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放課後、校内で藤咲さんを探すとあちらから、やってきてた。
「君って、変に行動力ないときがあるよね」
来た瞬間になんの嫌みだろうか。
「?どういう意味ですか」
「いやだって、俺から訊きたい事がある筈なのに全然訊きに来ないから」
…………ちょっと、私、思い当たる節があるけど。何故、訊きたい事があると?
「……もしかして、知らない?」
「はい?」
何を知らないんだろ?
ジーッと次の言葉を待ってみたら、藤咲さんが面倒くさそうに頭をがりがり掻き始めた。
「なんで、こんな子が聡明に見えたんだろ」
「節穴でしたね!」
あ、うっかり。
藤咲さんがパチパチと目を瞬き、にこーっと微笑んだ。……まだ、残暑なのに寒い。え、氷点下ですか?
「もう二度と話しかけるな」
「申し訳ありません!土下座でしょうか。それとも靴をおみがきしまっせ、旦那!!」
踵を返した藤咲さんの腕を掴む。離したらヤバい。今、私、この人に見放されたらヤバいと最大限の警報がなっている。三下上等!
「……旦那じゃなく君の主だけどね。」
ボソッと呟かれた単語に今度は、私がパチパチ瞬き。
「………ご主人様?」
藤咲さんを見上げながら小首を傾げる。思いの外、間延びした声になってしまったけど、藤咲さんがニヤーッと人の悪そうな笑みを浮かべる。
「なかなかいいかもしれないね。その呼び方。いっそ、そう呼ぶように『命じて』みようか?」
『命じて』?
私が、言葉を反芻しながら、考えると藤咲さんがつまらなそうにため息を吐いた。
「ここでする話じゃないね。おいで」
何故か生徒会室に連れてこられた。会長が心底不愉快そうに藤咲さんを睨み付けているというのに藤咲さんは、しれっとした様子だ。
「彼女と話がある。席を外せ」
ピシッ!てなんか聴こえた。しかし、会長もただでは済まさんとばかりに。
「時期当主同士の話し合いではないな。邪魔をしてもいい筈だな」
「彼女と『主従契約』は済んでいる。それでも邪魔する気か?『織主』でもないくせに」
堂々となんか聞き捨てならない単語が飛んでいる。ひいっ!会長。睨まないで。私も初耳です。え?『主従契約』?『織主』?
「ーーお前っ」
「ち、ちが…っうえっ?」
「俺の血飲んだよね?」
にこっと………飲んでますね。
え?セラ様、なんの助言もなかったよね。アディーも伴侶の血以外無理くらいしか。
藤咲さんがソファに腰掛ける。私にも座るように促すがーー会長、出てかないで!
「外に居る」
「盗み聞くなよ」
「死ねクズ」
この二人、殺伐しすぎて怖い。あれ?兄の方とは親しげだったような……?
天久会長が出ていった後に私は、思い出したようにソファを漁る。
「?何してるの」
ハッ!藤咲さんは知らないのか。三年は全員知ってるもんだと思ってジュースを貰おうとしてしまった。ふう…。
「……面白いネタの提供なら喜んで貰うよ?」
獲物をいたぶる猫の目付きになった!やだ。私、この秘密は墓まで持っていく。
「え、えーと、『主従契約』ってなんですか!?」
「俺の血を飲んだ事で、俺達の間で結ばれた物。もちろん、俺が主だ。ああ、人外たちは知らない外法。責めるだけ無駄だよ。人間同士だから出来ることだ。この外法は人間側が人外の血を飲んでも拒絶反応が起きてしまうからね。結局は悪魔は人間を一時的にでも主にしなければ魂を連れて帰れない」
セラ様、アディー、君たちは何を目にして生きてきたんだ。藤咲さんの方がよっぽど物知りだ!
「基本的に主の命令は絶対である。だから、『藤咲』に従う人間の内部になればなるほど、この外法を施される。通常は一代限りだが、使えると判断されれば子に『下される』。酷いときは、親類縁者までだ。契約を破棄するのは主側のさじ加減だ……怯えなくていいよ。秋月さん。リンの妹みたいな子にそこまでしないから」
貴方のそこまでが、何処までなのか判断しかねる!ーー緊急会議ーっ。は?無理無理。白旗!?それは、もう諦めるんじゃない!
諦めなければ一発逆転が、ある筈だ。
「あと、ちょっとだけなら君の考えてることもわかるよ。……せいぜんぷらすなんたらって何?」
ーーよし、降参だ!
私は諦めて綺麗な土下座の準備を始める。うんうん、諦めてへりくだって、どうにかいい条件に持っていこうか。なんで冷たい目を向けるんですか!
地面も冷たいね。
「……ソファに座って?」
「土下座で?」
「したいなら止めないけれど、した瞬間、情報をあげるのをやめる」
藤咲さんの静かな軽蔑に私は、土下座を諦めた。………したかった訳じゃないよ。
「まあ、まだ当主になっていない段階だから、微々たるものだけどね。……この前、アレ、預かったじゃない?」
アレ?……ああ、アディーか。
「同じ類に属した同士で形は違うけど契約者同士だからね。……力が共鳴し俺の能力の感度があがったのか。秋月さんの考えてる事が、遠くからでも聴こえてきてね…」
なんだか、疲れたようにコメカミを揉む藤咲さん。どうしたの?
「『ヒロイン様のからあげうまっ!』とか『ひばりんめー』とか聞こえてきたんだけど、一応、先輩として言うけど。もう少し落ち着きなさい」
ーー土下座はお好みではないらしいので、菓子折りか。
羊羮?明太子?高すぎるのは買えないよ!は、プライバシー侵害を騒ぐべきか。あ、セラ様がペラペラ喋ってなかった件について、心から詫びねば。ごめん、セラ様!
「いいから。くだらない事を考えるな。…『彼女』が消失すれば、すぐに契約を切る。それよりも訊きたい事があると有るんじゃないか」
「でも、なんでそんなことを」
「『彼女』を抑え込む為。『命じる』ことで表に出れなくしている。『彼女』も君だって教えたでしょ。だから、それだけだよ」
簡単な理由だった。……いろいろ思うことはあるが、……この恨みはいずれ。
「あ、天使の力の供給方法を!」
「知らない。次」
バッサリ切ったー。
「ヒント!」
「天使と契約された奴か寵愛を受けた人を探せばいい。次」
テンポが速すぎないだろうか。ええと、
「葛西心美さんと知り合いですか!」
「彼女の母親が俺の母親だ。次、」
「あ、はい。えーと…」
あれ?なんか今、スルーできない事言われたような…?
「え、ごきょうだい?」
え、それだと、同い年の筈のココさんと藤咲さんは双子?チッと忌々し気な舌打ちに私は、藤咲さんを思わず、見つめてしまう。それが気に食わないとばかりに藤咲さんは口を開く。
「兄弟の枠に入るなら、そうかもしれない。けれど血の繋がりはない。……俺や父との『契約』に飽きたアレが他の獲物に走っただけだから。ああ、言い方が悪かったのか。『葛西家に後妻』に入った女は、俺の『産みの親』なんだよ」
サーっと血の気が引く。考えてはいたけれど、曖昧にしたいことが確信に変わる瞬間って恐怖だ。それって、やっぱり、
「……そこまで、青い顔しなくてもまだ大丈夫。『あの女』は今のところ、秋月さんを敵だと思っていない。ただ、……ねえ、秋月さん。『ヒロイン様が嫌い』なんだよね。ーーどんな風になったとしても、秋月さんのせいじゃないって『保証してあげるよ』。どう…… …秋月さん?」
やさしげな藤咲さんの言葉は心揺れるものだが、ココさんを見捨てる選択肢はない。これがもしかしたら、ひばりんが殺されず、光原さんが主人公様にならずにココさんも普通に暮らしていけて、セラ様が消えなくて済むことに繋がるなら。やだ。物凄く欲張れる仕様じゃないか。まだ、具体的に何をすればいいのかわからないけれど………。ふふん、考えなしだけど、やるぞ。おー!
「気合いを入れているところ悪いけど頑張る程度で、どうにかなる相手じゃない。『悪魔』の種類が大幅に分けて『堕落型』と『破滅型』って、知ってる?」
「……」
「『命じる』よ?」
目がマジだ。
あ、そうか。私に下手に動かれて、機嫌を損ねたくない相手だから、こんなに情報をくれるのか。でも、『悪魔ルート』のendを見る限りどちらもあるような。
「秋月さんのアレは、どちらの力も持っているせいで勘違いしてるのかな。普通はどちらかが特化してるんだよ。秋月さんのアレは、どちらの能力も使えるのに力が微弱なのと」
藤咲さんがふっと、かすかに口角を上げる。楽し気ですね。
「人の気持ちがわからない。喋りが下手。空気が読めない。魅力が薄い。容姿だけ美しく飾ろうと、すぐに飽きられる。……アレが、もし、誰か一人でも堕落や破滅させれるなら、契約者がよほど魅力に溢れていて慈愛に満ちた頭に花畑が咲いているイエスマンだよ。ーー居るのか。そんな人間味のない奴」
アディー、言われたい放題!そして、飛び火が光原さんにまで!!
「に、人間自暴自棄な時も…」
「なんで、秋月さんがフォローしているの?」
主人公様になるかもしれない相手と知り合いだからだよ!
そして、確かにこの人には『悪魔ルート』はないわな。ここまで、アディーをお分かりですから。あれ、もしかして、藤咲さんの『天使ルート』って、攻略したんじゃなく、攻略されたとか……?はっはっは…ありえて怖い!!
「参考までに言うけど、あの女は『破滅型』だよ」
「……ありがとうございます」
喉がヒリツく。多分、優しげに微笑んでいるけれど、藤咲さんからどす黒い何かを発しているからだろう。でも、こんなに質問に答えてくれる機会も少ないんじゃないだろうかと、私は質問を続けることにした。
でも、何から訊こう。あ、そういえば 『織主』って、なんだろ。いきなり訊くのもなんだし、よし、軽い話題から。
「藤咲さんって、どうして会長と仲が悪いんですか?」
「ーー訊きたいの?」
室内が一気に氷点下です。皆様、わたくしはとんでもない地雷を踏んづけたようです。
そこ、白旗を渡すんじゃない!!




