2
ところで、ここで泣くのおかしくね?ってタイミングで泣いてるせいで、片倉さんに謝られた。
何故でしょう。私が謝るならわかるのに。
別にそんなに怖かったとかじゃなくて、えーと、……えーと?
自分で泣いてる理由がわからなくて、びっくりして涙が引っ込んだ。なんて迷惑な女だ私。
「片倉さん、涙が引っ込みましたから大丈夫です」
二、三度瞬いたら、大きな粒が流れたが、それ以上はなさそうだと安心していたら、片倉さんが手の甲でその大きな粒を拭ってしまった。
あんまり自然にそうされたのでびっくりして、ハンカチを出すタイミングを逃してしまった。
「……誰かと待ち合わせ?相手が来るまで一緒に居ようか?」
やだ。片倉さんの優しさが痛い。
……藤咲さんと待ち合わせってバレるのなんだか、やだな。とか考えていたりする。
あれ、なんでだろ?
「片倉さんも誰かと待ち合わせですよね。デートなら私と一緒にいたら勘違いされるんじゃ…」
片倉さんが物凄く嫌そうな顔をした。どうしたの。
「待ち合わせ相手は男で、ね…電話が通じやしねえ」
ふっふっふっと不穏な空気を纏う片倉さん。なんだか後ろに発生しそうな予感が……。
「まったく、誘っておいて。アオの奴め」
髪をかきあげ、心配させるなとぶつぶつ文句を並べる片倉さん。……ん?アオって、
「片倉さんの待ち合わせ相手って、藤咲さんですか?」
嫌な予感に私は、慌てる。
待てよ。そうだ。藤咲さんは私と一緒に片倉さんに謝罪してくれる約束を…そうなると、この服装って正しいのか。
TPOを弁えて制服くらいの勢いで謝罪しなければならないのではないか。いや、待て、じゃあ奴は何故来ないんだ。まさか、これも罠か。
ーーくそ、油断した。やはり不幸の手紙か。
「……秋月さん、すごい顔してるけどどうしたの?」
「我が身の愚かさを嘆いております。私も藤咲さんに騙された身です」
「へ、へー…」
ぷくぷくと頬を膨らませて怒りをアピールすると、苦笑された。何故だ。私は怒ってるぞ。
「秋月さん、もしかして、アオと待ち合わせだったの?」
「……認めたくないッ」
「いや、それはもう認めてるよね」
クスクスと、デートのつもりだった?とか片倉さんがからかってくるのが腹立つ。
「違います!あの、腹黒に不幸の手紙を頂きしてね、来ても、来なくても不幸になりそうで」
証拠の不幸の手紙を取り出す。何故持っているかと言えば、自宅で捨てたりなんかすると家族が不幸になりそうだからだ。
ーーあの男は信用できない。
私は少し用心深くなった。不幸の手紙を確認して、片倉さんが首を傾げた。
「……アオには、アドレス教えてないの?」
「当たり前じゃないですか。誠意のなさそうな男を信用しそうにないって言ったの片倉さんでしょ。私、藤咲さんにそれを感じま……」
何故、そこで破顔するんですか。一瞬、ポケッとしてしまった。スゴいよ。この人、リンや藤咲さんと違った意味で心臓に悪い。
「『端々の誠意は感じ取っている』みたいなだっけ?」
本当に嬉しそうに笑う片倉さんにこの人、なんで軽いキャラを保ってるんだろ。と疑問に感じる。
私がジーッと片倉さんを観察していると、片倉さんが携帯を取り出す。振動で誰からか電話かメール…、
「………アオ」
もの凄く怒ったような声で電話に出た片倉さん。
なんだか、謝ってるのかよくわからない笑い声にくぐもった藤咲さんの声が漏れ聞こえる。出来れば、私にも代わってほしいので待ってみる。
チラチラと私に視線を送り、それは迷惑だろ。とか女の子と行く場所じゃないとか…そんないかがわしい場所に行こうとしていたらしい藤咲さんと片倉さんの好感度が下がりそうです。
ん?…いかがわしくなくても、女性が行きづらい場所も考えてみろだと!?
なんて難題を示してくるんだ。ーーんーと、ホワイトハウス?………誰かが私にがっかりしてる!?ち、違うんだ。ボケただけだ。そう、あの……、ダメだ。ボケようと思うと思考が……くそ、これで勝ったと思うなよー。よー(エコー)
……たまに冷静になると私はいったいなにと戦っているんだろうと不安になる。
「秋月さん」
あ、電話切っちゃってた。
え?何度も確認したのに私が何かと戦っていたせいで、藤咲さんが飽きて切っちゃったと。………あの男は!え、自業自得?……ふ、今回は見逃してやろう。
「秋月さん、また意識飛んでるのかな?」
「なんだかヤバい薬やってるみたいに言わないでください」
「いやだって。そんなにボーッとしてたら危険だよ。……で、アオは来ないって」
はい?
きょとんとした私を見て、片倉さんも頭を抱えながら、
「ここにとあるラーメン屋のチャーシュー麺・ライス・餃子付きのタダ券があるんだけどね」
「はあ…?」
羨ましいですとしか言いようがないが、それがどうしたんだろ。くれるんだろうか?
「アオが二枚くれててね」
「一枚くれるんですか!?」
我ながら、なんと図々しいが、しかし、もらえるなら是非ほしい。と飛び付いてしまう。くふふ。ちょうどお腹も空いてきたところだ。是非、タダ飯を………げふん。ーー食べたいね!
「タダ飯!」
「秋月さん、本音がタダ漏れすぎて逆に清々しいよ」
はっ、間違って口から本音が。
女子力の低下が甚だしい。呆れたようなそれでも、楽しげに笑う片倉さんが、時計をチェックする。
「少し時間的に早いかな。何か用があるなら、付き合うよ」
「え、片倉さんが行きたい場所に」
「いや、オレ、今日はアオに付き合うつもりで来てたからあんまり予定が。服とか雑貨とか見たくない?古着とか近くに良い店知ってるから教えるよ」
にこっと何故かファッション系の場所ばかりに誘導されている気がする。うん、今日の服が似合わなかったんだろうか。やはり、ショックだ。しょんぼり。あ、そうだ。
「ひばりんの好きそうな系統の店知りませんか?」
「雲雀?…うん、知ってるけど。どうしたの?来月誕生日だから下調べ?」
片倉さんのなんでもないといった感じの情報に私は衝撃を受けた。
「ひばりん、来月た、誕生日!?もしかして、おとめ座!!」
「え、えーと…そうかも?」
微妙に自信がないらしい片倉さんに日にちを訊くとやはり、おとめ座。
「いいなー。だから、あんなにかわいいのか」
「かわっ!?」
ごふっと、咳込む片倉さん。どうした。おとめ座は…なんか可愛いじゃないか。
「そっかー、そっちのプレゼントも用意しなきゃいけないのか。でも、今回はお詫びの品なんで、手堅く行きたいので片倉さんの輝くセンスを貸していただきたいのです」
「……ッ、ちょ、と、落ち着くまで、まって」
何故、口元を押さえているんだろう。なにかしら納まったらしい片倉さんが、じゃあと提案してくれた。
「やっぱり、お昼食べてから探そうか。ここから少し歩いた所にお勧めの店があるから」
「はーい」
じゃあ、行こうかと歩き出した片倉さんがいきなり、足を止めたので何事かと首を傾げると、私に向き直り頭を撫でながら、
「言い忘れてたから」
なにを?と連想できていない私ににっこり笑いかける。
「ふつうに喋れて良かった。あと、今日の服好きだよ」
ーーどうも、秋月ルカです。
私が次に記憶を繋いでのはラーメン屋の前でした。何故か、片倉さんと手を繋いで歩いていました。
このひと、もしかして、藤咲さんより質悪いかもと恐怖を隠せません。藤咲さん、今からでもいいんで合流しませんかあ~!?




