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※病み主人公
「う゛~~、気持ち悪いよ。なんだか、幸せオーラを感じるよ。誰かが幸せだと泣きたくなるよ。ひどいよ。人間ってひどい」
ーーはい。私がこれから幼児の姿をした悪魔を殴っても非難しないでください。
だって、どんな人間の法もコイツを裁けないし適用されません。なので、「人権?なにそれ、こいつ悪魔」でお送りします。
まず、うずくまって泣いてるバカの頭を殴る所から始めます。
「ぎゃっ!?」
あ、可愛くない悲鳴です。なんでしょう。悪いことをしているのに悪い気分になりません。ここらに近づかないくらいのトラウマをどうすれば、植え込めるのか。私には、まずわかりません。
そうですね。例えば、
「うん。埋めよう」
「え?え?え?なんで~!?」
非難の声をあげるが、無視。
私は、微笑んだ。
あの、『リンは、私のモノなのに!』スチルを真似できれば、トラウマくらいにはなるんじゃないかと思ったが、出来なかったから。ニコニコしながら恐ろしいこと語るというリン直伝のスキルを披露する。
「ほら、君が埋まる場所なんだからさっさと穴を掘りなよ。あ、待てよ。この土地じゃなくて海外くらいに消えて欲しいから。やっぱり樽にでも入れて流すか。あー、戻ってきたら厄介だな。ーーマグロ漁の人たちに無人島に置いてきて貰えないかな。あ、君、樽のなかで喋っちゃダメだよ。ちゃんと捨ててきてもらいなよ」
「なんで!?」
「なんでってなんで?」
私は首をかしげた。この子は何を言ってるんだろうか。
パクパクと口を開いたり閉じたりする悪魔に私は、どんな手を使うべきか悩む。うん、殴った程度じゃダメだな。火あぶりか。……神社でお祓いくらいじゃ意味がないかもしんないし。
「お、お前。人間なのにこ、子供をなぐるとか、わ、悪いんだからな!」
「うんうん。君がホントに子供ならね。たしか、もう二千歳のおじいちゃんだよね」
ガーンッて聞こえた。あ、老人虐待になるのか?
「な、なんで知って…」
「は?君の情報を私が知ってるのが気にくわないなら出てってくれないかな。ああ、ダメだ。口約束は信用できない。悪魔って、何に弱いのかな。真水に弱いってほんと?」
また、ガーンッて聞こえた。そういえば、こいつ、主人公にからかわれるとこんな効果音が付くんだった。
「あ、悪魔ってなんで…」
ふるふる震える悪魔に私は、冷めた目を向ける。
「落ちこぼれなのも知ってるよー。だから、誰かを操って不幸の源を集めてようやく、魔界に帰れるんだよね。……止めてほしいんだけど。真面目に」
顔色がサーッと変わる悪魔にふむふむと、頷く。コイツ自体、契約した主人公が人を不幸にして行かなければ、力がない状態なのだ。この段階で唯一出来るのは、人の負の感情を少し増やすくらいであとは、主人公任せで、楽をしていた存在だ。最終的に『悪魔ルート』の主人公は、とあるルート以外全部不遇なエンドばかりだが、ざまあの一言に尽きる。誰も救われてはいないけどね。
まあ、契約してなかったらその能力も使えないから……非力な子供の姿をした老人か。なんか、勝てそうな気がしてきた。
「あと、真名が『アイディーリア』でしょ」
カッと瞳を見開く悪魔。あ、ヤバイ。調子に乗ったかも。
調子にのって、ゲーム知識を披露してしまった。あれは、『悪魔ルート』のとあるエンディング間際に主人公の願いを叶えられるほど、力を集めた『悪魔』に契約完了という意味で教えられるものだ。
ふるふる。ふるふる震える悪魔が……あれ。なんにも起きない。
「おーい?………えーと…?」
固まったように口を閉ざすが、体だけ震える悪魔に…あ、うん。そうだね。
私は、悪魔が小柄で助かった。急いで彼を抱えタクシーを呼び止める。財布の中身を確認する。………よし、今月のお小遣い丸々入れっぱなしだ。
服を買うために多目にもらったこの一万で行けるとこまで行ってくださいと言ってどこまで行けるのか。いや、待てよ。駅まで行って山奥に捨ててくるか。大丈夫。こいつは悪魔だ。探す身内はいない。
海に捨てるのも自由だ。………帰りは深夜になるな。うん、怒られようと私は行く。
だって、お姉ちゃんとリンを不幸にする元凶を遠い土地に捨てられるチャンスなのだ。逃してたまるか。
ここで、冷静な誰かがいれば、お前こそ犯罪者のようだと指摘されそうだが私。いま、冷静になれない。
「すみません。近くの駅まで」
タクシーに乗り込むと、その瞬間、幸せの未来への扉を開いた気がした。ああ、やった。お姉ちゃんとリンの幸せの未来図が輝いてるぜ。……ああ、待てよ。まだ『最低天使』が居たな。あれもこうやって、人目のつかない場所に……。
ガスンッ。
ん?なんだ。この音。
発車する前に聞こえたよ。運転手さんが、焦ったように車をを動かそうとするが、…ボンネットを開いて調べても原因は不明ですか。
「あー、あー、すみません。お客さん。ちょっと故障しちまったようで」
……なんだと!?
タクシーって、そういうチェック厳しいんじゃ。
「すみません。他の奴呼ぶんで待って………あれ?無線も使えない……?」
……なにそれ。
タクシーの運転手が申し訳なさそうに頭を下げ、ついで初乗り運賃無料券なる物を手にいれた。
わーい。………じゃなくて!
歩いてるうちにタクシーが来るんじゃないかと期待したが、来ない。
「こうなったら、バスだね。うん。負けない」
私は、ここから、二キロ以上あるバス停までこの虚ろっている『悪魔』を引きずるように歩く。この機会を逃してたまるかという意地だ。
息も絶え絶え、着いたバス停に時間をチェックする。ちょうど、あと五分でくるなんて、なんて運がいいのか。私は、意気揚々とバスを待つ。
………バスが時間になっても来ません。一時間。次のバスが来ても良いくらいなのに。バス停で待つ他の皆様の苛立ちは最高潮。
ぼーっとしている悪魔と手をつなぎながら、いやまさか。私のせいか。と戦々恐々している。
胃が痛くなって来た。でも、待てよ。このチャンスをどうして捨てられよう。ダメだ。
歩いてでも、コイツをせめて他県へ。
我が姉とリンのために!
決意を新たに駅まででも歩くかと腰を上げようとした瞬間、
「止めた方がいい」
は?
突然、白髪の若い男に話しかけられた。わあ、皆様がポケーッとしている。お綺麗ですものね。
しかし、貴様、何者だ。いきなり、現れた彼に梯子を外された気分になる。
白髪キャラは、老人か『最低天使』以外知らんぞ。……まさか、こいつが?
でも、私より年上そうだ。ゲームの『天使』は、子供の姿だ。まさか、この悪魔のお仲間か?
「助けに来たの?」
最大限の警戒心で相手を睨み付ければ、鼻で笑うような仕草をする。
「ああ、お前をな」
しゃべり方が『天使』だ。嫌な予感に顔をしかめると案の定舌打ちをされた。はい。『最低天使』確定。
「ここでは、目立つ。少し来てもらおう」
あ、本当にこの腹立つ感じは奴だ。
仕方ない。逆らうと後々面倒になるのは確定なので、この悪魔の手を引きながら奴について行くことにしバス停を少し離れれば、待ちに待っていたバスが来た。……ああ、変な力が動いてるんだと私は、肩を落としながら、歩幅をあわせもせずどんどん行ってしまう天使の背中を力いっぱい睨んだ。