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お昼も多少過ぎた頃に葛西さんが、どこかに連絡したかと思ったら、知らない人がなんか持ってきた。……お弁当らしい。そういえば、ヒロイン様ってご令嬢だった。使用人だったのかな?
「どうぞ」
シートを敷いて、遊園地の隅っこでお弁当だー。わーい。
「はい。月夜」
皿にひばりんの分を盛っていく葛西さん。さりげに隣に座ったね。私?葛西さんの隣で光原さんも隣……正面のセラ様ーっ、私、そんなに飢えてるように見えるのか!?
「ほら、野菜も食え」
「からあげ、食べる?」
ひばりんは、葛西さんに構われ、セラ様と光原さんにどんどん皿にご飯を盛られていく私。……あ、皿から落ちそう。
「ほら、何が食べたいんだ」
「……玉子焼きです」
ちょうど、葛西さんが持っていた。私の皿にはない。ジーッと見つめたら、
「仕方ないわね。口を開けなさい」
葛西さんにはい、アーンッてされた。わーい。もぐもぐ。
「……ほら、からあげも」
また、アーンッてされた!もぐもぐ。
……何故、みんな、私にアーンッてし始めた!?
「……うちで飼ってる犬を思い出したわ」
「オレは、金魚かなー」
「昔、餌をあげた野良猫がこんな感じだった」
なんか失礼だ。
「いまは、リスだな。詰めすぎだ」
セラ様がお茶をくれた。ご飯、おいしい。……痩せた五百グラムが元に戻ってる気がする。………増量って、誰かが呟いてる。き、気のせいかな?
「葛西が作ったのか?」
「そうよ。これくらいは出来なきゃね」
ふふん、と胸を張る葛西さんにセラ様は頷き、私をジーッと見つめ……溜め息。なにその反応!?
「ママが、教えてくれたのよ」
……なんだろ。美味しさが半減した気がする。
ひばりんが苦々しい顔したせいかな?
光原さんが苦笑して、空気をかえようとさらに私にアーンッしてくる。……食べるさ!昔の偏食気取りはどこいったんだろうかってくらいに!!
「よく食べるわね」
「おいしいからです!」
そこで、何故か頬を赤らめる葛西さん。
「そ、そう?ま、まあ聞き飽きた賛辞だけど?」
「うん。本当に美味しいよ。心美」
やだ。私が光原さんに誉められた訳じゃないのに隣だから、色気にやられそうな笑顔だぜ。よく、これに無反応でいれるね。葛西さん。きんぴらごぼうも美味しいね。
「……太るわよ」
ーーなんですと!?
私が、慌てて箸を置こうとしたら、光原さんがまたアーンッて。なんねん!今の話の流れはどう考えても食べるなってやつでしょ!?
「美味しいよ」
空気読め!
「今、控えたところで、どうせ、誰かに餌付けされるんだ。諦めろ」
セラ様が辛辣です。
「えーと、秋月。……デザートは?」
「そうね。ゼリーがあるわよ。食べなさい」
ヒロイン様が命令系だ。
「ほら、テルも家に帰ってもどうせコンビニのお弁当でしょ。自分でたまには作りなさい」
「……うん」
「母子家庭なんだから、自分でどうにか出来るところはしなさい。まったく」
「心美!」
ひばりんが慌てて葛西さんの名前を呼んだ。
「な、なによ」
「……秋月とセラさんの前」
あ、と口を押さえる葛西さん。……私、知ってたよーって言えない。セラ様もスルーしてる。これって、どう反応すべきかって、相手次第な所もあるからな。ゲームのときは主人公である光原さんは、気にしてなかったけど。今は気にしてるのかな?それとも周りの気遣い?
しかし、変な空気になってしまった。流れを変えよう。
「光原さん、お返しにアーンッ」
差し出した唐揚げに光原さんがぱちくりと目を瞬いた。え?なんで、びっくりしてるの?
……ひばりん、なんで、ショックそうな顔してる。
「あ、アーンッ?」
私、皆にたくさんアーンッされたよね。なのに私からはしてはいけなかったのか!?
なんてことだ。赤っ恥!
思わず、唐揚げを引っ込めそうになった私の手を光原さんが掴むと、そのままパクリと…、もぐもぐとお食べにごっくん。ーーあ、そこで笑顔ですか。ま、眩しい。
「ごちそうさまでした」
「あ、……ひゃい」
こちらこそ。とお礼を言い、何故、礼を言ったんだろ。自分!?と自己ツッコミ。……ひばりんとセラ様にもアーンッして、葛西さんには断られた。なんて日だ!
「そういえば、貴女、頭にヘアピンしてるけど、子供っぽいわね」
えーっ全国で売られてるひまわりヘアピンに謝れ!
「少し、自分の容姿に気を配りなさい。せっかく大人っぽい容姿してるんだから…」
そう言って、私の髪をいじりだす葛西さん。
「……髪、どこで切ってるの?トリートメントは?」
あ、最近は神取のおかげで床屋に行ってなかった。新しく探さなきゃいけないのに。
「近所のお婆ちゃんのお店で切ってました。百円くれたの。あと、待ってる間、お惣菜出して食べてていいって!」
「なに、百円と食べ物で懐柔されてるの!?バカなの。もう美容院に行きなさい!」
「そうなんですよ。お婆ちゃんもよる年波に勝てなくてお店、閉めるんですよ。いいとこ、知りませんか?」
「……テルのお母さんの店に行けばいいわ」
なんで、がっくりと肩を落とすんですか。あ、みつあみだー。私、上手に出来ないんだよね。
光原さんに視線を向けたら、くすくす笑われた。
「お惣菜と百円のサービスはないよ」
「衛生的にある方が問題なのではないか?」
セラ様のツッコミがきつい。
「あと、服が地味ね。もう少し、……何よ」
「いえ、……お姉さんだなと思って」
ーー何故か葛西さんが嬉しそうに、しかし、やはり偉そうにいい放った。
「あ、貴女が少し子供っぽいのよ!そ、そうね。今度、着なくなった服をあげるわ。暇があえば一緒に服を選びに行ってあげる」
なんだろ。どんどんおかしな方向に話がいってる。ひばりんに視線を向けたら、苦笑で返された。どうしたの?
「貴女、一人っ子?」
「お姉ちゃんがいます」
何故、あからさまにがっかりした。
「ふ、ふん…まあ、いいわ。今日は、まあまあ楽しかったから。また一緒に遊んであげてもいいのよ」
セラ様、今日、まだ終わってないよね?なんで、意地の悪い顔してるの?
「それはいい。是非、そうしろ。ほら、アドレス交換というものをしてはどうだ」
最低天使!?
「し、仕方ないわね」
いそいそと携帯を取り出す葛西さん。……こ、断れない。
「貴女は?」
「残念ながら、持っていない。次回に」
「そう、……次にね」
セラ様、うまく断ったね。私、泣くぞ。
「テルも交換してたら?何かあった場合、こんな子のでも必要でしょ」
……私、ここまで言われてなんでアドレス交換してるの?ひばりん、ちょっと、……あ、ひばりん、携帯まだなのかな?
ーー交換してしまった。そして、葛西さんが何故かガッツポーズをしている。
「は、はじめて、おないどしくらいのどうせいのあどれす…っ」
ーーん、なんか聞こえた!?
しかし、すぐに気をツンッと済ました感じに戻った。
「ふ、ふん。貴女何年?」
知らんで一緒にいたのーっ!?
「い、一年です」
「そう、あたしは三年よ。あたしのほうが年上ね」
知ってます。何故、そこでそわそわと視線をさ迷わせている。え、スカートをぎゅーっと握ってたかと思えば、今度は私の手をぎゅーっと握って。
「ーーお、お姉さんってよんでもいいのよっ」
それは、さすがにお断りして、ココさんとお呼びすることになった。




