いつかへ約束 1
リンがフラれた発言に私、魂が飛んでいます。
「ルカーっ、おーい」
リンが私の目の前でパタパタ手を動かしているけれど、私はそれどころじゃない。体ががっくりと項垂れる。
ーー生き甲斐がなくなった。
人生の楽しみが、目標が!!……つつがなく暮らせない。
「孫の」
「……なんですか」
「名前をちゃんと決めてたに……」
しくしくと顔を覆って泣き始める私にリンが、チョップを仕掛けてきた。な、何故だ。
「どこまで飛躍してたんだ」
「姪か甥には大きくなっても『ルカちゃん』って呼んでもらえるように頑張るッ」
「現実から逃げるんじゃない」
またチョップが落ちた。い、痛い。
「ともかく、昨日、僕はマルに告白してフラれました。……僕は気にしませんが、少しの間は気まずくてルカが僕とマルをくっつけようとするのをマルが嫌がるかもしれませんから。少し、気をつけなさい」
と、でっかい釘を刺されながら、わたくし、秋月ルカは大変気まずい当校までの道を歩いています。
ど、どうしてこうなった?悪魔か!?……あれ。そういえば、最近、『悪魔の囁き』がないな。
運が下がったのはどうなったっけ?
ペナルティは?現実逃避のおかげでどんどん、気にしなきゃいけない事が次々とーー今日こそは、泉さんとマナルンに話しかけなきゃ!
「ルカ、ちゃんと真っ直ぐ歩かなきゃダメだよ」
お姉ちゃんが私と手を繋いで歩いている。うん、……うん。私は、チラッとリンを見つめると、頭を撫でるくらいで、……いつも、なんて言ってたっけ?
えーと、普通の会話ってなんだろ。昨日の宿題?
あ、やってない。……置いておこう。
「り、リンも手ぇ繋ごう!」
「今は他の人の通行の邪魔ですから」
クールッ!
あれーっ?私、いつも本当にどうしてたの。
教室まで二人に送り届けられ、私はようやく息ができる思いだ。
ああ、違った。えーと、居た居た。
「泉さん」
話しかけたの私じゃないよ。片倉さんだ。教室にいつの間にか入ってきていた。
泉さんは読んでいた本から顔をあげ、パッと顔を輝かせて片倉さんに笑顔を向けた。
「おはようございますにゃーっ、片倉さん!」
ーーいつの間にかキャラチェンジしてるッ!?
「おはよ。泉さん。貸したラノベ楽しかった?」
「はいにゃーっ、片倉さんがラノベ好きだったなんて嬉しいにゃん」
「そう?普通だと思うけど……ちみっこ?」
「あーっアキアキ。おっはよーにゃんっ」
「お、おはようにゃ。泉さん」
思わず、にゃ。言ってしまったじゃないか!
泉さん、昨日もメールしたよね。ちょっと硬い文面になったけど、出会ったあの日から毎日メールしてたのに。いつの間に片倉さんとー…、じゃなくて、ハマったキャラ代わったら教えてくれてたのに……な、なんかショックだよ?
「泉さんは、ちみっこと仲が良いの?」
「はいにゃ!夏休みに保健室で出会いまして。メル友にゃ」
「……そうなんだ」
え、なんで、そんな目で私を見るの。片倉さんがなんだか難しい顔で私を見ている。どうしたの?
「アキアキも漫画読むにゃか?」
「え、いいの?」
わーい。メールで何度か貸してって言ったけど、夏休み終わってから近寄るなオーラだったもんね。泉さんがどんな漫画好きなのか気になるし、あ、でも、借りてばかりはダメだから、うちに何があったかな?
うーんと、
「すみませーん。秋月ルカさん、いますか?」
おや、誰かが呼んでいる。
「はいはい。私です」
手をあげたら、にっこりとやっほーって。誰だろ。知らない男子だ。
「おい、こら佐々木!」
ひばりんがダッシュでその男子に突進してきて、一緒にこけた。
「雲雀、佐々木、大丈夫か!?」
片倉さんが廊下に走っていく。私も慌てて、着いていこうとした瞬間。……チッ、て聞こえた。んん?どこからだ?
まあ、いいや。
廊下に出れば、ひばりんが男子に絞め技を食らわしていた。き、危険だ。
「ひばりん!ギブをとったのなら、すぐ様スリーパーホールドを解くんだ!その技は危険すぎる!!」
「バカな。カウントを取るまでまだまだ油断は出来ないぜ」
「いいから。やめなさい。雲雀。佐々木が苦しがってる」
カウント希望のひばりんの為にワン!と言ったのに片倉さんに冷静に止められてしまった。……残念。
佐々木くんは、私にニコニコ話しかけてきた。ん?なんかあっちに複数知らない生徒がにやにやしながら、視線を向けてる。
「はじめまして。秋月さん。佐々木って言います」
「はい」
どうしたんだろ。なんで楽しそうなんだろ。ひばりんを後から来た生徒が羽交い締めしてる。わー、暴れてるよ?
「あの、今日の雲雀の靴下って、秋月さんが選んだって本当ですか?」
そう言われて視線をひばりんの足に向けるとわざわざ靴を脱がしてくれている。凄い。なんて連帯感なんだ。確かに私の詫びの品だった。
「お前たちは、そんな事を訊くために」
「だって、雲雀ですよ!あの、キャラものなんか恥ずかしいって言ってた雲雀が、こんな面白デザインを…っ」
「うるせぇ!佐々木!!あとで覚えてろ」
真っ赤になったひばりん。む、しまった。思春期には恥ずかしいデザインだったか。しかし、履いてきてくれるとか結構うれしいものだね。
「ひばりん」
「なに」
「ありがとう」
えへーっと、自分でもニマニマしてしまった気がする。
そしたら、ひばりんが何故かあーとかうーしか言わずにそっちを向いてしまった。うん、スリーパーホールドなんて技と羽交い絞めから逃げようとして疲れたんだね。顔が真っ赤だったよ。
「うわーっ、御馳走様です」
佐々木くんとその他の方々が何故か私に手を合わせた。何が?
片倉さんに助けを求めたら苦笑された。むむ?
朝にそんなやりとりがあった後に、私はマナルンを探して三年の教室に着たら、何故か二年のお姉ちゃんの担任に捕まった。
「秋月妹。悪いんだが、美術館に行ってお前の姉の描いた絵を回収してきてくれないか?展示が今日までなんだが、秋月姉は忙しくてな」」
「はーい」
確か、うさちゃんと噂のある先生だったな。職場恋愛か。いいなー。私も大人になったら………なかった!出会い!!
しかし、困った。あれ、結構大物だぞ?
私が、うんうん唸っていたらちょうど、ちんまいお背中が目についた。
「マナルン!!」
「ひゃ!!」
あ、逃げられた。しかし、私はここで諦めない。
「マナルン、あのね。私、今すごく困ってるんだ。助けてくれないかな」
ぴくっと、マナルンの動きが止まる。そーっと、私を窺うように振り返る。
「こ、こまってるの?」
「うん。あのね。今日、お姉ちゃんの絵を取りに行かなきゃならなくて、一人じゃ寂しいなって。誰か一緒に行ってくれたらいいのにって。あ、でも額縁つきだからすごく重いかもしれないし、…やっぱり、一人かな。」
最初は理由を付けて、一緒に帰ろうと思っていたので渡りに船とばかりにした提案だったが言ってるうちにマナルンが私より体格が小さいのと、理由付けなきゃ謝れんのか。ヘタレ!と脳内の一番厳しい奴がツッコんできた。
ごもっとも。しかし、マナルンはきゃるるんっとあのどこから聞こえるのか謎の効果音を復活させ、
「ううん、一緒にいきたい!!」
放課後になると、マナルンが何故か大きく手を振って待ち合わせの校門前に……どうして、リンと一緒なの?
「一週間部活禁止って、桜田に言われてたので」
すねた様子のリンに仕方ないよねと、思いつつ、マナルンが男でもいるだろうと誘ってくれたらしい。
「普通は、僕に最初に頼りませんか」
「部活だと思って」
「でも、そのおかげで、るかちゃんと放課後デート」
ーー誰か~~っこの人を放置していた私を罵ってください。そして、若干、リンから離して歩いている私は最低だ。お、お姉ちゃん以外に目が行くようになったらどうしよう!!って恐怖が。
リンって、今フリーなんだよ。フリーって、…やだ。お姉ちゃん以外とくっついたら末代まで呪ってやる。
うんうん、だからね。すっかり忘れてた。貴方様も賞とってたんだよね。美術館の入口の前にブレザー姿の知り合い。
「あれ?ルー」
ヤッホー、光原さん。右見て、左見て、よし。ココさんはいないのか!ちょっと残念とか思わんでもないぞ。
「えっと……誰?」
困惑したまま、リンとマナルンに挨拶する光原さん。リンも生真面目に返すな。おかしい。この展開を一番回避し続けたはずなのに。
「いえ、そちらこそ」
「ん~、だれかな?」
あ、やべ。共通の知り合い私だけか。




