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私がなんにもしないまま、お姉ちゃんの絵は、ただいまリンの手元に記念品と共にあります。
なんで、そんなにスムーズに行動できるの?
手続きとか、………あ、しなくちゃいけないことを自分だけでしていた場合を想像したら吐き気が。
「額縁は、学校の備品です。……マルの絵は文化祭が終わるまで学校に飾るみたいですね」
なに!?全然、知らなかった。どうしてだ。妹がしらないことをリンにばかり、キィーッ。そんなに私が頼りないか。ハンカチ咬んで悔しがるぞ!!……自業自得!?ふ、……わかってる。どん!
「ルーのお姉さんの絵?」
ハッ、光原さんが居たんだった。
えーと、ど、どうしよう。リンがピンチ?
いや、マナルンと光原さんに失礼な事を考えるんじゃない。でも、マナルンって、リンが好きで、主人公様共々監禁して。……いらん!今、ゲーム脳いらないから!!
「ルカ、返事しなさい」
「へい!」
まったく。とチョップを落としてくるリン。い、痛い。
「リンくん、るかちゃん、いじめないで」
「ああ、すみません。久しぶりなので手加減が」
マナルンがリンを注意してくれている。
「えーと、光原さん。これはお姉ちゃんの絵です」
「……うん」
何故か苦笑している光原さん。
「一緒に居た筈なのにあの時は、途中でルーが居なくなったから」
ーーあ、やばい。掘り返しちゃいけない話題だった。
なんで、光原さんのフルネームを知ってんだとか。『秋月ルカ』とか、あ、神取と太刀川さんに自棄になっていう必要のない事も言ったねー。しみじみ。
光原さんの件以外、藤咲のせいだ!
「リン、藤咲さんとの友情を考え直して!」
「断る」
お断りが早すぎるっ!
「私より友情かーっ。でも、おね、………コホン。……きっと妹になる愛でてくれ」
「……気の使い方が重いです」
私もだよ。
「いいから、僕の前では普通にしなさい」
「普通がわかりません!」
「自信満々にバカを丸出しにしないように」
マナルンが、チョップをしようとしたリンの手を抑えている。うん、有難い。有難い……のにっ!
「藤堂くんって、ルー…秋月さんの幼なじみなんだよね」
「この土地に来てから確かに一番、側に居た子ではありますけど。引っ越す前に一緒に居た奴のほうが幼なじみと言われた方がしっくりきます」
ふふん。毎日追いかけ回していたからね。迷惑がられようとも気味悪がられようとも。雨の日も風の日も。嵐の日だって、付きまとったさ。だんだん、私を仕方ないものだと受け入れ始めたリンの対応力には脱帽だぜ。
しかし、お姉ちゃんも私もリンの中じゃ幼なじみじゃないのか。がっかり。
いや待てゲームだと幼なじみ設定だったよ?
「後、僕の事は、リンって呼んでください。ルカのせいで名字で呼ばれるのが、凄く違和感になってしまって」
「はっはっはっ、ざまあ」
「……」
無言で拳を頭に置いてグリグリしないで。
むぅ。リンめ。元気になったのは良いが、少し乱暴すぎないか。
「るかちゃんとリンくんは、兄妹みたいだね」
「「……」」
……空気が気まずい。しかし光原さんが空気を変えてくれる努力をしてくれた。
「じゃあ、オレの事もテルって呼んでくれないか」
「ええ」
リンが光原さんの絵を見せて貰って、何か感想言ってるけど。
私、芸術とかわかんないからねー。邪魔とかどうも出来ないな。って考えてたら、クイックイッとスカートの裾をマナルンに引っ張られた。なんだい?
「ちょっと休憩室行こ」
リンと光原さんに休憩室いくねーっと言い残してきて、マナルンと一緒に休憩の席に座る。
よし、謝るぞ。と勢いづけたのに先をこされた。
「あのねー。わたし、リンくんが好きだったんだー」
気合いを入れた私の前に先にマナルンが口を開いた。……え?好きだった? ーーまだ、ゲーム開始前だよ?マナルンのいきなりの告白に私は混乱したし、固まった。
私が硬直したのをどう受け止めたのか。マナルンは、ジュースを奢ってくれた。珈琲だ。しかも、微糖だ。私の好みを知っててくれたことに驚く。どのタイミングで?どうして?
「ーーるかちゃんには、ふゆかいな話かもしれないけどね。一年生の時に初めて、リンくんを見て、すごく大人っぽく見えてね。あこがれたの。……わたしが子どもっぽいから」
なんで、こんな話をしてくれてるんだろ。私が困惑しているが、マナルンは話を進める。
「それでね。リンくん、やさしかったの。誰かが困っていたら、手を差しのべて。めんどうなお仕事でも、頼まれたら最後まできちんと責任を持って果たして」
それは、想像できる。なんだかんだで面倒見がいいし。ーー優しいし。
「それでね。凄く平等なの」
「ん?」
思わず、マナルンに視線を向けると、大きな目を細めて微笑んでいる。子供っぽい容姿なのに……大人みたいな笑みを浮かべている。でも、リンが平等?
結構、身びいきだよね?
「優しさが平等で、誰のためにもおこらないの。だからね『もっと優しくして』って、思っちゃった。リンくんなら、もっと『甘えられる』って、ぜいたくになるの。……でもねー。るかちゃんが、マロンちゃんを探してくれたとき、すごく、怒って、『ペットなんか連れてきちゃだめです!』って、文句言いながら、探してくれたでしょ。そのあとも、追いかけまわしてお友達になろうとしたら、毎日、楽しそうに逃げられちゃったけど。それで、そんな毎日を過ごしていたら、リンくんが、わたしに話しかけてきてーー笑ったの。そこで、わたし、この恋を諦めたの」
ん?
リンの笑い顔が魔王だったからだろうか。どうして、恋を諦めるの?
「マナルン」
「だからねー。なにが言いたいかってことかって話なんだけど」
「うん」
「……るかちゃんのおねえちゃんは、幸せすぎてこわいのかもしれないよ」
マナルンの言葉を呑み込めず、何度も反芻する。マナルンが私の困惑した様子に慌てて、うまくいえないのーっと。こちらも困惑している。
「な、なんだか。るかちゃんがまるちゃんとうまくいってないみたいだから、あの。でも、嫌いじゃなくて、なにか理由があって、ーー怖くなったのかなって」
思い当たる節がたくさんありすぎるが、でも、一番は………。
「るかちゃん。あのね。本当はね。もっと早く、言いたかったの。でも、あのね。頼っちゃダメだと思ったの」
「え」
私が、ぱちくりと目を瞬かせると、マナルンは、じわっと目に涙をためた。
「るかちゃんが、苦しい時に頼っちゃダメだって。でも、今日話しかけてくれたから。明日から、また、頑張るから」
何だろう。
おかしくないか?
マナルンの件は、会長と藤咲さんの言葉を信じるなら、マナルンが頑張る案件はではない筈だーー違うのかな?
「あ、リンくんたちが迎えにきたよ」
「うんー…マナルン」
「?どうしたの」
ーーこのタイミングでも『囁き』がない。
一つわかったことがあるので藤咲さんには、アディーの邪魔をしないように頼もう。
私が、藤咲さんにとって聡明に見えた理由は簡単だ。アディーが、ヒントになっていたからだ。『悪魔』の思惑とずれるんだから、そりゃ聡明に見えるね。
「私、明日からしつこく追い回すから覚悟してください」
マナルンに対し、私の高らかなストーカー宣言に迎えにきたリンが思いっきり顔を顰めてチョップを。ふ、ふん。痛いよーー。




