゃ~』看板があった。悪意の塊だろう。シャワーが付いてる運動部の部室まで連れていき、ペンキを落とす手伝いをする。わー、ピンクの髪にべったり。
「もう怒ったわ。天匙なんかぐうの音も出ないほど、負かしてやるんだから!」
マッシロにゃんこは変な所で恨みを買ったらしい。いや、知らんから。
応急処置として私のピンクなジャージを羽織って貰い、ジャージは新しいのを持ってくるように家の人に頼んだらしいココさんをキグルミを脱がされたらしい光原さんともう疲れきっているセラ様に頼み、校庭に戻ると、歌う牧師がにこにこしながら現れた。やだ。怖い。
「お久しぶりですね」
「あ、はい」
私の事覚えてる!やばい。片倉さんの妹って嘘がばれるな。
「悪魔とも天使とも仲良くやれているみたいで、とても良いことですよ」
わー、頭が心配されるじゃないですか。こんな人目の多い場所で止めてください。
「今回は『選定』のやり直しの場ですから、頑張ってくださいね。是非、『神光』に貴女は来るべきなのですから」
わお。にこにこと重要情報だ。ハッ、この人なら、わかるかも。
「悪魔って、どうやって生まれるんですか?」
私の疑問に片眉をあげるという器用な真似をする牧師。
「……それは、宗教的なお話でしょうか。それとも『この土地』絡み?」
「はい。…あの、『欠落者』と関係ありますか?」
笑みの種類を変えた牧師に私は答えを期待する。にこにこしながら、品定めでもされている気分の笑みだ。
「ふむ……、ここでする話ではありませんね。一度、『教会』においでなさい」
げっ、マジか。あの『教会』って、牧師のリサイタルの場所だからあまり近づきたくないな。しかし、情報は欲しい。
私は、わかりました。と頷くと満足そうに頷き返された瞬間、秋月さんって声をかけられた。
あ、片倉さんだ。
牧師に気づいた片倉さんは私を守るように牧師の前に出る。確かにあの会ったとき、強烈な変人イメージを与えたけど。
「おや?お兄さん。……随分、夢に侵食されているようで」
スーッと目を細め、片倉さんを見つめる牧師に片倉さんが震えた気がする。
あ、牧師がノッてきた。
「最初は、幻のようなもの。しかし、最近、妙にリアルになってきた……ああ、助けて貰ったのですね。しかし、それは君ではありませんよ。破滅を招く同調はいけません。さあ、しっかり、彼女を認識しましょう。間違うと君だけではなく、彼女が傷付きます」
朗々と歌うように語りだす牧師。
やだ。牧師。絶好調!
「……」
片倉さんは、反論もせず、ただ暗い目を牧師に向けている。なんだか、手が震えて拳のようなものをー…、あ、駄目だ。
「片倉さん、いきましょう!」
拳を握った方の腕をがっしりと掴む。片倉さんが、ハッとした様子で私を見下ろした。
「……秋月さん」
握った拳をゆっくりと解く片倉さん。なんだろ。……片倉さんが不安定だ。
「ご兄妹ではなかったのですね。ふむ、ーー呪われろ」
牧師が、にこにこしながら、暴言吐きやがった。ぶれない。この人もブレない!
『「生徒は運動場に集まってください」』
ちょうど良いタイミングで放送が聞こえた。私は、片倉さんの腕を引いて、運動場の方に歩く。
「待ってますよー。『教会』で」
手を振って見送る牧師に頷いたら、片倉さんが凄く心配そうに私を見つめている。
「あんな危険人物のとこに行くべきじゃない」
なにか有ったらとか、たくさん行くべきじゃない理由をあげていく片倉さん。あ、やばい。ニヤニヤしてしまう。
「秋月さん…」
案の定睨まれた。いやだって。
「なんだか、本格的に『お兄ちゃん』みたいで」
すんなりと『お兄ちゃん』って、単語が出てきた。自分でも驚くくらいに。悲鳴のような声も聞こえずに。
片倉さんが目を見開き、そして、表情が定まらず、心底困ったような泣きそうな顔をした。ど、どうしたの。あ、も、もしかして、ほんのり私が片倉さんに好意的なのばれてる?妹の立場を確立して愛でて貰おうと企んだこともばれてる!?せ、生前プラスαの分際でとか、ずうずうしいこと企んで、ごめんなさい!!
「うん、……自分で望んだことだ、けど」
あ、思考がばれてたわけじゃなかった。何か言いたげに私と繋いでいる手を見つめる片倉さんに声をかけようとした瞬間、
「片倉、秋月。早く行かないと桜田に叱られるよ」
藤咲さんがいつの間にか前にいて、呆れた顔をしている。慌てて、私から手を離す片倉さん。何気にショックなんだよ。
「秋月」
「ひゃう」
「変な返事をするな。……その様子なら、成功してる、のか?」
首を傾げて、私の様子を確認する藤咲さんは、やっぱり顔色が悪い。片倉さんもそれに気づいたみたいで。
「アオ、保健室に行こうか?」
「いい。体育祭なんか、リンと片倉に任せるから。」
わー、暴君。
「片倉、秋月のことよく見張っておいて。特に変なおばさんに近寄るような真似はさせるなよ」
あ、ばれてる。私が見学ついでに話しかけてみようかなとか、何とかなるかもって、ツッコもうとしているのばれてる。
「いま、変な人と話していたところを見たところだよ」
ふう…って、片倉さん!?チクった。片倉さんが私のこと、チクった。藤咲さんが、私をゴミを見る目で見下している。
「リンに許可を貰って競技時間外は縄で縛ろうか」
「ああ、いい案かも」
やだ。冗談だよね。片倉さんまで、同意しないで。
「少し、大人しくしてろ」
「体育祭は静かに過ごそうね。お兄さんが構っててあげるから」
どうして、注意の仕方が幼稚園児に対するものなんだ。
決めた。絶対、ココさんのお母さんを見学してやるからな!!
あ、藤咲さんが本気で殺意を込めた目で私を睨みつけている。やめて、怖い。
そして、リンに本当に縛る許可を貰うのもやめて。他校生の前だからって。他校生いなければ許可したの。リン、笑顔で当たり前って言わないでください。




