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神取が雑貨屋に入ってきた。に、似合わない。
ファンシーな店に組頭風な男。ぷぷっ。とその姿に気分が浮上した。
私の頭を撫でていた片倉さんが警戒心をむき出しにした。
「ああ、君。友人の娘を助けてくれてありがとう」
神取の穏やかな対応に面を食らった片倉さんが、失礼しましたと頭を下げた。
「で、ルカ、何が欲しいんだい?」
「あの人は?」
あの暖色系の色合いなのに暖かみのない眼をした片倉さんのお兄さん。まだ居るなら、どうしよう。
「ははっ、なんの罪もない一般人をいつまでも拘束できるわけないだろ」
いけしゃあしゃあと、言い放ったよ。神取、真っ黒なのに。
「オレの兄がすみません…少し、職業病みたいな所があって」
それは暗に神取が怪しいと言ってるようなものでは?
一通り、自己紹介を終えてから。
私が、ヌイグルミの置いてあるコーナーに行くと、片倉さんが、ああっと頷いた。
「一緒に寝るの?」
「むっ」
からかいの混じった声にむっとする。そういえば、そんな話をした事があった気がする。
しかし、そこまで子供の訳があるか。生前プラスαだぜ。
「何個でも構わないよ。」
私は藤咲(仮)に手を出し、これっと持ち上げて見せたら、二人とも怪訝な顔をして、藤咲(仮)を見つめた。
「……なんだか、ひとを見下した感じのするぬいぐるみだね」
「これ、可愛いの?」
片倉さんと私の間に果てしなく趣味の違いという壁があるような気がしてならない。
い、いや殴る専用だから多少イメージが藤咲さんにかぶっていても仕方ないんじゃ。
「こっちの天使の羽が生えた女の子の方が、ちみっこー…じゃなくて、秋月さんらしいよ」
片倉さんが、私に薦めるのは黒髪のくりくりしたおめめの少女が白い羽を生やしたぬいぐるみだ。………確かに可愛い。
ほう…って、神取がなにか心得たように頷く。なんだろ。
正直、どっちも欲しい。
うーむ。
金髪の悪魔の尻尾を生やした藤咲(仮)か。
天使の羽を生やした少女か。
いや、まて。生前プラスαを背負っているのにこんなにヌイグルミを持っていて許されるんだろうか。
「どちらもー…」
買ってあげるよ。と言い掛けた神取に片倉さんが、あの、と声をかけた。
「おじさんは悪魔を買ってください。オレは天使の方をプレゼントするから」
神取から片倉さんが天使の女の子を拉致した。え、ヌイグルミってって意外と高い…、
私が慌てて断ろうとしたら、神取に止められた。
「男の見栄に付き合ってあげなさい」
生前だって、そんな経験ありませんが!?
でも、断って片倉さんに恥をかかせるのかとか聞かれたら買ってくださいと土下座しよう。
結局、両方買ってもらうことになった。
……でも、おかしい。店員さんが天使の方を片倉さんが買おうとしたらにこにこしながら、「いつもありがとうございます。こちらは今日は半額になります。今後も親しくなさってください」って、……日本語がおかしかったよ?
片倉さんも面食らっていた。ここに来たのは初めてらしい。解せん。
片倉さんたちと、雑貨屋から出た瞬間、突然、パシャリッとシャッター音が聴こえた。
え?
音がした方向を見たら、電柱の陰からカメラを持った小太りな少年が…マナルンの弟の盗撮くんじゃないか。
「チッ、しまった。改造が」
「太刀川」
短く、太刀川さんに指示を出す神取。走り寄る太刀川さんに慌てて逃げようとして転んで……あっさり捕まったね。盗撮くん。
「ぐぞ~~っ」
「……愛川、何してんの?」
片倉さんが太刀川さんに腕を抑えられ、バタバタしている天匙の制服を着たオカッパの少年に近寄りながら呆れ返った声を出している。
「五月蝿い!はやく、コイツをどうにかしろ!!アホ片倉!!」
すごい。腕を捻られながら何もしてない、むしろ心配した片倉さんに暴言を吐いている。
「写真を没収していいなら良いよ」
はい、カメラって。慣れた様子で手を差し出す片倉さん。
「はあ?!なんで、お前なんかに!!」
「いや、だって。秋月さんの写真だろ。黙認は出来ないよ」
「アイツは姉ちゃんの友達なんだから良いんだよ!おれのものだ!!」
ーーえ?何、その理屈。
ぎゃあぎゃあ好き勝手に喚く盗撮くんに私、唖然とした。
「ーー凄い事を平気でいう子だね」
「……話したこともないよ?ぶつかられた……あっ!!」
私が突然、叫んだら、みんなの視線が集中した。
いやいや、それよりもだ。藤咲さんや会長、神取に頼らずに証拠を得る方法が有った!
「あ、こら」
「盗撮くん!」
神取の制止を振り切り、私は太刀川さんが抑えている盗撮くんに駆け寄り、手を握り、振り回す。
「なっ」
「あ」
「写真見せて!」
そうだよ。この子が居たよ。特技・趣味:盗撮。の盗撮くんが!
「君の家にある私に関する写真とか天匙中に関する女子生徒の写真とか!」
手に力が入るとはこの事か。盗撮くんの手をぎゅーっと握り、逃がさん!!とばかりにしていたら、そっと片倉さんに握っていた手の指を丁寧に解された。
「愛川に失礼だよ」
ーーはっ、確かに。
知り合いでもない女にいきなり手を振り回されたら気持ちが悪いか。私が申し訳ないと盗撮くんを見たら、何故か赤くゆで上がり、汗をかいていた。そんなに嫌だったのか?
「盗撮くんじゃなく、愛川美草って言って」
「お、おれの写真をお前に見せて、なんの得があるんよ。ま、まあ、どうしてもっていうなら、おれの女にしてやっても」
片倉さんの盗撮くん紹介を盗撮くんが遮ったので私も遮ってみる。
「あ、ごめん。私、そういうセリフ言う奴、嫌い」
えへーっと、お断りしたら、何故かショックを受けた顔をされた。え、だって、片倉さんが顔を覆って哀れ…って。
「お、お前なんかにー…っ」
「あー、愛川。落ち着け。そういえば、二人三脚の相手見つかったのか?」
なんで、今、二人三脚?片倉さんが、ポンポンと盗撮くんの肩を叩いている。
「ほら、うちの学校ってその…男子が女子にペア申し込まなきゃいけないだろ。お前、立候補したって聞いたけど……相手は見つかったのか?」
これ、ゲーム内での『神光』高校のルールだった奴だ。
男主人公は、一番、好感度のある攻略対象に申し込めて、女主人公には一番、好感度が高いキャラが申し込みにくるらしいって…。天匙でもだったんだ。ついでに二人三脚は男女ペアじゃなくてもいいんだよ。だって、BLもNLもあるんだもん。
「あ、当たり前ー…っ」
明らかに見栄を張っている。……どうして、そんな競技に立候補した。
片倉さんがふーんって、何かを思案しているようだ。
「写真のバックアップくらい、秋月さんに渡せば、ペア組んでくれるんじゃないか?」
ーーやだ。片倉さんが黒い。
そして、盗撮くんが私に何か期待を込めたように視線を向けてきた。
「私は、別に構わないよ。パン食いと借り物の時間に障害がなければ」
「ほんとうか!?」
運動は苦手だが、そんな事くらいで証拠の品が手にはいるなら、私には美味しい話だ。
すぐ持ってくるーっと待たせていたらしい車で去ってしまった盗撮くん。明日でもよかったのに…。いや、面倒がないから良かったのかな?
「ふむ…、これでは、私が送っていく時間がないな。太刀川。私はタクシーで行く。ルカと達也くんを頼むよ」
はい。と短く返事をし、タクシーの手配をする太刀川さん。片倉さんがなんだか尊敬の眼差しを送っている。
気配りの男同士、何か通じ合ったのかな?
神取が着たタクシーに乗って行ってしまった。まあ、頭をさんざん撫でていたから、奴も満足じゃろう。
片倉さんも盗撮くんが気になるのか一緒に残ってくれるようだが、太刀川さんにお金を渡され何かジュースを買ってきてくださいと頼まれた。
あれ?こういうの、人に任せる人じゃないんだけどな?
不審げに太刀川さんを見つめたら、太刀川さんが私に少し話があると。
「今回の、か……蓮さんの話を額面通りに受け取らないでください」
「は?」
「自分に言えるのはここまでです」
そのまま、いつもの寡黙な太刀川さんに戻ってしまった。ふむ、また、神取が碌でもないことを企んでるとか?
ハッ海外に行くって言って、私に会社を継がせる気か!?
私が黙った太刀川さんとクーラーの利いた車に乗っていると片倉さんが戻ってきて、最初に私に、
「はい。ミルクティー」
…………なんのバツゲームでしょうか?
いやいや、私、ミルクティーは、せ、セラ様を……。
「ルカさんは珈琲派ですよ」
「え、そうなの!?」
太刀川さん、ナイス!!
「あれ?そうだっけ」
片倉さんが困惑した様子で、紅茶が好きだった気がしたんだけどって。……誰かと間違っていたのかな?
でも、奢って貰ったの一回も断らなかったから、そこで誤解を招いたのかな。
じゃあって、無糖珈琲を私たちに渡し、ミルクティーを自分で飲む片倉さん………私、無心。ピンクな思考はない。
盗撮くんが早々戻ってきた。約束だからなって、念を押されながらSDカードを渡してきたが、破るつもりはないのに片倉さんが証人になってくれた。そこまでしないと信じないのか。盗撮くん。
片倉さんは、お兄さんを刺激したくないからと送られて帰るのをやんわり断り、たぶん送った先で太刀川さんがお兄さんに会って不愉快な思いをさせないためだろうと、太刀川さんが帰りの車の中で言っていた。
家に帰ったらさっそく、お父さんにパソコンを借りて、データチェックした、………いつか盗撮くんをシメなきゃいけない内容が多数。うん、ブレないキャラだ。
うんうん、私が知りたい内容はほぼ揃っていた。しかし、本当にこの盗撮の技術って何か他で役に立たないのかな。どうして、こんな角度と距離でばれないんだ。
ある程度データを纏め、印刷機でコピーもいくらか取る。うんうん、関わんなきゃ無害改め、関わり方を間違わなければ無害は、頑張って草の根活動をしよう。
「さて、寝ようかな」
パソコンをお父さんに返して、今日買ってきたヌイグルミを出す。何か買って貰ったら見せなさいって言われていたからだ。
お母さんが複雑そうに見ていたけれど、お父さんが、良かったねって言ってくれたから黙っていてくれた。お姉ちゃんも欲しそうにしていたな。リンに相談しよう。
とりあえず、藤咲(確定)に一発パンチをいれ、天使なこの子の名前を考えながら、眠りについた次の日にいつも通りの登校し、お姉ちゃんとリンとは階段前で別れたのは勘が働いたのではなく、アディーが、囁いてきたからだ。
『るか、続き?』
完璧に面白がっていやがるなーって、思いながら、女王おはよーと私を追い越して行くクラスメイトにばれないように戦闘態勢を整える。
その途中で藤咲さんと会長が会話しているのが視界に入ったが、……あとあと、ツッコもう。からかわないでくれって頼まれた方じゃないし。
教室に入る前に誰かが消しなよーっとか邪魔すんなよ。って声が聞こえてきた。ガラッと引き戸を引くと黒板消しを持って走り回る男子とそれを追いかける女子。一部の子が私に駆け寄ってきて、何かを必死に隠すように壁になった。
「おはよー、女王。これってほんと?Sっ気たっぷりですもんね。俺もよろしくされたいでーす」
クラス一のお調子者が私を茶化すように声をかけて、不興と笑いを勝ち取ったらしい。人垣の隙間から黒板を覗くと、
ーー衝撃!!女王様の乱れた交際関係!!
という題でどこで撮ったのか十数枚はある写真ペタペタと。
それを剥がそうと躍起になっている子達とそれを邪魔する日比谷さんグループと悪ふざけに乗っている連中。
泉さんを確認すると私を鋭い形相で睨みつけていた。ここまでの追い詰められ具合って……アディーか?
「あの」
「ありがとう。でも、私は大丈夫だから」
にこっと心配してくれている子達に微笑む。やだ。ぼっち返上してたのにきっと、また、ぼっちになっちゃう。ーー私との関係を間違った相手を視界に入れる。やだ、楽しそうだね。でも、ーーこれから私の独壇場だよ。
にこにこと私は教室に入り、カバンを机に置いて黒板に近寄る。さすがに私の行動を阻害しなかったが、ふむふむ、全然知らない人達とばっか写っていて、私の顔は見えないな。
あれ?これって……、
「あ、これ、昨日の写真だ」
ホテルから神取と太刀川さんと一緒に出てくる私の写真。これはちゃんと顔が写っている写真だ。それに気づいて貰えたとばかりに般若の形相だった顔を満面の笑みに変える泉さん。
「そ、それ、たまたま、わたしが」
「ほら、やっぱり、アンタはウリをーー」
「これは認めるけど。あとは泉さんなんじゃないの?」
私がその一枚をぴらっと取り外し、ひらひらさせるとーーなんで、顎が外れそうなくらいびっくりしてるの?泉さん。日比谷さん。
私が気づかないとでも?
さて、うさちゃんとの約束もないし、なんの制限もないから第二ラウンドの鐘でもならそうかな。
あ、まだHR始まってないから見学者とか野次馬が多いけど。
踏みつけられてないで良い位置に行けよ。アディー。




