確執が生まれた理由 1
リンが倒れているのに最初に気づいたのは、お姉ちゃんだった。
リンが自宅に戻ったのを見送った私は、そのまま寝てしまったけれど。
お姉ちゃんは、リンの家の明かりが消えるまで、自室で起きて見ていたらしい。
何時間たっても玄関の明かりが消えず、二階の私室にも明かりが伴わないことにそっと外に出て確認に行ったらしく、リンが倒れていることに気づき、自分一人ではどうにもならずにお父さんとお母さんを呼び起こし、最初は救急車を呼ぼうとしたらしいが、三人の声で意識が戻ったリンが嫌がり、今はうちにある部屋で眠っている。
リンの親に連絡を取ろうとするお父さんにリンは連絡先を教えるのを拒否した。来れないのだと、くり返すリンにお母さんは、子供の大事に来れないなんてと憤慨したが、お父さんはわかったと、何かを飲み込んだように頷いた。
そういえば、リンがほぼ一人暮らしのような状況に誰も疑問を持たずによく今日まで来れたんだろう。
うちだけなら、ともかくご近所の人たちだって、リンが一人暮らしで、親が参加するべき付き合いを参加しなくても、誰もリンの家の悪口を言わなかった。
考えれば、おかしい。
そして、私は見たかった筈のお姉ちゃんがリンの看病をするという恋人らしいイベントをまったく喜んでいなかった。くるしげなリンを見ると自分の無力さ苛立ちを覚える。お姉ちゃんがタオルをこまめにかえる様子に自分が代わるよと申し出ることさえ出来なかった。
「………リンくん」
お姉ちゃんが熱の下がらないリンの側にできる限り居るようにしている。
私は、その回りをうろうろしているだけで役に立っていない。寝ずの看病をしていて、目の下に隈がうっすら出来上がり始めている。……お姉ちゃんまで倒れたらどうしよう。
学校を休みたいのにお父さんが許してくれず、車で送られてしまった。
「ルカは、家に居ても落ち着かないだろ」
まったくその通りだが、学校も落ち着かないんだよ。
「リン君は、お母さんが看病するから。マル、……具合が悪そうだから、今日は休ませる」
……大人だ。私、生前の記憶があろうと何にも出来ないポンコツだった。この差はどこから出るんだろう。朝、すっきり起きた分、罪悪感が……。
「ルカは、元気でいなさい。その方が皆、安心する」
お父さん!!
頭をなでなでをされ、去っていくお父さんに手をふり、……学校か。問題が山積みでそれはそれで困る。
「リンが帰ってきたって本当?」
リンの親友二人の登場に私の教室がざわついた。
「おはよ。ちみっこ」
「おはようございます。片倉さん、藤咲さん」
「ああ、ごめんね。おはよう……ルー?」
何故、胡散臭い笑みを浮かべ、それで呼んだ!セラ様か。セラ様情報か!?
どこまで喋った。
そして、ざわつくな教室内。殺意はいらんぞ女子ども。ーー片倉さん、誤解しないで。
「止めてください。それはある意味特別な方の為の呼び名ですから」
「ああ、ヒロイン様だっけ?確かに彼女はヒロイン様だよね。傲慢で不遜が許された存在だ」
……ニヤニヤしながら、おおう。セラ様が喋りすぎてる事に恐怖を感じる。アディーを返してもらうためにどんな取引が。しかし、藤咲さんはココさんと知り合いなのかな?金持ち繋がり?
んーと。
「……昨日、メールが十五件着ました」
藤咲さんが目を丸くする。今の話に関係があるのかという顔だ。ふ、甘いな。
「一件目は用事でした」
「そうだろうね」
「二件目は返事が三十分後だった件を責める内容」
どうした、藤咲。何を固まった。まだ序章だ。
「三件目は使った絵文字が気に入らない」
片倉さんまで微妙な顔をして来た。
「四件目は顔文字にしたところ、絵文字を注意したのに何故いかさないのか」
顔を覆わないでください。被害者は私です。
「まあ、そんなやりとりを繰り返し最終的に怖いと送ったら、……たっぷり、二時間たってから、『謝ってやるから。着拒否はやめなさい』……傲岸不遜ですね。ココさんは」
片倉さんが、ココさん?って首を傾げ、藤咲さんが分の悪さを悟ったのか視線を反らした。勝った!……むなしいけど。
「ちみっこをルーって呼ぶの、テルもだよね」
片倉さんが、にっこり微笑んだ。ーーあ、そうだった。
「テルが、特別なのかな?」
お兄さんに相談しないーっ?と意地の悪いことを言いながら、頬を突っつかないでください。
それにしても片倉さんの中で、光原さんの評価が変わったのかな?友達同士みたいだし、心配の種が減るならうれしいかもしれない。
藤咲さんがそれを不思議そうな表情で見、首を傾げる。
「片倉、随分余裕なんだな」
「違うって」
バカだなと、笑い会う二人のおかげで悪目立ちなのですが。……あ、泉さんが私に視線を向けて、ーー反らした。まだ、硬派キャラなのかな?
リンが熱を出して、まだしばらく学校にこれない旨を伝え、お見舞いをするなら、今はうちに居るし、熱でうなされている事も伝えると二人は了承してくれた。
「まあ、リンが帰ってきたなら、しばらくは大人しくするよ」
そういえば、リンが留学してから私に関わってきましたよね。藤咲さん。
「『お兄ちゃん』が帰ってきて良かったね。秋月さん」
にこっと、微笑む片倉さんについ、ポーッとなったが……どうせ妹だもん。
へっ、騙されてたまるか。モテ男め。
ーーいや、待て。ある意味、美味しいかもしれない。この位置を確立し、片倉さんに毎日愛でて貰える立場にーーどうだね。諸君!人の気持ちにあぐらを掻く最低行為であります!!……よし、今の発言取り消し!
「ふう、巨悪は絶たれた」
やれやれと額を拭うと藤咲さんが呆れ顔で。
「秋月さんって、たまにとんでもなくくだらない事を考えてる顔してるよ」
「……ちょっとだけ」
片倉さんが同意したー。
待って、片倉さんの為に行った脳内会議だよ?
ホームルームが始まる前に二人は去っていった。……なんだか、不穏な空気を感じるけれど、気にしたら敗けだ。それらは空気。あ、空気はないとしんじゃうんだった。じゃあ、……いい例えが思い付かない。
「……で、あるからして」
社会の先生の睡眠電波に耐える。……あ、前の生徒は逝ったな。イビキは自分じゃどうにもならないか。……たまーに声が聴き心地のいい人って居るよね。
ん?横から紙が流れてきた。……隣を見たら、しまった!という顔をされた。ふむ…。読まずに送り返すと、何故か申し訳なさそうに手を合わせ謝り、机に閉まった。回さなくていいの?
そのまま授業が終了し、睡眠電波に耐えきった充実感に感激していると隣の席から、紙がまた回ってきた。……読めってこと?と視線を送れば、こくこく頷かれる。
まあ、ラブレターかしら?と、軽くへらーっと愛想を売っておく。……視線を背けやがった。どうしてくれよう。
冗談はともかく、紙を開いてみると、
ーー秋月ルカは、天久俊平と藤咲葵の専属女って、紙が回っていたんだよ。
と、わざわざ字面にし教えてくれた隣席の子に私は、お礼の返事を書きつつ、滝のような汗をかき内心恐怖を感じた。
どこの誰だーっ。寝ようとしている虎を突っつく自殺行為をしているアホは。




