準備の裏で 1
秋月ルカは、只今、体育祭準備で走り回されています。
「女王(笑)。次は、ハチマキの漂白してくんない?なんか、去年、ちゃんと洗ってなかったから茶色くなったみたいだからさー。あとほつれたとこ縫っておいて。出来るもんなら」
「困った女王。看板製作の方に赤いペンキ持ってって欲しいんだけど」
「女王様、とりあえずヒールを履いて踏んでください」
ーーなんか違うの混じってる!?
いや、違う。全部間違ってる!!私、秋月ルカだもん。
へ、変なあだ名はやめてください。(笑)とか困ったとか。完璧にネタにされている。ヒールで人を踏んだりしないもん。じょ、冗談だよね。そして、若干毒が混じっている気がする。
「私、便利屋じゃないですよーっ」
「「「だって、暇そうだし」」」
どこがだ。
学校中を走り回されている。女王って、あだ名が例の件以降、学校中に浸透したせいで、私に声をかけやすくなったのかどんどん、雑用を押し付けられる。右へー左へー、西へー東へ。走り回されている!
オブジェ造りに入った筈なのに先輩の一人がやる気に溢れていたせいで、すっかり暇になってしまったのは確かだ。下手に手を出すと怒られるんだもん。
お姉ちゃんと同じ看板造りになりたかった。最近、朝と家でしか会えてない気がする。足りない。お姉ちゃんが足りない!!
女王が浸透した件について。
お姉ちゃんがどうして相談しなかったのとお怒りになったが、クラスメイトだから、これからも仲よくしたかったのと殿が用意してくれた魔法の言葉で乗り切った。……お父さんとお母さんには通じなかったが……学校に文句は言わないでくれた。これは、リンのおかげだ。むしろ、私の方が悪役みたいだったとまで言いやがった。
うん、アディーにまで「すごい。おれ、より悪魔だった」って評価が。え、優しく纏めた気がしたのに。
例の件以降は、日比谷さんはすっかり大人しく……なってない。
別な意味で私に絡んでくるようになった。な、なんでも勝負を挑まれても基本スペックが残念な私にどうしろと…。
泉さんはー…普通に学校に来てはいるが、……違和感を感じる。誰も彼女に話しかけない。
無視ではなく、前より存在感が薄くなったような。『私のアキアキ』の真意が知りたいのに。片倉さんは何度か泉さんに話しかけていたが、うーん。
リンの言葉の意味が気になって、セラ様に訊いたけれど、セラ様は「神の祝福を授かれない人間がいる訳がない」と一刀両断された。
アディーも同じ意見だったが、「あれ、勝手に『堕ちた』、悪魔、かんけいない…でも、変。魂、にぎられてない」らしい。
じゃあ、『この土地』柄みだろうか。……藤咲さん、本当に探しているのに見つからない。リンには怒られそうで訊きづらい。なにか私がしている草の根活動がお気に召さないらしい。
クラス全体で嫌な雰囲気が残るかなーって考えてはいたけれど、あんまりそういう事もなかった。
私がもともとボッチだったせいかなー。まあ、壁は多少出来た気がするけど。
体育祭っておっきなイベントが差し迫っているから皆協力しないとねーって一応さらっと釘は刺したし。大丈夫だといいな。
現状忙しすぎて、他に構っていられない。
担当じゃないことで。
頼まれた事を全て終えると美術室の前にたまたま通りかかる。
あ、そういえば、ここにお姉ちゃんの絵が飾ってあるんだ。そう考えたら、なんだか見たくなってきた。……教室に鍵が掛かっていたら諦めよう。と、戸口に手をかける。あ、開いてる。
ガラッと引き戸を開けると、……スーツ姿のお父さんくらいの年代のいかにも出来る風の男性がお姉ちゃんの絵の前に居た。
……ハッ、まさかスカウト!?お姉ちゃんをスカウトしに!!
君の絵が気に入った。我が校にきたまえとかーー。『神光』以外なら是非!!
「いや、すまない。私は、神光の理事だ」
「げーっ、じゃあ。帰れ……ん?」
つい、うっかり本音を漏らしながら、あれ?私、スカウトの話を口に出したか、首を傾げる。
「君は、この学校の生徒だね。体育祭の準備をサボってはいけないよ」
おおっ、教職らしい注意だ。不審人物として、先生に通報しなくて済んだ。
「……ふむ。話は訊いては居たが」
お姉ちゃんの絵と私を交互に眺める男性を一応、注意深く眺める。……スーツはブランド……じゃなく、オーダーメイドかな?裾があんなにぴったり腕の長さに合っている。腕時計はしていない。髪はオールバックか。目は穏やかに見えて…、
「私がそんなに不審者に見えるのかな?」
苦笑された。危ない。確かに神光ってだけで、敵視しすぎた。
「お姉ちゃんの絵に興味があるみたいなので」
「素晴らしいよ。よく『今日』まで無事であるものだと思うよ」
なんだろ。聞きたい感想とずれた気がする。
私が首を傾げると、男性は私を凝視し、
「ふむ…誰かに制限されてるね」
ツカツカと私に近寄ってくる男性に逃げてはいけないような気がして、彼が近寄ってくるのを眺めていたら、突然、後ろの扉がガラッと開き私を後ろから抱き寄せる存在があった。彼は、その存在に目を細め、
「ーーおや、天久の『鶴』君…」
「お久しぶりです」
『鶴』?ーーあ、やっぱり会長じゃなく天久兄だったのか。この忙しい時期に我が校の本当の会長ったら何やってんだ。
会長の格好をした天久兄は私を抱き上げて後ろにぽいっと放り投げて、シッシッて追い払う真似をした。むっ、失礼な。
「待ちなさい。彼女はどうも『欠落者』の話を訊きたがっているようだ。ぜひ、『鶴』君の口から教えてあげなさい」
『欠落者』?
私が、首を傾げながら好奇心いっぱいに天久兄をみあげると、眼鏡を外し、髪をかきあげ、ふぅーって。
「久しぶりだな。チビ」
……………ん?
「図書館以来か。俺は天久遵って言って、この学校の会長である天久俊平の双子の兄だ。……それでだな」
彼は何を言ってるんだろ?
なんで、今さら自己紹介?……はっ!私もしてなかったな。一応、名無しの…っては言っているが、光原さんにしたものか。うんうん、自己紹介は大事だねー。
「秋月ルカって言います」
ペコーって頭を下げたら知ってるって。
「今、困った女王で有名なチビだって、知ってる」
大仰に頷いて大変不本意なことをぐさぐさと。
「『鶴』って言うのは……俺に取って不本意なあだ名っていうか、事情も知らない奴に呼ばれたくない。間違っても俊平には言うなよ。って言うか、ーー区別がつかないなら絶対言うな」
怒気を込めて睨みつけてくる天久兄。
あれ?見分けつくなら呼んでいいのかな。
あー、何から話そうかなって、面倒くさそうに呟きながら、飴玉を出し……。あれ、どうして、棒付きじゃないの?
飴の種類統一しなかったのかな?
私が不思議そうに天久兄を眺めていたら、男性がクスクス笑い始めた。
「何か聞きたいことがあるようだね」
男性に促されるまま思っていることを口にしてしまう。
「はい。飴玉の種類を統一するように会長に進言した筈なのに聞いてませんか?」
だって、見分けられたくないんでしょ?と…。ついうっかり。
ーーその瞬間、空気が変わったような気がする。
「気が変わった。チビ、その話をゆっくり聞かせろ」
冷厳あらかた、絶対逆らってはいけない種類の笑みを浮かべる天久兄に私、思わず必死に頭をたてにこくこくと頷く。
脳内会議ーっ緊急事態な気がするけど。誰に助けを求めればいいんだ!?
リンだと!?絶対怒られるから無理。
じゃあ、諦めろって。ひどい。脳内会議の発想能力の低さと私の危機管理の低さが低くて泣けるレベルな気がする。
そして、どっちも自分だったからさらに泣けるぞ。




