悪意を形に
どうも秋月ルカです。ただいま、私、ものすごくーー怒っています。
怒りのオーラ、ウリ坊もついに炎を背負い、突進できるくらいになりそうです。
殿たちに呼び出された日は、笑顔でやり過ごしたが朝になって、三人で登校しようとしたらリンが私の顔を凝視し、お姉ちゃんは心配げに。
「今から殺人犯にでもなりに行くの?」
ーーうん。ちょっと人相の悪さは正直謝ろう。
登校したら、真っ先に隣の席にメモを滑り込ませる。味方なのか傍観者か敵なのかはっきりさせておこう。
教室内をキョロキョロと確認する。
もうそろそろHRだから生徒はもうほとんど揃っている。ただ、泉さんはいないか。彼女の席を確認するーー窓際の二列目。後ろから二番目。結構いい場所だよねー。
昨日の殿とうさちゃんの話は簡単だった。
私が放課後に体育祭の話し合いに出ていない。という話。……うさちゃんに頭を下げらながら謝られた。
意味がわからずに目を瞬いたら、私の不在に気づいていなかったらしい。
私は、私の席でずーっと突っ伏していた、もしくは寝ていた。と思っていたのだと説明された。黒髪で顔を隠していたとも。
クラス全体がそれを容認する空気だったことも。連絡ミスも認めて、夏休み明けにクラス委員長に連絡してくれと頼んでいたのだが、それに頼らず、ちゃんとHRにも話していればと、涙ぐみながら謝罪された。
……正直、あの頃ぼーっとしていることが多かったから、私が覚えてないだけかもしれないけど。
そして、いつも不在だったのは違う生徒だと思い込んでいたとも。
気付いたというよりも、私の隣の席の子が相談してきてわかった事らしい。ことが事なので、自分だけで処理できずに殿に相談したらしく精神的に図太そうな私にまず話が来たようだ。……総合して考えたら私、被害者じゃない?
えー、なんで話しが私に来るの?
「保健室から勝手に許可証が持ち出されてたみたいでな」
頭をぼりぼりと掻きながら、数枚くらいだと気づかねえんだよ。とボヤく殿にそれは職務怠慢じゃと思いもしたが、私もだいぶ混乱していた。
これって、個人でもひとつのグループでも出来ないよね。同じ空間の中で、そんな一人の不在を隠して、不在者を別な人間にして担任を騙すって……クラス全体が協力しないと出来ない。
女子に、特にミユミユの妹には嫌われてる自覚はある。
でも、男子は?そんなくだらない事に付き合うの?
「お前、賭けの対象にされてる」
煙草をくわえ、マッチを擦ろうとした殿からうさちゃんが煙草とマッチを取り上げ、それにチッと舌打ちした殿は立ち上がり窓を開けた。
「気付いた時に泣くか泣かないかってな。ーーまあ明日から何事もなかったように放課後の話し合いに参加しろ。お前ならできるだろ……まあ、なんかする気ならほどほどにな」
私がプルプルと震えだしているのに気付いた殿が、頭を押さえる。うさちゃんは、背中を擦って、ごめんなさいーーと繰り返したが、いやいや違うよ。私、やっぱりバカなんだろうね。
うんうん、騙されたよ。会長。藤咲さん。
苛められてるの泉さんじゃなくて、私か。
弟の私への盗撮で罪悪感から私に話しかけなくなったマナルンをうまく使って、ミスリードを誘う。
アディーに教えていた通り、私の思考は直感型だから直感のベクトルを少し、変えるだけで自爆する。ーー本当に自爆したから面白いね。
なにか、私がいじめられたままの方が二人に取って都合が良かったんだろうか。知ったことじゃないが。
私が、自分の無様さに大笑いしてしまう。引き付けを起こしても構わない。
一通り大笑いしたら、私は殿とうさちゃんに向かってニッコリと共犯になるようにお願いした。
最初は渋っていたが、プレッシャーをかけるだけだとお願いを繰り返すと、うさちゃんは今までの罪悪感からか、それだけならー…と了承し殿は、いったいいつ、か弱いふりができるようになるんだとボヤいていた。
「あー、アキアキ。今日は、おはようですにゃ?」
「おはよう。泉さん」
登校するなり話しかけてきた泉さんに笑いかける。うん。黒髪が腰まで伸びていて…いつから、ストレートロングに少し緩いウェーブがかかったんだろうね。私みたいだ。
まあ、私はくせ毛だけどね。
「最近、メールが来ないですにゃ。どうしてにゃ?」
「忙しくて」
気付いたのだが、泉さんは私が忙しいというと興味を持つらしい。特に一人で外出してないかとかよく聞いてくる。
ほら、餌を蒔いたらすぐに食いついてく。
「どう、忙しかったにゃ?」
「友達と買い物をしたりおしゃべりしたりして」
「……この学校かにゃ?」
「ううん、違う学校」
席から立ちあがり、泉さんにと並んでみる。うん、体格に差はない。
しかし、我ながらなんて殺伐した空気を出しているのか。ーーでも、凄く嬉しそうに出された情報を反芻している。……今までだったら嬉しかったんだけどね。
その後は、あまりクラスには居ないことにし授業が終われば、アディーの様子を見に行ってひばりんと話し込んだり、マナルンとリンに会いに行ったり、お姉ちゃんに藤咲から守って貰ったりして時間を潰した。
ーー教室に戻ると片倉さんが毎回居たが、泉さんと楽しそうに話をしていた。……うーん、片倉さんの目的がわからないぞ。
放課後になって隣の席のーー石川さんが、私をじーっと見つめてきた。メモを読んだらしい。そして、メモを返してきた。助言らしいものも書いている。
どうやら、この状況は不本意だったようだ。
放課後のHRも終わり、私は机の中の物を鞄に詰めて、教室から出ていく。ーーよくよく確認したら、私が出ていくと廊下に出ていたクラスメイトがみんな、教室に戻っていく。
うわーっ徹底している。
そのまま、私は校門前まで向かう。
石川さんのメモに私が校門から出るまでは、窓から確認していると書いてあった。
私は、校門から出て、裏口から入るという選択肢を取る。裏口は職員専用だが非常事態だ。許してくれ。
一階にある職員室を入る、うさちゃんがもういないことと作業机の上を確認する。
うん、保険医の許可証に私の名前で提出されている。やだ。まだ演技を続ける気だ。あの子。
職員室から出て、私はずかずかと自分の教室に向かう。途中で会長と藤咲が並んで話し合っている姿を確認したので、その真ん中をわざとぶつかって行く。
「おい!!」
「ちょっと、ま、」
制止の声も無視して、教室の前まできた。
教室内は騒がしく、いまだにダラダラと競技決めが進んでいないらしい。その前で何故か、アディーがにやにやしている。ああ、私の負の感情に気づいてきたのね。甘い声を頭に響かせるアディー。
どっちって。
『破滅を望む?それとも、堕落?』
私は、ふんっと鼻で笑いエキゾチック美少女アディーの頭をポンッと叩く。
アディーは驚いた顔で私を凝視したが、私はそのままクラスの戸を引く。
突然入ってきた私に教室内がざわつく。
私の席に居て、顔を長い黒髪で隠していたざわめきに気づいて彼女はばっと顔をあげた。ーー驚愕に満ちたその顔に私の溜飲はいくらか下がる。
昨日から、その顔が見たかったんだよ。泉さん。
ごめんね。嫌われてるって知らなかったから大変うざかったろうが今日で解放してあげる。そのキャラから。
私の登場にクラス全体が息をのむ。その様子に私は一人ひとりを眺めながらゆっくりと微笑み、何も言わずに泉さんの席に座る。
うん、泉さんの席ってとってもいいね。
--みんなの様子がよくわかるもの。




